【後編】ヤード・オ・レッドの銀軸ボールペン「エドワーディアン」に関するレポート
今回の記事は前回からの続きとなります。
前回、ヤード・オ・レッドの銀軸ボールペン「エドワーディアン」の歴史(主にルーツ)やデザインについて見てきました。そして今回は筆記感や対応リフィルについてレポートしていきます。
筆記感については同じヤード・オ・レッドの銀軸であるバイスロイとエントリーモデル(樹脂軸)のアストリア、この2本との比較をメインにお届けし、リフィルについてはヤード・オ・レッドで使える純正以外のリフィルの紹介と、他の銀軸ボールペンとの筆記比較を行います。
どうぞ最後までお付き合い下さい。

▲左がバイスロイ、右がエドワーディアン。クリップのロゴが2000年頃を境に「YARD-O-LED」から「YARD‥O‥LED」へ変更となっている。
まず、私がエドワーディアンを選んだ理由からおさらいすると、バイスロイに比べて太軸だということ。
結構前から手元にあってしばしば使っていたバイスロイは丸軸で軸径が9mm。クロスのクラシックセンチュリーやラミーのCP1に比べると太い軸ではありますが、普段10mm以上の軸径をメインに使っている私からすると少しスリムなボールペンです。
重量もバイスロイは26gと30g以下となり、銀の塊であるカランダッシュのエクリドール(銀軸モデル:28g)と比べても少し軽量ということで、スターリングシルバーの密度感はあるものの 使っていてもう少しパンチが欲しくなったというのも確か。

エドワーディアンは軸径10mmの太軸。それに伴い、重量も38gとバイスロイに比べて+10gオーバーとなります。
軸内(繰り出し機構)に他のヤード・オ・レッドのボールペンと同様に真鍮が使われているということもありますが、それでも明らかにスターリングシルバーの割合が多く、その重みは掌に心地良いだけでなく、ペンの自重による筆圧の軽減にも繋がっているのです。
ヤード・オ・レッドの銀軸ボールペンの特別な深みのある輝き。
ペンの組み立て工程では、約150年前から変わらない伝統的な研磨剤を用いて、職人の手作業により磨き上げられています。
それが、銀純度92.5%のスターリングシルバーのヤード・オ・レッドならではの輝き、味のあるエイジングを生み出していると言えるでしょう。

エドワーディアンをはじめヤード・オ・レッドの銀軸ボールペンは「G1規格のリフィル」が適合しています。「G1規格」とは、国際標準化機構(ISO)によって定められた標準規格の一つで、リフィルの全長が約106.8mm、軸径が最大部で約5mmという細長い棒状のリフィル規格です。
高級筆記具に使われる一般的な「G2規格リフィル」と比べても芯先が細いのが特徴。
それもあって、ヤード・オ・レッドのペン先はG2規格のリフィルを使うボールペンよりも細く作ることができます。
ヤード・オ・レッドのペンシルに使われる「1.18mm」の芯径。これにも近い見た目となるため、筆記時のペン先の視認性がボールペンとペンシル共に大きく変わらないというメリットがあります。
「ヤード・オ・レッドの筆記感」として、ライティングシステムを変えても不変であることはユーザーによっては嬉しい部分です。
一方で、G1規格のリフィルはその辺にある文房具店で容易には手に入りにくいという難点も兼ね備えていると言えます。
対応リフィルについては後ほど詳しく見ていきます。

▲右の「アストリア」のようにG2規格のリフィルを使うヤード・オ・レッドのボールペン軸もある
同じヤード・オ・レッドにも、G2規格のリフィルが対応するペンもあります(正確にはありました)。
樹脂軸のボールペンであるアストリア、パールアストリア、レトロについてはG2規格のリフィル(パーカータイプとも呼ぶ)が適合。
適合リフィルの仕様もあって軸は太く作る必要があり、口金から出るペン先も太くなります。
これはこれでヤード・オ・レッドのペンの多様性として良いと思うのですが、残念ながらG2規格のリフィルに対応したボールペンは現在廃番となっています。
アストリアのような樹脂軸のボールペンは、素材ならではのグリップ感に加え、太軸(軸径10mm)の持ちやすさ。G2規格リフィル対応により様々なメーカーのインクを試せるのが強み。
ボールペンにおいて「自分に合うインクの粘度」は重要なため、万人受けするのはアストリアのようなボールペンなのかもしれません。

