モンブランの歴史が凝縮されたデザイン!作家シリーズ「ヘミングウェイ」ボールペン レビュー
仕事で使う最高のボールペンを求めて。
そろそろ人生で一度は使ってみたいボールペンが手元に揃いつつあります。
仕事にも気兼ねなく使えて、かつモンブランの歴史を感じることができ、尚且つしっかりと趣味性も兼ね備えているボールペンというと、モンブランのコレクション多しと言えど絞られてくるかと思います。
文字通りの「最高傑作」であるマイスターシュテュックをベースとしたソリテールやソリテールドゥエはもちろんのこと、私が大好きなドネーションペンや作家シリーズの中にもそれは存在し、仕事のモチベーションアップに一役買ってくれています。
今回のボールペンは、私のモンブランボールペン沼の終着点の中の一本。
(終着点が一本ではないところがミソ)
作家シリーズ「ヘミングウェイ」のボールペン。
ヘミングウェイは、1992年から始まった作家シリーズの第一弾で、ラインナップは万年筆(20000本)とボールペン(30000本)のみ。
作家シリーズはモデルによって、ペンシルやローラーボールもラインナップされることがありますが、作家シリーズ出だしの筆記モードはシンプルに2種類だったんですね。
モンブランの作家シリーズにおいて「ヘミングウェイ」という名で親しまれている本作ですが、20世紀の作家「アーネスト・ヘミングウェイ」へのオマージュモデル。アーネスト・ヘミングウェイと言えば有名作が「老人と海」ですが、数多の困難や自然的な脅威から力強く生き抜いていく老人の生き様を書いた作品。
また、ヘミングウェイ氏の自伝的な作品も多く、第一次世界大戦をくぐり抜けてきた自身の経験と出来事を知ることができます。
ヘミングウェイというと、作家でありながらマッチョで愛用の散弾銃を持った人物像を思い浮かべてしまう人も少なくないかと思われます。
そんな力強い作品群を集約させたかのような太軸と、情熱的なコーラルレッドの胴軸。
写真ではなかなか伝えることが難しい、深いブラウンのキャップとペン先にゴールドプレートのトリムを携えた、まとまりのあるデザイン。
マイスターシュテュック#161 ル・グランのような迫力がありつつ、ヘリテイジモデルのようなコンパクトさが魅力の本作品。
スペックやサイズから比較していきたいと思います。
ベースとなっている回転繰り出し式ボールペンであるマイスターシュテュック#164(左)、#161(右)と並べてみました。
実際に手元に置き使ってみるまでは、ヘミングウェイのボールペンは#161と同サイズだとばかり思っていました。しかし、実際は全長が134mmと#161(146mm)よりも12mmも小さく、#164(137mm)と比べても3mm短いというコンパクトさ。
太さは#161と同等ですが、重さが#161の30gに対してヘミングウェイが27gとずんぐりしながらも軽量に抑えられているといった印象。
ヘミングウェイの重心はちょうどキャップリングの位置にありますが、個人的にはもう少し下(ペン先寄り)でもよかったのではと思います。
太軸の中では30gを切っており、私が持っている他のボールペンと比べると(同じくらいの軸径の中では)軽いと感じます。
ちなみに、前回の記事でマイスターシュテュック#164の胴軸内部に真鍮パイプを入れて重さを調節する試みをしていますが、ヘミングウェイの胴軸内のリフィルスペーサーはペン先のブラウンの樹脂と一体となっており、真鍮パイプに交換するとはできません。
これは少し惜しいところですね。
美しい胴軸カラーであるコーラルレッド×ダークブラウンの組み合わせは、ドネーションペンのバッハと同じとなります。(バッハは胴軸がダークブラウンでキャップがコーラル)
この2本が本当に兄弟モデルのようですので、どちらかをお持ちの方はもう片方を揃えてみるのも一興かもしれません。
ドネーションペンの「ヨハン・セバスチャン・バッハ」は2001年に発売されたモデル。
1992年発売のヘミングウェイの後輩ということになりますが、この妙な一体感は何でしょう。バッハはドネーションペンの3作目にあたります。
サイズは#164をベースとしたバッハが138mmと4mm長く、胴軸も#164ベースのモデルのためヘミングウェイより細め。バッハのボールペンは胴軸内に真鍮パイプを仕込んで、重心をペンの真ん中に調整しています。
