モンブランの最高級メカニカルペンシルという矛盾【モンブラン マイスターシュテュック ソリテール シルバーファイバーギョーシェ 比較 レビュー】
皆さんが使う筆記具のメインはボールペンでしょうか万年筆でしょうか、それともメカニカルペンシルや鉛筆でしょうか。
新年度になって間もなく一ヶ月。
今年度から社会人になり、日常使う筆記具のメインがシャープペンシル(=メカニカルペンシル)からボールペンへと変わったという方も少なくはないかと思います。
学生時代は間違いを書き直せるように鉛筆~メカニカルペンシルを使い、社会人になると書類などで仕事の軌跡を残すために消すことができないボールペンや万年筆が主流になります。
一般的な企業に勤めているとそれが顕著で、日々の仕事において鉛筆やメカニカルペンシルを使うことは趣味の世界以外ではほぼなくなってくるのです。
すなわち日本に住むほとんどの人は、大人になるにつれメカニカルペンシル(黒鉛の利用)から離れて、書いた文字が消せないボールペンや万年筆に移行していくと言っても過言ではありません。
しかしどういうわけか、大人になって使うであろう高級筆記具の世界には万年筆・ボールペン・ローラーボールに併せて、必ずと言って良いほど「メカニカルペンシル」がラインナップされているのです。
大人になるにつれて日常的に使うことが少なくなるメカニカルペンシルが、(一般的には)大人になってやっと自由に買うことができるようになるという矛盾。
筆記具をコレクションしている方は別ですが、高級筆記具のメカニカルペンシルの実働ニーズがどれほどあるのか疑問ですが、ラインナップではお約束と言っていいほど毎回出されるのが現状。
今回はそんな矛盾が形となっている(と思える)モンブランのメカニカルペンシルについて。
モンブランにもエントリーモデルという位置づけの筆記具はありますが、それでも大体のモデルは高く高級筆記具として名高いです。
歴史が古い(というよりラインナップとして長く続いている)マイスターシュテュックというモデルにおいてもノーマルな物から特別生産品のソリテールなど幅があり、例外なくメカニカルペンシルが用意されているのです。
そんな過去の特別生産品から、
「マイスターシュテュック ソリテール #164 シルバー ファイバーギョーシェ メカニカルペンシル」を見ていきたいと思います。
▲愛用のモンブランメカニカルペンシル用ロールペンケース
左から、マイスターシュテュック#167、マイスターシュテュックソリテール#164 シルバーファイバーギョーシェ、マイスターシュテュック#165、Pix#172、アレキサンドル・デュマ。
ロールペンケースは土屋鞄製造所のトーンオイルヌメロールペンケース(ネイビー)。
ソリテールとソリテールドゥエの違い
モンブラン マイスターシュテュック#164・#165の上位モデルにはソリテールとソリテールドゥエがあります。
ここではその違いは何なのかということについて書いていきたいと思います。
簡単に結論から言うと、ソリテールは総金属製、ソリテールドゥエはキャップに金属×胴軸にプレシャスレジンが使われている物を指します。
もちろん総金属製であるソリテールの方が値段設定が高く、メーカーの希望小売価格は10万円を超えてきます。
うーむ、10万円の筆記具でも100円の筆記具でも書くという道具には変わりなく、その目的はどちらも果たせる物ではあるのですが、これが高級筆記具の奥の「深さ」でもあるのでしょう。
私とて一般市民ですのでおいそれと手が出る額ではありません。
ハッキリ言って個人的に一本の筆記具に10万円以上はどうなんだろう…と考えるタチですが、純粋に富裕層をマーケットとしたモンブランのコレクションだということでしょう。
ソリテール(solitaire)は素材の貴金属を表し、モンブランの筆記具ではスターリングシルバーやステンレス、ゴールドといった素材を意味します。併せて、キャップには高価な異素材との組み合わせが楽しめるものもあります。
ジオメトリックディメンション等 斬新で趣向を凝らしたデザインはまさしくモンブランの上位モデルたる出来映えで、個人的には憧れの一本ですね。
一方、ソリテール ドゥエは文字通りdue(=2つの)という文字が付くもので、2つの素材(貴金属×レジン)のことを表していると考えています。
dueというのはイタリア語(?)になると思うのですが…、solitaireはフランス語でdueはイタリア語。
そして製造(メーカー)はGERMANYというヨーロッパ連合的な筆記具ですね。
もしかすると、ブランド名であるモンブランの由来である「モンブラン山脈」がフランスとイタリアの国境に位置していることから、このような他国言語が混ざった名前になっているのでしょうか。
完全に考察なので正確性はありませんが…。
こうした名前の由来や生産背景を考えてみるのも筆記具の楽しみ方の一つかも知れません。
ということで、手元にあるソリテールはシルバーファイバーギョーシェのペンシル1本。
右の3本はソリテール ドゥエ(ボールペンとローラーボール)。
