モンブラン 作家シリーズ「アガサ・クリスティ」に関するレポート【MONTBLANC ボールペン レビュー】
皆さんこんばんは。
今回は絶対に欲しかったボールペンについて。
ただ訳あって、入手後すぐに記事投稿!とはいかなかったのですが、晴れて記事にできるようになりましたので詳細をお伝えできればと思います。
まず、私が絶対に欲しかったボールペンとは。
タイトルにもある通り、モンブランの作家シリーズで1993年に発売された「アガサ・クリスティ」。
今が2024年の12月ですので、もう31年も前に発売された筆記具となります。
作家シリーズの中でも1、2を争う人気のアガサ・クリスティはシリーズ中2作目となるモデル。
もちろん新品を買うことは難しく、専用BOXとセットで状態が良いものを買おうと思うと相場は13万円を超えてくるため なかなか手が出ませんでした。
欲しかった理由としては、トリムが私の大好きな素材スターリングシルバーかつクラシックな蛇クリップを有している事。
全体的なフォルムが1920年代に発売されていた同モンブラン万年筆のオマージュという、クラシックモンブラン好きには堪らない仕様となっている点です。
同じく過去モデルへのオマージュである所有モデルのヘリテイジコレクション「ルージュ&ノワール」との比較。
これがやってみたかった…!
もう一つの理由として、これも以前書いたことがありますが、映画「ナインスゲート」で主人公のコルソ(ジョニー・デップ)が使用していたボールペンとして強烈に印象に残っていたこと。
特にジョニー・デップのファンとかではないのですが、劇中の独特な雰囲気とあまりにマッチした小物であったこともあり、こういう色気のあるボールペンが似合う大人になりたい…という憧れから。
ただ、筆記具に10万円以上出すことは家庭持ちの一般サラリーマンには敷居が高かったため、時が来たらいつかは…という雲の上の筆記具となっていました。
そんな経緯もありながら、いよいよ手にすることができた憧れの作家シリーズ「アガサ・クリスティ」のボールペン。
難あり品を買って、修理に出し…としているうちにすっかり時間が経ってしまいましたが、その過程と共にレポートしていきたいと思います。
作家シリーズ「アガサ・クリスティ」とヘリテイジコレクション「ルージュ&ノワール」比較
私が手にした作家シリーズのアガサ・クリスティは箱無しかつキャップに破損があるものでした。
もともと使い倒す目的で買ったため 特に箱は必要なく、破損箇所は直せば(またはプロに直してもらえば)いいか…、と大船に乗ったつもりで入手。(破損ありでも8万円近くしました…)
手元に届いたらとにかくやってみたかったこと。
それが、ヘリテイジコレクション「ルージュ&ノワール」の横に並べて比較!
キャップの破損箇所は裏側ですので、一旦、蛇クリップやデザイン、サイズの比較。
ひとまずそれからやっていきましょう。
ということで、横に並べてみました。
左がアガサ・クリスティ、右がルージュ&ノワール。
迎える2025年の干支は巳年(へび)ということで、2本並べて何やら縁起がいい感じです。
先に手元にあったルージュ&ノワールの蛇クリップ、どちらかというと格好良いというよりは可愛いのですが、アガサ・クリスティの蛇クリップはサイズも大きく迫力があります。
全長の違いについて、
アガサ・クリスティ:137mm
ルージュ&ノワール:126mm
サイズはアガサ・クリスティの方が大きいのですが、重量はルージュ&ノワールの方が重く、アガサが24gでルージュ&ノワールが35g。11gの差は胴軸の材質によるもので、アガサの胴軸のメインとなる素材は樹脂、ルージュ&ノワールは胴軸部分の芯材が金属(真鍮)製のため。
アガサ・クリスティは、少し後ろに引っ張られるなと感じるほどリアヘビー。
筆記感も大きく異なっており、その辺は後発のルージュ&ノワールの方が改善されていると言えます。
キャップ部分を拡大してみました。
アガサ・クリスティの蛇の目にはルビーがセットされており、ミステリアスな雰囲気。
ルージュ&ノワールは、ブラックこそ蛇の目に宝石の埋め込みはありませんが、バリエーションであるコーラルカラーの方にはエメラルドが埋め込まれています。
蛇の素材はアガサがスターリングシルバーで、ルージュ&ノワールがニッケルメッキ。
アガサの経年変化で蛇に味が出てくるという点は、とてもとてもポイント高し!
