カヴェコスポーツ万年筆のルーツ「V16 EF」は高性能かつ最もコンパクト!【Kaweco Sport V16 オリンピックモデル レビュー】
このブログを読まれている方の中にカヴェコをご愛用の方はどれほどいらっしゃるだろう…。
と思いながら毎回カヴェコ記事を書いています。
今回のカヴェコ記事は、私のカヴェコ終着点と言ってもいいモデルについて。
1883年にカヴェコが筆記具メーカーとして設立され、現在が2020年。
実に137年の歳月が流れており、その間には1930年の廃業などメーカーの歴史を左右する出来事もあったようですが、現在に復活したカヴェコスポーツシリーズはコンパクトで堅牢な筆記具としてファンが多いメーカーとなっています。
カヴェコの歴史の中で注目したいのが、1972年に開催されたミュンヘンオリンピックで公式筆記具として認可されカヴェコスポーツのセットを販売したこと。
もともと“スポーツ”という筆記具は選手でも携行しやすいようにと軽量コンパクトに造られたものだったようです。
今回レビューするカヴェコはそのオリンピック公式モデルである
「カヴェコスポーツ V16 / 619 オリンピックセット」
小さなケースに収まる万年筆のカヴェコスポーツV16と#619ボールペンのセットです。
これぞカヴェコスポーツの原点と言っていいサイズ感・質感・機能性を持ち合わせる筆記具。
まさに歴史が凝縮された筆記具です。
それでは見ていきましょう。
カヴェコV16は現行のカヴェコスポーツよりもさらにコンパクト!
万年筆というと星の数ほどありますが、手のひらに収まる万年筆となると両手で数えるくらいしかないのかもしれません。
カヴェコスポーツはその両手で数えられる「コンパクトな万年筆」の代名詞的存在ではないでしょうか。
左がカヴェコスポーツV16万年筆セット、右が現行のカヴェコスポーツ。
ケースは2本用と3本用で違うものの、約2分の1ほどの大きさしかありません。
小さなケースの中に筆記具が2本。
重量は軽く、万年筆+ボールペン+メダルを含めたケースの重量がたったの30g。
内訳は、
V16(万年筆):10g
#619:10g
ケース:5g
メダル部分:5g
となっています。(全重量に対してメダルの重量が占める割合が約17%!)
キャップを外すともう一つの特徴が見て取れます。
胴軸真ん中のクリアブルーの部分はインク窓。
すなわち、V16はこのサイズ感でありながら なんと「吸入式」の万年筆なのです。
ルックスやクラシックスポーツをはじめ現行のカヴェコスポーツシリーズはカートリッジ/コンバーター式。
この時期はまだ吸入式が主流だったのかも知れませんが、吸入式は万年筆としての満足感が違います。
胴軸の尻軸側には「V16」のモデル名と字幅を表す「EF」の刻印が入り、金色のスミ入れが施されています。
そして、首軸から尻軸にかけて太くなるぽってりしたラインは他の万年筆には見られない特徴ではないでしょうか。
この個体は購入時ピストン機構が固く、かなり力を込めないとインク吸入ができない状態でした。
毎回インク吸入と洗浄が固すぎてピストン機構が壊れるといけませんので、ピストン機構の分解を試みましたが…、
あえなく失敗!
ピストンを最後まで下ろした状態で尻軸に凹みが現れるため、ここに1mm幅のスパナを差し込み回そうとしましたが回らず…!
※1mm厚のスパナがどこにも売ってなかったため、1mm厚のアルミ板を加工して自作しましたが回りませんでした。
最後の手段として、シリコンスプレーを少量溶かした水を吸入し、インクタンクの内側にシリコンの被膜をつくるという荒技に…。
無事になめらかな動作になりましたが、果たしてそれが正しかったのかはわかりません。
(何かものすごくやってはいけなかった感が漂っているのです…)
新旧カヴェコスポーツのデザインやサイズを比較
現行のカヴェコスポーツとは趣が異なるカヴェコスポーツV16。
ここでは外観の違いについて書いていきます。
カヴェコスポーツシリーズの万年筆を並べてみました。
左から、カヴェコスポーツV16、カヴェコスポーツルックス、カヴェコクラシックスポーツ。
V16の外観的特徴としてはクリップがないことと、キャップは現行品が8角形なのに対してV16が12角形。
サイズもルックスの天冠ひとつ分差があり、携帯時の全長はわずか10.2mm。
V16は比較的エッジの効いた造りで、尻軸末端のデザインなどはルックスと似ていますね。
それぞれキャップを尻軸にポストしてみたところ。
携帯時は一番コンパクトなV16ですが、筆記時にはカヴェコスポーツシリーズで一番全長が長くなります。
そのほかの機能の違いとして、V16はペン先交換は非対応。
ルックスはペン先交換対応、クラシックスポーツは首軸交換によるペン先交換に対応しています。
カヴェコのロゴにも違いがあります。
左がV16、右がクラシックスポーツ。
もともとカヴェコロゴは八角形だったということが分かります。
「KA」「WE」「CO」の3分割は昔から変わらずですが、V16のロゴの字体は温かみがありますね。
カヴェコスポーツV16はカヴェコの歴史を感じる吸入機構、クラシカルなデザインとなっています。
このコンパクトな中にギュッと詰め込まれている感じがたまりません!