天冠のホワイトスターはドネーションペン(ベーシックな#164)と同サイズで、ドネーションペンを一回り大きくしたような「尖ったプリン型」となります。
これがまたクラシカルでよい味を出しているのです。
チラッと見えていますが、ヘミングウェイ ボールペンのクリップ裏は製造国やPix®などの刻印なし。
1992年発売ということで、#164がモデルチェンジするタイミングで、クリップリングのシルアルナンバー刻印はこれ以降の#164で付くようになります。
マイスターシュテュック#149クラスの大型万年筆でいうと、現行モデルのペン芯(おにぎり型凹み)の前の所謂「ヘミングウェイペン芯」と呼ばれる形に変わったのがこのモデルからでしたね。
万年筆#149ペン芯の推移は、エボナイト縦溝→エボナイト横溝(後にエボナイト2段)→ヘミングウェイ型→おにぎり凹み型、という順となります。
さて、ヘミングウェイのボールペンに話を戻しましょう。
キャップ周りでシンボリックな存在というと、「刻印とクリップ」ではないでしょうか。
キャップの刻印は、伝統的な1930年代の万年筆に着いたものが使われています。
ヘミングウェイの元のモデルはマイスターシュテュックのL139。ヘミングウェイ自身が愛用していたマイスターシュテュックだそうです。
その下にはヘミングウェイのサイン。
もともとゴールドで墨入れされたサインは、経年使用によりほぼ剥がれてしまっています。
丁寧に実用されてきた証拠でもありますね。
ヘミングウェイのクリップは、これまたL139と同じ「スネーククリップ」。
手元にあるヘリテイジ「ルージュ・エ・ノワール」のスネーククリップと並べてみると、ヘミングウェイ(元:L139)のクリップは大人しめのデザイン、というかシンボリックなスネークのデザインとなっています。
これが仕事にでも使える一つの要因となっていて、ヘリテイジモデルのスネークほどガッツリ蛇感がないことはビジネスにも使えるモデルとして功を奏していると言えるでしょう。
ちなみにヘミングウェイのボールペンおよび万年筆のトリムの状態ですが、あまり良いメッキが使われていなかったのか、点状劣化した個体がほとんど。
このあたりは発売から32年経っているだけあって仕方が無い部分でもありますが、点状劣化のないトリムを入手できたらそれはかなり幸運なのかもしれません。(それだけ価格は高くなりますが…)
ついでにルージュ・エ・ノワールとサイズを比較してみると、丁度天冠パーツ分背丈が違います。
モンブランの特別生産品において、ヘリテイジモデルはいずれも小さめのサイズとなっています。
そう思うと、このヘミングウェイはミドルサイズのボールペンと言えるのかも知れません。
キャップリングの基本的な構成はマイスターシュテュックと同じで、ゴールドプレートの三連リング。刻印は「MONTBLANC – MEISTERSTÜCK – EDITION 」。この刻印(EDITION)は次モデル1993年発売の「アガサ・クリスティー」も同じとなり、以降は廃止となっています。
クリップリングはクリップを境に左側に「GERMANY」、右側にシリアルナンバーとなります。
シリアルナンバーの面白い部分が、通常のマイスターシュテュックとは構成が違うこと。
手元の個体は「FE 0179/06」という8桁の構成で、通常モデルにはない「/(スラッシュ)」が見られます。
製造本数とは直接関わりがない(?????/30000本)シリアルナンバーですが、この時代のマイスターシュテュックのシリアルナンバーである冒頭のアルファベット2文字など、以降の標準モデルに引き継がれたことが覗える内容で興味深いです。
ペン先の方に目をやると、1996年の作家シリーズ「アレクサンドル・デュマ」によく似ていることに気付きます。樹脂部分の長さこそ違いますが、おそらく先端の金属部分は同じパーツではないかと。
ヘミングウェイのボールペンにおいてこの口金部分の樹脂パーツは非常に脆いで有名。
ペン先の金属部分とダークブラウンの樹脂パーツ上のリングが内部構造上繋がっておらず、経常的にも筆圧を受け止めるのに十分な強度がないと思われます。
一方、胴軸とキャップをつなぐ部分のネジ切りパーツは金属製でしっかりとした強度が保たれていることに気付きます。
コーラルレッドの樹脂も肉厚めに作ってあり、太軸ならではの安定感が得られていると感じます。
このあたりはマイスターシュテュック#161のボールペンとも共通している部分ですね。