1920年代モデルの復刻デザインとしての再現度はどちらかというとルージュ&ノワールの方が高く、キャップリングがあるアガサ・クリスティはマイスターシュテュックの亜種という感じがします。
▲アガサ・クリスティのキャップリングには「MONTBLANC – MEISTERSTUCK – EDITION -」と刻まれている
ホワイトスターの比較。
2本とも真っ白なホワイトスターではなく、オフホワイトのヘリテイジカラー。この部分は逆にアガサ・クリスティのブラック×オフホワイトの方が1920年代のモデルを再現していると言えます。
ルージュ&ノワールはその名前の通り、ボディのノワール(黒)にトップのルージュ(赤)が良いアクセントに。
うーむ、やはりこの2本をセットで持ち歩くというスタイルが良さそうです。
ヘリテイジコレクション「ルージュ&ノワール」を買ったのが2020年の春ですので、実に4年越しとなる念願の比較となりました。
どちらも甲乙付けがたいデザインと存在感のあるボールペンです。
筆記具工房ロジューラによる修理とカスタマイズ
前項の通り、入手したボールペンの難点はキャップリング下の樹脂の一部に欠損があること。
アガサ・クリスティのボールペンにおいて、この部分に破損がある個体を何度か見てきましたが、どうも強度に難がありそうな雰囲気です。
破損部分はペンの裏側にあたるため それほど書いていて目に付くということもないのですが、やはりちょっと精神衛生上良くないのでプロにお願いすることに。
修理先は「筆記具工房ロジューラ」さん。
このブログを読んで頂いている方の中にもお世話になっている方は多いのではないでしょうか?
過去のブログでアガサ・クリスティの同じ箇所の修理について書いておられたこともあり、修理に出すならここしかないでしょう!と。
※人気の修理工房のため、オーダーが混んでいる場合は予約待ちとなります
修理の進捗などをメールで頂きつつ、しばらくお預けして返ってきたアガサ・クリスティのボールペン。
破損した部分を外し、轆轤(ろくろ)を使ってパーツを作成するという修理法。素材はセルロースを使用されています。
破損していた部分のビフォーアフター。
修理前と見比べると分かるのですが、もともとの樹脂パーツは厚みが薄く胴軸との間に隙間もないため、落下等の衝撃により亀裂及び破損が生じやすい構造となっていました。
それを踏まえ修理後は少し厚みがあり、かつ通常のマイスターシュテュックと同等の遊び(胴軸との間の隙間)を持たせてあることが確認できます。
筆記具を熟知されているからこそできる轆轤を使ったパーツ形成と、使いやすさに繋がる構造の分析に基づいた理論的で的確な修理。
単にまったく同じものを復元するのではなく、より快適に使えるよう考えられている。
感服しました。
また今回、軸の調整としてお願いしたのが「胴軸部分の重量増し」。
このアガサ・クリスティのボールペンを使ってみて気になった部分として、「胴軸側が軽すぎる」ということ。
自分好みのボールペンの重量は30g前後ですので、もともと24gのアガサ・クリスティは重さ的に少々物足りないのですが、これを調整して30gに近づけることができないものか、ということで依頼してみました。
施された内容は、胴軸内への錘の追加。
通常の寸胴な金属パイプでは先細りなアガサ・クリスティの胴軸には合わず、私自身で調整することは不可能でした。
加工した金属パイプを組み込んで重量増を行って頂いたことで、約2gの重量増に成功。
この2gがデカいのです。
胴軸部分の重量は4gから6gへアップし、それに伴いペン全体の重量は24gから26gへ。
わずか2gされど2g。ここにリフィルアダプター「MB-01」を合わせるとさらにプラス2gとなり、28gのアガサ・クリスティ ボールペンが誕生します。
重心バランスも若干ペン先側に移動し、使用感は良好。
アガサ・クリスティ ボールペンのもともとの重量スペックは、
キャップ:16g
胴軸:4g