エドワーディアンはクリップから上の部分を反時計回りに回して外し、リフィル交換を行います。
ヤード・オ・レッドの銀軸ボールペンは、他の一般的な回転繰り出し機構を持つボールペンと違い、ペン先繰り出し操作部(天冠かキャップ)を左右どちらに回してもペン先が繰り出される仕様となっています。
天冠からペン先に向かって反時計回りに回し、一旦ペン先が出た後もそのまま回し続けることで写真のように取り外すことができます。
同じくヤード・オ・レッドの銀軸ボールペンであるディプロマット、パーフェクタ、エリザベサンもこのようにペン先繰り出し操作部である天冠部分を外してリフィル交換を行います。

あとは繰り出し機構(真鍮の部分)からリフィルを真っ直ぐ引き抜き、新しいリフィルに差し換えます。
天冠から繋がっている真鍮製の繰り出し機構の中に可動部があるため、軸内に戻すときは新しく装填したリフィルを持って回転させ「リフィルが収納された状態」にします。
この作法はヤード・オ・レッド純正のリフィルを装填する場合は気にする必要がないのですが、サードパーティー製のリフィルを装填する場合は必要となってきます。(今までの経験則から)

▲左がエドワーディアン、右がバイスロイ
バイスロイはキャップ部分のが接続部(回転軸)となるため写真のように分割します。
エドワーディアン側がヤード・オ・レッド純正リフィル、バイスロイ側がサードパーティー製(ヴァルドマン)のリフィルなのですが、見て頂くと分かるとおり、サードーパーティー製にはリフィル軸のペン先寄りに突起が見られます。
これが先ほどの作法(繰り出し機構を軸内に戻す前にリフィルを収納位置に戻す)をしなければならない理由だと考えています。

さらに同じヤード・オ・レッドでも、アストリア(パールアストリア、レトロも同じ)のリフィル交換は、ペン先を外して行います。
G2規格のリフィル対応となるため、私が信頼するパーカーのリフィルを入れています。この規格のリフィルが使えるということは、私も含め皆さんが大好きなジェットストリームのリフィルも使えるということ。
この多様性は大きいと思うのですが…廃番が惜しまれます。

▲左から、サンプソン・モーダン エヴァーポイント(1930年製)、ヤード・オ・レッドのディプロマット(1959年製の丸軸)のペンシル、エドワーディアン(1997年製)、アストリア(2010年製)、バイスロイ(2015年製)。
サンプソン・モーダンのペンシルに始まった歴史は、ヤード・オ・レッドが特許技術を受け継ぎ、ボールペンや万年筆の製造へと派生していきました。
ヤード・オ・レッド銀軸筆記具の面白さは、同じモデルでも製造年代によってクリップのロゴ刻印(YARD-O-LEDなのかYARD‥O‥LEDなのか)や、軸の模様(プレーンなのかバーレイなのか、ビクトリアンなのか)等が様々である点も一つとしてあるでしょう。
軸に刻まれるホールマークから製造年代の割り出しが可能なため、自分の生まれ年のヤード・オ・レッドを持つなんていうのも粋かと思います。

さて、ここからはヤード・オ・レッドの銀軸ボールペンで使えるリフィルについて書いていこうと思います。
対応するG1規格のリフィルは、G2規格リフィルのように気軽に手に入るものではないため ネットでの購入がメインとなります。
さらにヤード・オ・レッドの純正リフィルはここ数年使っていて見かけたことがないため、日本においては初期装填の純正リフィルを使い切った後は 基本はサードパーティー製のリフィルを買うことになります。
そこで、Amazonや楽天で買えるリフィルとして上の写真にもある3本(4本のうち1本は純正)が選択肢となります。
・Schneider(シュナイダー)Express 225
・Schmidt(シュミット)S700系
・Waldmann(ヴァルドマン)Vintage Type
インクの容量を見ても「シュナイダー一択だろ!」と思うのですが、シュナイダーのExpress 225は使用にあたって工夫(というか軽微な加工)が必要。
これは後ほど。

