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書きやすい万年筆を追求すると…【プラチナ #3776 セルロイド ミッドナイトオーシャン レビュー】

2021年12月11日

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書きやすい万年筆とは何なのか。

 
仕事でほぼ毎日使うようなボールペンについては、20g~30gの適度な重さがあってインクが柔らかすぎず硬すぎずなもの、と自分の中で使いやすい定義のようなものは固まってきています。
 

しかし万年筆となると、その書きやすさにプラスして強烈な「所有満足感」が大きく関与してきて、単に「書きやすい万年筆」に止まらない、持っていて嬉しいか・使っていて楽しいかという別の評価が入ってくるように思います。

 

それは各メーカーから出ている一部の凝った限定モデルにもあるように、見た目上そして性質上において万年筆が単なる書く道具に止まらない魅力を持っているからだと考えます。

 

一般的に限定モデルというと、大きく、重く、装飾が派手もしくはデザインが凝っているがために「書きやすさ」よりもその製品のコンセプトが重視され、書きやすいと感じるモデルは少ないように感じます。

 

それでは、本当に書きやすい万年筆とは何なのか。

 

色々な筆記具を使ってきましたが、やはりメーカー名を言われた時に最初に思い浮かぶモデル、各メーカーの代名詞的なモデル、すなわちミドルクラスの商品がそれにあたるのではないかと思うようになってきました。

 

そのように感じる万年筆が今回の記事のテーマ、

 

プラチナの「#3776セルロイド万年筆 ミッドナイトオーシャン」。

 


 
国産の樹脂製万年筆は通常セーラーを愛用しており、プラチナの樹脂製万年筆は「#3776ブラックダイヤモンド(UEF)」のみ。
 
他はスターリングシルバー軸の「プラチナ・プラチナ」が2本とエボナイト軸の「出雲 空溜」、木軸の「センチュリーブライヤー」のみと他のメーカーに比べて所有本数も少なめです。
 
プラチナの万年筆というと#3776センチュリーが代表作であることは間違いありませんが、そのシリーズの中でも軸にセルロイドを用いた美しい万年筆が#3776セルロイドです。
 
今回は前々から気にはなっているけどすぐの購入は考えていなくて、ずっと欲しいものリストに入っているようなタイプのモデル。カラーを相当悩みましたがミッドナイトオーシャンをチョイスしました。
 
やっぱりブルーとシルバーのカラーコンビはビジネス的にも締まりますし、使い手に誠実な印象も与えるうえサッパリしていて飽きが来ないと感じるのです。
 
セルロイド軸というと普通の樹脂と違い、取り扱いに気をつけなければならない点がありどことなく繊細なイメージがあります。
 
耐候性が低く光に弱いので長時間日光に晒すなどは気をつけねばならないのですが、そうした管理の煩わしさ以上に、その美しい発色と触り心地が心を掴んで離さないのです。
 
さて、前置きが長くなりましたが今回はプラチナ万年筆のセルロイド軸の魅力に迫っていきたいと思います。
 
 
 

 
 