リフィル(胴軸側加算):4g
合計:24g
となっており、重量バランスはかなりリアヘビー。
数字で見ると胴軸+リフィルでもキャップの半分の重量しかないことがわかります。
そこで、今回の調整+リフィルアダプターを利用することで、
キャップ:16g
胴軸:6g
リフィル(リフィルアダプター/胴軸側加算):6g
合計:28g
となり、重心はペン先側へ移動。
やはりボールペンは使ってナンボ。自分が使いやすいようにカスタムしていくのは実に愉しいです。
もう一点、調整依頼を出したのが、蛇クリップの蛇頭の傾き補正。
手元に届いた時から、何故か首をかしげていた蛇クリップ。
気にならないといえば気にならないのですが、せっかく修理に出すのでこれもプロに調整してもらえればと。
アフターがこちら。
違和感ないように調整して頂けました。
今回の修理&調整で、また一段と愛着が湧いたアガサ・クリスティ。
このボールペンはプライベート用として使い倒すつもりで買っていますので、また何かしら故障や破損が出た際はロジューラさんをリピートしたいと思います。
(修理代を入れても予算10万円以内に抑えることができました)
★記事の最後に「筆記具工房ロジューラ」へのサイトとブログへのリンクを貼っていますので、ぜひ訪れてみて下さい。
アガサ・クリスティの各部デザイン
さて、それではお待ちかね。素晴らしい軸のデザインを見ていきましょう。
このボールペンを手に取ったとき、真っ先に目が行くのがやはり蛇クリップ。
モンブランは万年筆を作り始めた時期から蛇クリップのモデルを出しており、作家シリーズにおいても初代の「ヘミングウェイ(アーネスト・ヘミングウェイ)」にアイコニックな蛇クリップが採用されています。
(ヘミングウェイはほぼ元となるモデルそのままのデザインとなっている)
妙にリアルな蛇頭は、作家アガサ・クリスティのミステリアスな作風と良くマッチしており、それが発売後30年以上経って尚、筆記具ファンの注目を集め続けている理由でもあります。
手元の蛇頭に埋め込まれているルビーは左右で大きさが異なっています。(これは完全に個体差)
いつか、片目をルビーからサファイアに換えてオッドアイにしたいな、なんて思ったりもしています。
スターリングシルバーの硫化がまた渋さを醸し出しており、このアガサ・クリスティについては、トリムを磨かずにいぶし銀のまま使うというのが愉しみ方の一つかも知れません。
もはやお馴染みとなったクリップ裏の刻印チェック。
アガサ・クリスティの蛇の裏側には「GERMANY」の刻印がありました。
ここは偽物回避のための情報としてお見知りおきを…。
(そういえば、アガサモデルの偽物って見たことないですね…)
天冠側からホワイトスターの眺め。
ローレットが何ともいえない格好良さ。
白・黒・シルバーという渋いカラーリングも人気の理由かもしれません。
昨今の作家シリーズは装飾がゴージャスで派手派手なイメージが強いですが、個人的には実用的なペンとしてこれくらい落ち着いたカラーリングや渋いデザインの作家モデルを希望したいところです。
クリップ上部の刻印。
蛇に向かって右側にはアガサ・クリスティのサイン「agatha christie」。ホワイトの墨入れが随分剥がれてきていますが、ここはまた自分で補修する楽しみとしてとっておくとしましょう。
蛇に向かって左側面にはシリアルナンバー。
「*****/25000」ということで、ボールペンは25000本限定の製造。
ちなみに、万年筆は30000本、メカニカルペンシルは7000本の製造となっています。
発売から30年が過ぎ、25000本のボールペンのうちいったい何本が生き残っているか…。
モンブランの特別生産品(限定モデル)は、生産終了後に設計図が封印されることから希少性を高めているとどこかで読んだ覚えがあるのですが、今は万一壊れてしまってもプロのリペア師に直してもらえるので、決して捨てないでほしいですね。
マイスターシュテュックと比較(パーツの互換性は?)