各リフィルをエドワーディアンに装填して、ペン先を出すとこのようになります。
当たり前ですが全てG1規格のため、ペン先から3mmのリフィルが繰り出されるのは同じ。
シュミットやヴァルドマンはリフィルの先が真鍮色、ヤード・オ・レッド純正やシュナイダーはシルバー(ニッケルかステンレスか何か)となるため、軸とのマッチングや装填しているインクの色でメーカーを変えてみるのもいいかもしれません。

それぞれのリフィルで筆記比較。
インクの粘度をはじめ、書きやすいと感じたのはシュナイダーとヴァルドマン。
シュミットは昔ながらの「ザ・油性」という少し硬い(粘度が高い)書き味で、たまに擦れることがあります。※頻繁に買われるリフィルでもないため、販売店の保管状況でも変わりそう
ブルーのインクは純正の枯れた青色が好みですが、サードパーティー製らしい少し紫がかった青インクも視認性は良いかと思います。
ブラックについてはシュナイダーが良いかと。
価格もヴァルドマンが990円に対して、シュナイダーが440円と安価ですし、何よりインクの性能と容量を考えるとシュナイダーを選ばないという手はありません。
しかし、シュナイダーのExpress 255を装填する場合、以下の不確定要素を含んだ加工が必要となります。

シュナイダーのExpress 225はリフィルの頭部分が樹脂製で、他のオール金属製G1規格リフィルと比べてこの部分の径が小さくなっています。(G1規格として全長と最大軸径の値はクリアしている)
買ったそのままをヤード・オ・レッドの軸内に装填しようと思うとスカスカで上手くいかないため、樹脂部分に少量のセロハンテープを巻く必要があります。
これの難しいところが、セロハンテープを巻きすぎてもダメ、巻かなすぎてもダメという絶妙な加減が伴ってくること。先ほど「不確定要素を含んだ」と書いた理由がまさにこれです。
純正リフィルを装填する時の手応えを参考に色々試した結果、縦25mm(樹脂部分の縦幅と同じ)、横5mmにカットしたセロハンテープがベストという結論に至りました。

大容量のインクタンクがヤード・オ・レッドの軸内にピタリと入るこの爽快感。
先ほども書いた「作法」も忘れずに。作法を行う理由としてサードパーティー製リフィルの出っ張り部分が軸内に引かかることが要因と考えています。

繰り出し幅のたかが3mm、されど3mm。
リフィル収納位置に戻す方(作法の実施)が装填の成功率が上がるという調査結果になりますが、正直 うまくいく場合といかない場合の確たる要因が掴めているわけではなく、作法はただのプラセボ効果である可能性も捨てきれません…。
ヤード・オ・レッド銀軸モデルのサードパーティー製リフィル交換について、同じ悩みを持つ同志の助けになればと思います。
ちなみに装填失敗の場合は、操作部を回転させてもペン先が軸内に戻らないという症状に陥ります。
その場合はもう一度リフィルを取り出し、繰り出し機構内に収めるところからチャレンジしましょう。

職人が手作業で磨き組み上げた、ヤード・オ・レッドの銀軸筆記具を操作する愉しみは、ハクキンカイロやランタンを使う時のワクワク感、トーレンスの機械式ライターを操作・メンテナンスする時の専門性からくる愉しさに似ているような気がします。(私は非喫煙者ですが)
リフィル装填のひと癖もそんな愉しみに変えられるという方は、たまらない一本となるに違いありません。

それでは最後に、お勧めする一生モノの銀軸ボールペンの比較をして終わりたいと思います。
左から、
・カランダッシュ エクリドール アンモナイト:重量28g、グリップ部軸径9mm
・ヤード・オ・レッド エドワーディアン:重量39g、グリップ部軸径10mm
・ファーバーカステル クラシック スターリングシルバー:重量46g、グリップ部軸径9.5mm
・モンブラン マイスターシュテュック マルトレ:重量38g、グリップ部軸径11mm
いずれも素材はスターリングシルバー。
ちなみにスターリングシルバーとシルバー925の呼び方の違いは、銀の割合92.5%以外の7.5%の金属に 何が使われているかにより変わります。
厳密には、「スターリングシルバー」は残りの7.5%が銅の場合、そして残りの7.5%がニッケルや亜鉛、アルミニウム等銅以外の場合は「シルバー925」と呼ばれるようです。
同じ銀軸と呼ばれる筆記具でも経年変化の仕方や硫化の色味に違いが出るのは、この「残り7.5%の金属が何か」によるのかもしれません。
素材がスターリングシルバーであるヤード・オ・レッドは、真っ黒に美しく硫化し、磨くことで元の銀本来の美しさを取り戻します。