【しっとりした触り心地と発色が美しいセルロイド軸】

眼鏡の材料としても昔から使われているセルロイド。
 
素材としては決して頑強な物ではないのですが、それでも使い続けられている理由はその美しさと手触りに他なりません。
 
万年筆もしかり、人が手に持つ道具ゆえにそのしっとりなめらかな触り心地は一般的なレジンとは明らかに違います。
 

 
プラチナ#3776セルロイド ミッドナイトオーシャンは、ブラック・ブルー・ホワイトが織りなすまるで深海のような穏やかで深みのある濃紺が美しい。
 
アウロラやデルタのマーブルレジンのような華やかさと言うよりは、大人っぽさを感じるどこか落ち着いた色合いです。
 

 
他に手元にあるセルロイド軸の筆記具は、セーラーのプロフィットと思しきヴィンテージペンシル。
 
2本を並べると本当に深みのある発色がよく分かります。色合いもそうですが表面のツヤもセルロイドならでは。
 

 
キャップ部分を拡大すると表面の滑らかさが見て取れます。
 
ブルーとシルバー、グリーンとゴールド。それぞれのカラーコンビネーションが非常にマッチしています。
 
この濃紺、グリーンのセルロイドについてはそれほど透明性は無いものの、違う色同士のセルロイドが複雑に重なり合い深みを出しています。
 
ミッドナイトオーシャンはどことなくラピスラズリのような色。
 
金粉が混入されていればラピスラズリの筆記具と見間違うかも知れません。
 
ちなみに、グリーンのペンシルはクリップだけ見ると 一見パイロットの筆記具のようにも見えますが、間違いなくセーラーのペンシルです。
 

 
インクの吸入方法はカートリッジ/コンバーター両用式。
 
プラチナ万年筆の素晴らしいところは、首軸にコンバーターをセットした時の一体感。
 
コンバーターはシルバーとゴールドの2種類が用意されていますが、ミッドナイトオーシャンはシルバートリムのためコンバーターもシルバーにしました。
 
インクも青系で何だか勝手に統一感が出た感じです。(モンブランのペトロールブルーを吸入)
 

【#3776セルロイド ミッドナイトオーシャンの良い所をまとめてみると】

さて、濃紺セルロイド軸の発色の良さが#3776セルロイド ミッドナイトオーシャンの堪らんポイントだということは分かりましたが、それ以外にも堪らないポイントは幾つかあります。
 
一つ目はサイズ感。
 
ベースのモデルは#3776センチュリーですが、セルロイドは通常のセンチュリーよりもサイズが一回り小さくなっています。
 

 
左から、#3776センチュリーブラックダイヤモンド、セルロイドミッドナイトオーシャン、出雲 空溜。
 
出雲空溜についてはモンブランの#149よりもサイズが大きく、私が持つ万年筆の中では最大の全長(携帯時)を誇っています。
 
記事の最後の方でモンブラン#146やカスタム74とサイズ比較を行いますが、ブラックダイヤモンドのような一般的な樹脂軸#3776センチュリーはミドルサイズの万年筆となっています。
 
ミッドナイトオーシャンは一回りコンパクトに作られていて、それがセルロイドのしっとりとした質感と合わさり、凝縮感を生んでいるのです。
 

 
一回り小さいながらもペン先のサイズはセンチュリーや出雲(プレジデント)と同じでしっかり大きめ。
 
出雲のバイカラーニブも格好良いですが、ロジウムメッキの14金ペン先はプラチナのニブデザインとも合っていると感じます。
 
あと、ハート型のハート穴もプラチナ万年筆のチャームポイントですよね。
 

 
ペン先を拡大してみました。
 
ブラックダイヤモンドは超極細(UEF)、ミッドナイトオーシャンと出雲は中字(M)です。
 
次の項で詳しく見ていきますが、出雲とセルロイドは同じ中字ですが書き味が全く異なります。
 
もとが18金と14金ということも少なからず影響しますが、14金の中字は私の予想を超えて柔らかな書き心地なのです。
 
UEFはペン先の研ぎとニブの形状(平たい)から書き味がカリカリなのは見て取れるのですが、14金の中字ニブは基本に忠実と言いますか、日本語を書くに適した日本製の中字とはこういうものだと言わんばかりの見本のような書き味なんですよね。
 