それでは最後に、検証としてマイスターシュテュックとの互換性について検証していきたいと思います。
作家シリーズがラインナップされ始めた頃のモデルは、シルエットやデザインがフラッグシップモデルのマイスターシュテュック#164や#161に似ており、もしかしたら内部パーツ等で共通品が使われているのでは?と思える節があります。
それならばと、思い切って(無理のない範囲で)分解して、確認してみようというのがこの項の主旨。
特にアガサ・クリスティについてはキャップリングに「MEISTERSTUCK」と書いてますので、もしかしたらもしかするぞ、という事でこちら。
▲左から、マイスターシュテュック#P164、アガサ・クリスティ、マイスターシュテュック#P161
並べてみると、ベースはどうやら#164となっているようです。
どちらもキャップ回転繰り出し機構となり、全長もピッタリ。
右側のル・グラン(P161)とは互換性がないことがひと目で分かります。
アガサ・クリスティのリフィル交換も、#164と同じく胴軸を回してキャップを外すという方式。
キャップから覗くネジ切りのパーツもマイスターシュテュックと同一のものが使われていそうです。
アガサ(左)と#164(右)、2つのボールペンのキャップを分解しました。
似てはいるものの、やはり内部機構に互換性はないようです。
ヘミングウェイやアレキサンドル・デュマの時もそうですが、天ビス(天冠)を止めるための雄ネジ雌ネジの構造がマイスターシュテュックとは逆で、天ビス側が雌ネジとなっているところが大きな違い。
接続ネジを使えば何とかなるのかもしれませんが、それは自分でなにがなんでも直したい時の最終手段でしょう。
これは残念というより、限定モデルならではの構造ということでやむなしといったところ。
ちなみに、マイスターシュテュック#164は天ビス側が雄ネジのため、天ビスを回すことで簡単にキャップが分解できますが、天ビス側が雌ネジの限定モデルはキャップの内部からツールを使ってネジを外さないと分解できませんので、無理に天ビスを捻るのは禁物です。
ついでに、長年の謎だった「蛇クリップはどうやって固定されているんだ問題」について、天ビスを外すと仕掛けが分かるようになっていました。
蛇頭と反対側の尻尾に丸い出っ張りがあり、キャップ側の凹みと合わせるようになっています。
天ビスは3時・6時・9時の方向にある四角い出っ張りに噛むようになってるため、ホワイトスターは決まった位置でしか固定されません。
キャップが分解できると「自分でメンテナンス」が容易となります。
このアガサ・クリスティのボールペンは私にとってまさに一生モノのボールペン。
気になったところや自分で直せるところは直しつつ、末永く愛用していきたいと思います。
それはまるで年季の入ったクラシックカーと共に過ごすように…。
さて、今回はモンブランの作家シリーズ「アガサ・クリスティ」に関してのレポートでした。
皆さんの絶対に使ってみたい、手に入れたい筆記具は何でしょうか?
よろしければコメント頂けると幸いです。
今回の記事でアガサ・クリスティの修理でお世話になった「筆記具工房ロジューラ」さんのサイトへのリンク、Xのリンクは以下となります。
筆記具工房 ロジューラ:修理の相談や見積もりはサイト内のフォームから
ブログ:修理の工程など、素晴らしい技術が写真と共に掲載されています
Xのリンク:筆記具工房 ロジューラ(@Hikkigukobo)
また、私(tanikeeeen)もXで情報を(不定期ですが)ツイートしていますので、ぜひフォローをお願い致します!
それでは今回はこの辺で。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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