キャップの部分はソリテールもソリテールドゥエも同じですが、総金属のソリテールは重量と筆記バランスが異なります。
ぶっちゃけて、握った時のグリップ感はソリテールよりもソリテールドゥエの方が良く感じます。
素材はシルバー925ですが、彫刻のないつるんとした表面処理のため手が乾燥しているとやはり滑りやすいのです。(夏場は良いのですが、冬場が…)
そう考えると、改めてモンブランの指に吸い付くような感触のプレシャスレジンは筆記具に向いた素晴らしい素材だと言えます。
キャップリングの部分は通常のマイスターシュテュックは黒いライン(ゴールドのリングもしくはプラチナのリング)ですが、ソリテール/ソリテールドゥエは同素材かモデルによってゴールドプレートとなっていて高級感が増し増し。
ペン先のデザインもレジンと金属の組み合わせのドゥエと違い、ソリテールはシルバー925やステンレスが胴軸からペン先まで続きますので筆記具全体を見て金属感に溢れていますね。
メカニカルペンシルもボールペンも、このようにペン先に短いラインが入っている程度で非常にシンプル。
うーむ、このラインはもう少し長めに取ってある方がデザインのバランスが良いように思えますが…。
ソリテールシルバーファイバーギョーシェのデザイン
さて、それではマイスターシュテュック ソリテール シルバーファイバーギョーシェのデザインや刻印などのディティールをじっくり見ていきましょう。
まずは特徴的なそのキャップのデザインから。
シルバーファイバーギョーシェは文字通り、シルバー925とギョーシェ(ギロシェ)パターンのエナメルがストライプに配置されたクールなデザイン。
筆記具にストライプ、それもブラックとシルバーの組み合わせのストライプが使われていると誠実かつ引き締まった印象を受けます。ビジネスに持って来いのカラーバランスですね。
ギョーシェのエナメル部分を拡大してみました。
光の反射でギョーシェ模様が浮かび上がる、何と控えめで美しい造りでしょう!ストライプはまるでヨーロッパの王冠のような、威厳も感じるデザインです。
クリップの横には素材を表す「Ag925」の刻印とホールマーク。
スターリングシルバー製のソリテールではお馴染みの位置です。
キャップリングはマイスターシュテュック共通の刻印「MONTBLANC-MEISTERSTÜCK-」。
素材がシルバー925のため、硫化により文字の中のストライプもクッキリしています。
この精密感のある彫りが堪りませんなあ。
クリップの裏には「Pix®」の刻印。
このモデルは比較的新しいモデル(2000年代)ということもありこの刻印が付いていますが、手元のソリテールスターリングシルバー ボールペンは「LAITON」の刻印となっています。
クリップリングには「シリアルナンバー」「GERMANY」「METAL」の刻印。
こちらもソリテール/ソリテールドゥエではお馴染みの、製造国・個体識別番号・素材の刻印となっています。
ただ、この中の「METAL」の刻印はキャップの素材がステンレスのモデルには付いておらず、シルバー925やバーメイルのモデルのみとなっています。
そして、モンブランの筆記具といえば「ホワイトスター」。
この筆記具の天冠に鎮座する小さなホワイトスターに魅了された人は数知れません。
ソリテールやソリテールドゥエは一般的な#164や#165と同じサイズのレジン製ホワイトスター。
これが更に高価な限定モデルとなると、マザーオブパールやダイヤモンド製になってきます。
(本当に一部のモデルのみですが)
ついでにこのホワイトスター。
クリップに対しての位置は決まっておらず、傾いているものがほとんどです。
写真のものはクリップに対して左に傾いています。
メカニカルペンシルやローラーボールや万年筆のホワイトスターは工具がなければ天冠を外せない構造のためホワイトスターの位置の調整は難しいのですが、ボールペンについては構造上 手で捻るだけで簡単に外せる(回せる)ため、クリップに対して真っ直ぐに直すことも可能なのです。
ペン先は先ほども見たとおり、1本のラインが入っているのみ。
左は普通のマイスターシュテュック#165、中央がソリテール、右はソリテールドゥエのペン先。
モンブランの筆記具のデザインで面白い点は、メカニカルペンシルのユニットの先がまるでボールペンの先のような形状をしていること。
ペン先を出したボールペンとメカニカルペンシルのペン先は見た目がほぼ同じとなります。
モンブランメカニカルペンシル内部機構の比較
続いてはメカニカルペンシルの内部構造について、ソリテールと通常のマイスターシュテュック#165を比較してみます。
▲左から、マイスターシュテュック#165、マイスターシュテュックソリテール シルバーファイバーギョーシェ
キャップを外したところ。
数万円の価格差がある2本ですが、内部構造は全く同じ。
キャップ回転ノック式のメカニカルペンシルです。
手元の個体は大丈夫ですが、この繰り出し機構の黒い樹脂部分は劣化により亀裂が入るという代物で、耐久性はイマイチ。※亀裂が入っても普通に使えます。