 
さて、軸のサイズに話を戻しましょう。
 
キャップを外して比べると分かることが、ダウンサイジングしてあるのは実は胴軸部分のみでキャップの全長は同じであること。
 
しかし樹脂軸#3776センチュリーと#3776セルロイドの間にキャップの互換性は無く、軸径に差があるため付け替えることはできません。
 
キャップや軸のデザインの違いは、#3776センチュリーがダブルのキャップリングに対してセルロイドはシングル。
 
セルロイドには尻軸のリングが無いなどの違いがあります。
 
いやー、全くもって可愛いですね#3776セルロイドは。
 
二つ目の堪らんポイントは、キャップの閉め加減。
 
スターリングシルバーのプラチナ・プラチナやブライヤーのような嵌合式と違い、センチュリーと同じネジ式が採用されている#3776セルロイド。
 
このキャップの閉め具合が非常に軽く、キャップを1周回さずとも閉めることができるのです。
 
通常のスリップシール機構を搭載した#3776センチュリーで1周と270°。
 
セルロイドはたったの270°。
 
これ本当に密閉できてるの?とも思いましたが、ペン先が数日保管してもドライアップしないことを考えるとちゃんと締まっていそうです。
 
この1周回さないキャップが、このセルロイドの機動力を相当上げていると言えます。
 
ちょいと捻るだけでキャップができている。また、書き始めることができる。
 
これはキャップ式万年筆を扱う上で、大きなアドバンテージと言えるのではないでしょうか。
 

 

【プラチナの細字はカリカリ、中字は柔らか!(UEFと14金M、18金Mの比較)】

まるで針の先で書いているかのようなプラチナの超極細(UEF)とは対象的に、全ての筆圧を受け止めて最高の文字に変えてくれるような懐の広いプラチナ14金のM。
 
紙あたりが最も柔らかな18金プレジデントニブと、手元にわずか3本ながら色とりどりの書き味を提供してくれるプラチナのペン先。
 

 
どちらかというと18金の中字よりも14金の中字の方が私の好みなのですが、それはペン先は柔らかくなるほどコントロールが難しくなるからで、自分の筆圧、ペンの握り方、文字の書き癖において、14金の「少しコシがあって紙あたりは柔らか」という書き味が合っているのだと思います。
 

 
同じ14金の超極細に比べて丸み(アーチ状)のある14金中字のペン先。
 
深く彫られた「#3776」「p」「14K.中 585」の刻印は、インクに何度も潜らせることで墨入れされ より味わい深いペン先に。
 

 
ペン芯はフィンが浅く、ペン先に向けてかなり薄めにデザインされています。
 
このペン芯の形状もプラチナの書き味を再現するうえで欠かせない要素。
 
インクフローは良く、書き始めや素早くペン先を走らせた場合でもかすれることはありません。
 
この辺はさすが日本製の万年筆といったところ。安定しています。
 

 
インクフローが良いのと少し細めの線を吐き出す14金中字のペン先は、手の余計な力を抜いて書くことができます。
 
また、普段キャップを外して書くことが専らな私でもキャップをして書きたくなるほどキャップをポストした時のバランスが良いこと。
 
コンバーター(と吸入したインク)込みの重量で約25g。一回り大きな通常の#3776センチュリーと同じ重量でこのしっとりした持ち心地と凝縮感。
 
モンブランのペトロールブルーインクとの相性も良く非常に書きやすい。
 
インクフローの調整に拘って作ってあることが、書いていて分かる万年筆です。
 

 
中字の14金ニブと中字の18金プレジデントニブ(出雲空溜)。
 
根元がより細い14金ニブはメリハリがあって美しい…。
 
素材が違うだけでなく、ニブの形状も大きく異なる2本のニブ。プレジデントはさらに丸みのあるニブの形をしています。
 

 
書き比べるとインクフローの違いから、プレジデント18金ニブの方が若干太めな文字が書けて、14金は気持ち細めな書き上がり。
 
先ほども書いたとおり、書きやすさというよりは私の好みは14金ニブの方なんですよね。
 
好みである・書きやすいと感じる=思ったような文字が書ける。
 
ということで、やはりミドルサイズの万年筆に書きやすさで勝る物なし!
 

 
14金中字と18金中字(プレジデントニブ)のペンポイントを比較してみます。
 
ペンポイントの形状からも、18金中字の方が若干太い文字を出すことが確認できます。
 

 
ついでに14金超極細と14金中字の比較。
 
ペンポイントの違いが顕著です。
 
UEF恐るべし。本当に針の先のようなペンポイントですね。
 

【プラチナ#3776セルロイドとミドルクラスの万年筆を比較~まとめ】

さて、最後はサイズの比較で締めくくりたいと思います。
 
最終的に書きやすいのはミドルサイズの万年筆…。ということで国産の同サイズあたりの万年筆と、素晴らしい筆記バランスを持つ海外製の万年筆、モンブラン#146を並べて比較します。
 

