ヤード・オ・レッドの銀軸ボールペン「エドワーディアン」に関するレポート【前編】
皆さんこんばんは。
2025年も年の瀬。
クリスマスも近づいてきて、きっと大切な人へのプレゼントや自分への一年間のご褒美としてペンを新調される方も多いことでしょう。
私もこの時期になると無性に使いたくなるペンがあります。
それはというと、スターリングシルバー(SV925)製の筆記具。スターリングシルバーは古くから、反射率の高い輝きに魔除けの効果があるとされたり、銀イオンの強力な殺菌効果により、身につけるアイテムとの相性がいい素材と言われています。
まさに、聖なるクリスマスシーズンにピッタリのペンではないでしょうか。(私はクリスチャンではないですが…)
今回レポートするのは、私が銀軸の筆記具と聞いて一番に思い浮かべるペン。
イギリスの老舗銀軸筆記具メーカー、ヤード・オ・レッド(YARD-O-LED)のボールペンから、エドワード朝のデザイン美学を取り入れたモデル「エドワーディアン(Edwardian)」プレーンを見ていきます。

ヤード・オ・レッドというと、メカニカルペンシルを思い浮かべる方も多いかもしれません。
私はアンティークのペンシルを2本(厳密には1本)とボールペンを2本持っていますが、新たにボールペンをもう1本追加しています。
やはり仕事で使うのはボールペン。
既に2本持っているヤード・オ・レッドのボールペンですが、その2本ともまた違った個性を持っている今回のエドワーディアン。
長い記事になりますので、前編・後編に分け、前編では主にヤード・オ・レッドのルーツや歴史、筆記具のデザインについて、後編ではボールペンの使用感や互換リフィルについて書いていこうと思います。

それでは、エドワーディアンを詳しく見ていく前に、今まであまり深掘りできていなかった「ヤード・オ・レッドのルーツ」について、少し書いていこうと思います。
ヤード・オ・レッド社の歴史を紐解いていくにあたり、銀製繰り出し式ペンシルの技術の始祖である「サンプソン・モーダン社」を知っておく必要があります。
サンプソン・モーダン社の設立者であるサンプソン・モーダンは、19世紀の英国を代表する銀細工師であり、今日まで使われる「シャープペンシルの祖」とも言える人物。
サンプソン・モーダンは、もともと署名な錠前師のジョセフ・ブラマーの弟子で、1815年に独立後は小物を扱う銀細工師として活動していました。
そんな中、1822年にジョン・アイザック・ホーキンスと共同で発明した、世界初の実用的な「繰り出し式ペンシル(プロペリングペンシル)」が特許を取得。これが現在のシャープペンシルと呼ばれる筆記具の原型となります。
翌1823年、モーダンはホーキンスから特許権を買い取り、文具商のガブリエル・リドルとパートナーシップを結びました。この時期(1823~1836年)の製品には「SMGR(Sampson Mordan & Gabriel Riddle)」の
刻印が打たれていて、希少なモデルとされています。

▲バレルの刻印に「SM&Co」(S.Mordan & Co)のメーカーズマークが見られ、ホールマークから1930年の製造だということが分かる
リドルとの提携解消後は、社名を「S.Mordan & Co」とし、単独で経営を開始。
ペンシルをはじめ、サンプソン・モーダンの銀製品は香水瓶、インク壺、ポスタル・スケール等多岐に渡り、機能的でありながら銀細工としての美しさも兼ね備えていました。
1843年にサンプソン・モーダンが亡くなると、息子のサンプソン・ジュニアとオーガスタスが事業を引き継ぎ、19世紀後半を通じてその名声を維持していきます。

▲サンプソン・モーダン社の「モーダン・エヴァーポイント」。エヴァーポイントとは「常に先端が尖っている」という意味合いを持ち、繰り出し機構を持つペンシルの優位性を示している。
20世紀に入り、第二次世界大戦中の1941年、ロンドン大空襲によってシティ・ロードにあった工場が爆撃を受け壊滅。これにより、サンプソン・モーダン社は活動停止を余儀なくされ、1952年に特許や商標権の一部はエドワード・ベイカー社等別のペンメーカーに譲渡される形となりました。
その後、戦後の1955年にヤード・オ・レッド社がエドワード・ベイカー社を買収し、サンプソン・モーダンの知的財産権や歴史的なアーカイブが正式にヤード・オ・レッドに引き継がれることになったのです。

ヤード・オ・レッドは1934年、ドイツからの移民であるレオポルド・ブレナーによって設立されました。
ブレナーのビジネスパートナーであるフランク・タフネルの父親は かつてサンプソン・モーダンで働く職人で、タフネル家は後にヤード・オ・レッドの経営権を握り、モーダンの職人魂や銀細工のノウハウをヤード・オ・レッド社に色濃く残す役割を果たしています。
以降、ヤード・オ・レッドが作るペンシルの基本構造は、サンプソン・モーダンが1822年に取得した「繰り出し式ペンシル」の特許技術に基づいており、「職人の魂と技術は、ヤード・オ・レッドの中で生き続けている」と言えるのです。