おそらく経年品でも必要以上に力強く回転させたりしない限りは亀裂が入るほどの負荷はかからないと思いますが、取り扱いは優しく丁寧に行いましょう。
回転繰り出し機構を外すと中からペンシルユニットを出すことができます。
手元のペンシルユニットは3種類。(中に入るのは1本ですが…)
左から0.5mm、0.7mm、そして0.9mm。
この0.9mmのペンシルユニットは2020年末の記事で紹介したとおり、0.7mmのペンシルユニット改造です。
アレキサンドル・デュマに入れて使っていますが、もちろん同じペンシルユニットを使う#164のモデルにも使うことができます。
他のメーカーのモデルと違ってペンシルユニットであることのメリットは、こうしてユニット交換で芯幅を変えられるところでしょうか。
モンブラン以外でもこのペンシルユニットを使うメカニカルペンシルもあるようで、カルティエのマストというモデルも同じ物を使っているようです。
通常の#165のペンシルユニットと違う部分として、ユニット先端のパーツの色。
ゴールドとシルバーがあります。
これはペン本体のトリム色によって変わってきますが、プラチナ装飾仕上げの#P165や、トリムがシルバーのマイスターシュテュックソリテール等はシルバーのユニット先端パーツとなっています。
ペンシルユニット先端のパーツのローレットの違いは、おそらくですが製造年代の違いによるものと思われます。これはどちらであっても操作感に影響しません。
マイスターシュテュックソリテールのスペックと書き心地について
最後は、マイスターシュテュックソリテールのスペックと書き心地についてです。
ソリテールは胴軸がレジンのモデルと比べて滑りやすいと前述しましたが、装飾やデザインに拘った高級筆記具に書きやすさを求めるのはナンセンスというもの。
特にソリテールは富裕層に向けられた大人の筆記具で、手元にあるのはそのメカニカルペンシルですので、ますます実用的からは外れた大人のための道楽道具。
かといって、最悪に書きづらい・使いづらいというわけではないのがモンブランの筆記具。
冬場で手が乾燥している時に感じるものの、総金属の程良い重みは筆圧の助けとなり、高級感&所有満足感という部分ではゆうにスタンダードモデルの#165や#167、そしてソリテールドゥエを超えてくるのです。
ここでは手元にある5本のモンブランメカニカルペンシルのスペックを比較します。
写真の並びに沿って左から順に、
■マイスターシュテュック#167
重量:35g 全長:148mm
■マイスターシュテュックソリテール(シルバーファーバーギョーシェ)
重量:37g 全長:139mm
■アレキサンドル・デュマ
重量:31g 全長:134mm
■マイスターシュテュック#165
重量:27g 全長:139mm
■Pix#172
重量:22g 全長:132mm
左の#167のみ無段階の回転繰り出し式。中の3本はペンシルユニットによる回転ノック式、右のPix#172はプッシュボタンによるノック式です。
全長はベースとなる#165と同等ですが、総金属素材のため重量は5本の中でもトップクラスの37g。
サイズが一回り大きい#167よりも重いんですね。
その重量も相まってか、無駄な力は入れることなくペン先を走らせることが可能。
ですので、芯は柔らかいB以上の硬度の方が向いているように感じます。
ペン先が他のモデルよりも先細っているため、個人的にですが安定したグリップ感を求めグリップ位置は自然と胴軸中寄りになります。
丁度本体の3分の1の所を持つイメージでしょうか。
胴軸やキャップに使われるシルバー925はノンコーティングですので、経年使用により黒ずんできます。
プラチナコーティングが施されているモデルであれば更に滑ったのでしょうが、そのあたりは総金属軸において救いなのかも知れません。
ついでにモンブランメカニカルペンシルの字幅比較です。
内容の通り、下に行くほど細い字になります。
太さはそれぞれのモデルやペンシルユニットに依存しますが、線の濃さについては芯の種類や硬度によって変化しますのでご参考程度に。
さて、今回は大人になってから買える大人のメカニカルペンシル、
「モンブラン マイスターシュテュックソリテール#164 シルバーファーバーギョーシェ メカニカルペンシル」についてレポートしました。
大人になって使用が減るメカニカルペンシルというジャンルでありながら、富裕層の大人がターゲットというある意味矛盾した筆記具でした。
ソリテールには新旧様々な種類があり、これからも定期的にラインナップされるものだと思います。
そのいずれもが、趣向を凝らしたデザイン・素材で使う者を魅了してくれることでしょう。
新品で買うとなると何かのキッカケが必要そうな額ですが、オークションやフリマでもたまに見かけますので程度の良いユーズドを狙うのも手です。
モンブラン好きの方は将来的に避けて通れないモデルかもしれません。
それでは今回はこの辺で。
長い記事になりましたが、最後までお読み頂きありがとうございました。
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