 
▲左から、モンブランマイスターシュテュック#146、セーラープロフィット21、プラチナ#3776セルロイド、同じくプラチナ#3776センチュリー、パイロットカスタム74。
 
この4本の中に埋もれると#3776セルロイドが随分小さく見えます。
 
セルロイドの胴軸径はカスタム74に近いかも知れません。
 
デザインは、それぞれダブルのキャップリングに尻軸のリングが共通していますが、セルロイドのみシンプルなトリムの代わりに深い色合いのボディが目立っています。
 

 
キャップを外したところ。並びは先程と同じです。
 
首軸にシルバーのトリムを配したデザインが高級感を醸し出しています。
 
モンブラン以外はカートリッジ/コンバーター両用式。モンブラン#146のみピストン吸入式です。
 
ほぼ同サイズの5本ですがペン先はプラチナが一番大きく見えます。
 
はっきりとした5角形のニブ形状がメリハリのあるシルエットを作っています。まさに万年筆といった出で立ちです。
 

 
ニブ形状はそれぞれのメーカーの特徴を表しているかのよう。
 
モンブランやパイロットのニブ形状は丸みを帯びていて柔らかな書き心地をイメージさせます。
 
セーラーは21金というスペックで柔らかさと先細のニブ形状でしなりのある書き心地。
 
そしてプラチナは、ペンポイントの研ぎの他に字幅に応じてニブの形状そのものを変えているように感じるのです。
 
 
【まとめ】
 
今回は、使いやすい万年筆とは…ということを考えながら、プラチナ#3776セルロイド ミッドナイトオーシャンを見てきました。
 
世の中には新旧含めるとまさに星の数ほどの万年筆が存在します。
 
形や重さもそれぞれ違っていて選択肢は広いのですが、たくさんの万年筆を使っていると、正直自分にとってどれが使いやすくてどれが使いにくいのかが分からなくなってきます。
 
次から次へ筆記具を求める場合、「所有満足感を追求する」のか「書きやすいを追求する」のか。
 
いつか手にする最高の万年筆はどちらも満たしているものだと思う一方、この2つは相反しているように思えてなりません。
 
そして人は「所有満足感を追求する」に進む傾向にあるようです。
 
・所有満足感=デザイン装飾×それに準じた重さ
 
・書きやすさ≠所有満足感の高さ
 
となるのでしょうか、振り幅がありすぎてよく分かりませんが…
 
使いやすい万年筆を探すとき、時に「自分好みのデザインや装飾」が邪魔をする事があるからです。
 
デザイン・装飾が好み=使いやすい、とは限らないのです。
 
(精神衛生上、デザインや装飾がスペックを超えて使いやすいに関係してくる場合もありますが…)
 
改めてその「書きやすい」定義があるとしたら、シンプルなデザインで適度な重さ(20g~25gくらいで余分な力を抜いて書けるもの)、字幅は細字から中字でかすれないこと等が挙げられるでしょうか。
 
個人的にもプラチナ#3776センチュリーのデザインが好みのド真ん中かというとそうではありません。
 
しかし、書きやすさはド真ん中。中身は大切だということですね。
 
もちろんこれには個人差があり書きやすい万年筆は人それぞれで違います。
 
もし万年筆選びに苦慮されている方がいらっしゃるならば、一度デザインは隅に置いておいて純粋に書きやすさのみで選んでみるのも良いかもしれません。
 
その点、国産万年筆メーカーの大手であるセーラー、プラチナ、パイロットから発売されている代名詞的なモデル(プロフィット、センチュリー、カスタム)は本当に長い年月をかけて、日本人の手に合うように設計されているんだなと感心するところが多いです。
 
つまりは「書きやすい」において間違いない万年筆。
 
今回はセルロイドという素材が私の「書きやすい」に関与していた事になります。
 
皆さんも自分が書きやすい万年筆とは何なのかを分析してみると、新たな万年筆との出合いがあるかもしれません。
 
後書きが長くなりましたが今回はこの辺で。
 
それではまた。

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