ヤード・オ・レッドの各モデルは、イングランド史におけるデザインにインスパイアされていることが多く、エドワーディアンの名前の由来も、1901年から1910年頃のエドワード朝時代(ヴィクトリア女王の息子エドワード7世の時代)のデザイン美学に影響されたモデルとなっています。

エドワード朝時代の特徴である、優雅で洗練された控えめな豪華さ。ヴィクトリア朝の重厚なデザインから、シンプルで実用性のあるデザインへ。
ヤード・オ・レッドお馴染みのクリップから上部のデザインが美しい。
クリップの付け根にある数字「1942」は、一見年号のようにも見えますが、製造番号(シリアルナンバー)の類いと思われます。

ボールペンのペン先を繰り出す操作ノブを兼ねた天冠には「MADE IN ENGLAND」の刻印。
ヤード・オ・レッドのペンには、胴軸部分にホールマークが刻印されるほか、モデルによって刻印位置に違いはありますが、この製造国刻印が彫られています。
イングランドの伝統的な手作業の証。
先に触れたヤード・オ・レッドの歴史、いや、イングランドの銀細工の歴史にも繋がる由緒正しき刻印です。

トップはフラットで刻印のないシンプルなデザイン。
この平たいデザインは、パイプ(喫煙具)の火消しにも使われるためだと、どこかで読んだことがありますが真相は定かではありません。
エドワーディアンと同じく太軸で、胴軸にギリシャ建築のような凹凸が施されたコリンシャンは、このトップ部分にホールマークが刻印されています。

このスタンプのような形状は、シーリングスタンプとしても使えるのでは?とも思えてきます。
まあ、フラットなためイニシャルや柄の刻印はないですが、ヤード・オ・レッドのペンで書いた文字を便箋に込めて、ペンの天冠を使ってシーリングワックスで封をする。という、なんとも粋な使い方ができそう。

エドワーディアンのホールマークは胴軸のクリップ左側に刻印されています。
「YOL(YARD-O-LED)」:メーカーズマーク
「錨」:バーミンガムのアッセイオフィス(刻印検査所)
「ライオン」:スターリングシルバー(銀含有率95.5%以上を示す)
「小文字のx」:デイトレター 製造年を表している
「天秤に925」:欧州共通規格(コモンコントロールマーク)に基づいたシルバー925であることを示す
「925」:純銀の数値を示すマーク
細かな刻印で情報量満載。
ヤード・オ・レッドはバーミンガムに独自の生産拠点を所有していることからも、バーミンガムの刻印検査所である錨のホールマークとなっているわけですね。

▲ヤード・オ・レッドのボールペン比較。左がバイスロイ、右がエドワーディアン。
私が2本のヤード・オ・レッドのボールペンを所有するにも関わらず、さらに1本追加に踏み込んだ理由がここにあります。
もともとバイスロイを所有していましたが、もう一本のアストリアに比べて軸径が細め(9mm)ということもあり、アストリアに稼働を奪われる傾向にありました。
しかし、このヤード・オ・レッドの特別なスターリングシルバー軸へのロマンが捨てきれず、様々なモデルを調べていたところ、エドワーディアンとコリンシャン、そしてエリザベサンは軸径が10mmの太軸だということに気付きます。
しかも重量も38gとバイスロイよりも10g以上重く、私の好みに一致したわけです。

また、同じ銀軸モデルでありながら、バイスロイとエドワーディアンではペン先の繰り出し操作部が異なり、バイスロイをはじめ、リコーダー、リージェント、コリンシャンはキャップ部(クリップの下が可動部)を捻り芯出しを行うのに対し、エドワーディアン、ディプロマット、パーフェクタ、エリザベサンは天冠が操作部となっています。

エドワーディアンの操作部となる天冠にはローレットが刻まれ、胴軸に比べて幅も広いことからかなり快適にペン先の繰り出し操作が行えます。
ローレットが入った天冠は、ドイツのファーバーカステル「伯爵コレクション」にもありますが、これだけ幅が広いと捻る力が分散されるためより快適に。
このボールペンのデザインのポイントでもある天冠を筆記の度に弄れる喜び。たまりません。

シンプルながら洗練された優雅なデザイン。
イングランド銀細工と繰り出し式ペンシルの歴史を背負ったヤード・オ・レッドの銀軸ボールペン。
これはまさに、一生モノに相応しいビジネスの相棒ではないでしょうか。
今回は、ヤード・オ・レッドのエドワーディアン プレーン ボールペンをもとに、前編として「ヤード・オ・レッドの歴史」と「エドワーディアンのデザイン」についてまとめてみました。
次回、ヤード・オ・レッド銀軸ボールペンの操作感と対応リフィル比較等の後編へと続きます。
最後までお読み頂きありがとうございました。












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