小さいながらも工夫された専用レザーケース
カヴェコスポーツV16がデザイン面・携帯性に優れた万年筆ということは分かりましたが、それを支える専用ケースもいたる所に工夫が見られます。
一般的に万年筆のケースというとフラップ式(2~3本の万年筆を収納した後ベロを被せて留めるもの)やスリーブ式(ポケットに差し込むだけもの)などですが、このオリンピックモデルのケースは面白い形をしています。
スリーブ式に近いのですが簡易的な蓋があり、スッキリとしたデザインとなっています。
素材は本革ではなさそうで合皮でしょうか。
表面にはシボがありますがツルツルな触り心地で、生地は薄く柔らかいです。
写真では光の反射で分かりにくいですが、ケースの真ん中には「Kaweco Sport」のロゴが。
筆記具本体のシルエットに合うようにケースもラウンドしていることが分かります。これがピッタリなフィット感を生む専用ケースの仕事ですね。
筆記具を入れた状態で逆さを向けても落ちません。
さすがのフィット感なのですが、横から見ると3分の2くらいが深めに造られていて、あとの3分の1が蓋の役割をしていることに気付きます。
ケースの中はフェルトのような触り心地で毛羽立っています。
これが筆記具の滑り留めの役割も担っていると考えます。
筆記具が収まるスペースは肉厚かつ深めな造りで、上の蓋となる部分は薄いため筆記具保持力がありつつ取り出ししやすいという構造です。
メダルの詳細。
片面にミュンヘンオリンピックのロゴ、もう片面にオリンピックロゴが刻印されています。
合金製のメダルに真鍮製のチェーン。チェーンには緑青が出ており歴史を感じます。
このメダルがなかなかいい仕事をしていて、鞄やポケットから出す際の取っ手という役割と、チェーン+メダルが手のひらからの滑り落ち防止の役割も兼ねています。
現行品に対応したレザーケースも販売されてますが、そちらは本革で堅牢な造りが魅力です(持っていませんがいつかは欲しい!)。
装備された14C-585(EF)の書き味は?
現在購入できるカヴェコスポーツシリーズにはデフォルトで中字(M)のニブが着いていて、書き味にバラツキはあるものの安定したインクフローと簡単なペン先交換という魅力的なスペックを備えています。
V16はというと、ニブ交換には非対応ではありますが、14C-585というカヴェコ標準には珍しい金ペン先と、字幅が極細字(EF)というスペック。
ニブ形状はモンブランのウィングニブのようなシンプルな形状。
これも当時の流行などもあるのでしょう。
ペン芯は薄く、こういった形状のペン芯にはフィンが無いのもお約束。
素材はプラスチックです。
モンブランの№22のペン先と比較してみましょう。
左がカヴェコV16、右がモンブラン№22。
どちらも極細字(EF)で金ペンですが、書き味が全く違います。
モンブラン№22はかなり柔らかくしなるペン先を持っています。
一方、カヴェコV16はまるでスチールペン先のような硬い書き心地。
それぞれを横から見てみます。
カヴェコは首軸とニブとペン芯がほぼ密着している構造なのに対して、モンブラン№22は首軸とニブの間に隙間があり、ペン芯も内側にフィンが設置してあります。
言えることは、モンブランはニブとの接点が極力抑えてあり、ニブ自体の厚みも薄めなため金ペン本来の柔らかさを生かすことができていること。
カヴェコV16はニブと首軸・ペン芯の接触面が広く、“しなり”が生じにくい構造となっているのです。
書き味の好みは人それぞれですが、個人的にはもう少し柔らかいペン先を想像していました。
ペン先が硬い分、より細い文字が書けるというメリットはありますので、手帳と一緒にちょっと持ち出す運用が向いています。
最後に比較に使ったモンブラン№22(左)と、モンブランでは最小の万年筆であるモーツァルト(右)と並べてみました。
軸径はモンブラン№22に迫る太さでありながら、全長はモーツァルトより遙かに短いです。
さて、今回はカヴェコの歴史を感じる「カヴェコスポーツ V16 万年筆」をレポートしました。
可愛い万年筆ですが、ピストン吸入式や14金ペン先といった万年筆の醍醐味が凝縮されている楽しいモデルです。
現行のカヴェコスポーツと混ぜて使うというよりは、このオリンピックセットで超コンパクトに持ち歩きたいと思います。
セットになっている#619ボールペンについてはまたの機会に紹介するとしましょう。
それでは今回も最後までお読み頂きありがとうございました。
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