憧れのヘミングウェイ ボールペンを手にしたついでに、内部機構は見ておくことにしましょう。
#161と同じく内部からネジを外して外装と内部機構を分けます。
モデルがマイスターシュテュックと言うだけあって、キャップ内の構造やパーツの構成は#164や#161と同じです。
天冠(天ビス)のホワイトスターの位置は固定となり、微調整は不可能。
キャップの位置はキャップ上部の樹脂の出っ張りによってズレないようになっていました。
通常のマイスターシュテュック#164との内部機構の一番の違いは、天ビスを止めるためのネジ切りの雄雌が逆だということ。#161のネジ切りと同じで、繰り出し機構側が雄、天ビス側が雌となります。
冒頭でサイズ比較した#164と#161の内部機構と見比べてみましょう。
ヘミングウェイはキャップの全長が短い分、内部機構は#164と比べても短め。
同じ雄ネジを持つ#161の内部機構と比べると、長さはかなり短く互換性はありません。
マイスターシュテュックベースの特別生産品といえど、内部機構が新規作成されているとことが流石モンブランの拘りと言えるでしょう。
これは逆に、一般モデルのパーツを流用しての修理ができないということでもあります。
モンブランの特別生産品は、製造が終わった際それに関する製造資料(設計図?)を破棄もしくは凍結するらしく、これがまたこれらのモデルのプレミア感を引き立てているといいます。
ちなみに、サイズが似ている手元のアレクサンドル・デュマのメカニカルペンシルをヘミングウェイの内部機構を使ってボールペン化できるか試してみましたが、内部機構がキャップに合わず無理でした。
やはり特別生産品と言うだけあって、簡単に流用がきく構造になっていないということですね。
マイスターシュテュックシリーズの内部機構は、上部のネジ切りで天ビスを接続しクリップを止め、キャップ内では半透明や黒の樹脂スペーサーを配置することで内壁に固定されるようになっています。
この重要な役割を担う樹脂パーツ一つにおいてもモデル毎に違うものが作られているという徹底。
修理屋泣かせですが、流石、筆記具界を牽引してきたメーカーとしての拘りはもの凄いです。
最後は、ヘミングウェイボールペンを他のモデルとサイズ比較して終わりたいと思います。
▲左から、Pix172(MP)、ヘリテイジ ルージュ&ノワール(BP)、ヘミングウェイ(BP)、エジプトマニア(BP)、Pix L71(MP)
ヘミングウェイのボールペンがコンパクトなモデルだということは前述したとおりですが、どれくらいのサイズ感かというと、ヘリテイジモデルよりも少し大きめ、手元のヘリテイジモデルボールペンではエジプトマニア(134mm)と同サイズとなります。
アンティークモデルにあたるメカニカルペンシルのPix172やPix L71(同じくL72)あたりともデザイン的にマッチするため、ペンシルとボールペンをセットで持ち運ぶ際は、この辺りの1920~1930年代のペンと合わせるのもありかと。
特にマイスターシュテュックの前身のPix172とはデザイン的に相性抜群です。
手元に揃った5本の作家シリーズ。左から発売年が若い順になります。
1992年:ヘミングウェイ
1995年:ボルテール
1996年:アレクサンドル・デュマ
2001年:チャールズ・ディケンズ
2004年:フランツ・カフカ
※デュマのみメカニカルペンシル
キャップ部分のデザインが凝っている作家シリーズの傾向として、ボールペンはリアヘビーなモデルが多い気がします。
この中で一番重量バランスがいいのが左から2番目の「ボルテール」。こちらもマイスターシュテュック#164がベース。チャールズ・ディケンズは内部機構的にはスターウォーカーと同じく回転繰り出しの操作部がペン先。
ヘミングウェイはコンパクトかつ太軸ということで、個人的には好みにハマるボールペンでした。しっとりとしたコーラルレッドレジンのハンドリング、スネーククリップにゴールドプレートのトリム。
1930年代モンブランの歴史を感じることができる逸品です。
最近は某オークションやフリマで見かけることも多いので、決して安い買い物ではないですが狙ってみてはいかがでしょう。
それではまた次回。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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