各社のリフィル装填方法も異なっており、軸は写真のように分割できます。
この中ではヤード・オ・レッドとファーバーカステルが国際規格のリフィルに対応。カランダッシュとモンブランは独自規格のリフィルとなっています。
とはいうものの、今はリフィルアダプター等を介して他社製のリフィルを入れることもできるため、自由度は上がっています。(一部のカランダッシュ エクリドールでは何故かG2規格リフィルも使えますし…)

ひとことで油性ボールペンと言っても様々な規格の油性リフィルがあるため、そのメーカーに合ったリフィルを選ぶ必要があります。
ここにはないですが、ウォーターマンやラミーも独自規格のリフィルを採用しています。

書き比べました。(エクスプレス225のEが抜けちゃってますね…)
同じ油性インクでもメーカーによって色味などの「味付け」が違い、海外製のリフィルは国内製に比べて粘度も高め。
ただし、昔のボールペンのようにダマになる、書き始めに擦れる等の不具合は劇的に減っており技術的な進歩により快適に筆記が可能となっています。
一般的にスターリングシルバー製のボールペンには粘度高めのインクのほうが合いますので、銀軸ボールペンを使う際はメーカー純正のリフィルを使うのがお勧めです。

さて、今回は記事を2回に分けてヤード・オ・レッドの「エドワーディアン」ボールペンを見てきました。
サンプソン・モーダンの魂と技術を引き継いだヤード・オ・レッドは、現在も尚、職人の手作業にて工芸品とも呼べる筆記具を作り続けています。
そのデザインや使用感はイングランド史に基づいたヤード・オ・レッドならではの特別感があり、使う者の背筋を伸ばしてくれるような気がします。
使い手と共にエイジングし、それこそ孫の代まで使える一生モノの筆記具。
当記事を読んで気になった方は是非手に取って、サンプソン・モーダンからの200年以上にわたる歴史を感じて頂ければと思います。
それでは今回はこの辺で。
長い記事にお付き合い頂きありがとうございました。










ディスカッション
コメント一覧
Yard・O・Ledに興味があったのですが、この記事を読んでますます欲しくなりました!
よければ持っている1.18mmペンシルの方のレビューも読んでみたいです。私が欲しいのもペンシルなので…
G1規格は初めて知りました。クロスの細長いリフィルとかとは違うんですね。興味深かったです。いつも素敵な記事をありがとうございます。
学生さん
コメントありがとうございます。
YARD-O-LEDのペンシルを検討されているとのことで、この記事が少しでも背中を押せたのであれば幸いです!
また、Sampson Mordanに始まるYARD-O-LEDの長い歴史に興味を持って頂ければ嬉しいです。
仰る通り、手元には1950年代後期のディプロマットペンシルがあります。そういえば他の記事に登場するのみでペンシルだけの記事はまだ書けていませんでした。
どうせなら近代のディプロマットペンシルと比較するか、他のモデルとの比較にするか…。
私自身もまだまだYARD-O-LEDについては知らないことが多いので、来年の早いうちには記事にできればと考えます。
(学生さんがペンシルを買われるタイミングの方が早くなってしまったらすいません…)
G1規格のリフィルについては、あまり日本では馴染みがないせいかもしれません。私が記事にした中では、他にG1を使うのはアウロラのテッシーくらいではないでしょうか。
ただ、YARD-O-LEDのペンに適合するとなれば、ペン先の細いG1がベストなのだと思います。
もしかすると、他の数ある日本メーカーのリフィルでG1規格の代替となるようなリフィルが存在する可能性もありますが、もし仮にジェットストリームのような低粘度インクがYARD-O-LEDで使えたらどんな書き心地になるだろうと考えるのも愉しいです。
返信が長くなりましたが、素敵なYARD-O-LEDのペンシルを手にできることを願っております。
それまでにペンシルの記事が書けるよう、私も気を引き締めたいと思います。