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エボナイト製アンティークペンシルのすすめ【モンブラン Pix72シリーズを比較する】

2024年9月25日

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皆さんこんばんは。
 
様々なペンに出合いつつも、数ヶ月経つとモンブランに帰ってきてしまう当ブログ。
モンブランに限らず、万年筆・ボールペン・メカニカルペンシルが好きな方は、定期的にヴィンテージペンシル(またはアンティークペンシル)を覗きたくなるのではないかと思うのです。
 

 
過去の産物に興味を惹かれる理由として、現在の筆記具デザインの本質的なデザインの流れ(ミニマル化)から外れていることが逆に「新鮮」だということ。
 
デザインはもとより、低コスト生産が当たり前の今では考えられない拘られた造りや素材。
それらに出逢えるのがヴィンテージペンシルの醍醐味であり、ヴィンテージペンシルに求める楽しさではないでしょうか。
 

 
現在手元にあるモンブランのヴィンテージペンシルも気付けば3本。
Pix L71→Pix72ときて、今回 Pix72/2を入手しました。
 

 

基本的なデザインや構造は同じですが、細かな部分で違いがあるのが面白い。
Pix72シリーズは1920年代から1950年代まで長きに渡り製造されてきたモデルとなります。
 
そのため、素材やクリップの形状・刻印にバリエーションがあり、非常に面白味のあるモデルとなっているのです。
 

 
さて、今回手にした「Pix 72/2」のスペックですが、
 
全長:119mm
重量:20g
対応芯径:1.18mm
 
となり、一般的なPixペンシルと同サイズで同重量。
72/2の特徴としては、胴軸中央のダブルリングとなります。
 
このPix72/2は ほぼミント品で、元箱こそ無かったものの、使用感が皆無で軸の状態も良好。
軸の素材はエボナイトであることから、製造は1930年代の初頭と思われます。
 
Pix72シリーズは、この時代を感じる湾曲したクリップやクリップとノックキャップの間の“頭”の部分が特徴的で、とても美しいフォルムをしています。
 
全体的なサイズの割に重量が20gと少し重めなのは、軸の芯材(兼メカニカルペンシルの機構)が真鍮でできているため。
 
この手触り、重み、何とも言えずただただ筆記する際は心地良いです。
 

 
手元にある3本のヴィンテージPixペンシルを並べてみます。
左から、L71、72/2、72という並び。
 
ううむ、製造が1930~50年代ということで、約90数年も前に製造されたメカニカルペンシル。
ヴィンテージペンシルというより「アンティークペンシル」と呼ぶ方が相応しいのかも知れません。
 
これが現役で使えるというのは、造りの良さもそうですが、これらのペンシルを使ってきた前オーナー達が大切に扱っていたからこそ。
幾つもの時代を見てきたペンシルが今手元にあるというだけで、感慨深いものがあります。
 
素材についてはL71と72/2がエボナイト製、72がセルロイド製。
見た目は同じ黒い樹脂軸ですが、触り心地(握り心地=グリップ感)は大きく異なります。
 

 
私はエボナイト製の筆記具を推しています。
その理由として、手触りとグリップ感。
 
今回、運良くミント品に近いエボナイト製のPixペンシルを手にしてみて、この年代のPixペンシルのグリップ感の良さが異常であることに気付きます。
 
エボナイトだからひとえにグリップ感が良い、とは言うつもりはありません。
なぜなら、エボナイトであろうがセルロイドであろうがアクリルであろうが、素材の性質や物質としての密度はあるものの、ようは表面の磨き方によって手触りというのは少なからず変わるからです。
 
その点、あまり前オーナーの影響(メンテナンスによる摩耗)を受けていない「素の個体」を触って感じることは、エボナイトは筆記具の素材として適材で、コクッとした手触りがグリップ感を良く(滑らなく)しているということ。
 
すいません。
突然個人の感覚的かつ、抽象的な表現を出してしまいました。
 
指先を同じ繊細な感覚まで感じ取ることができる、我々の別の器官「舌」に例えるとすれば、デンプン質であるジャガイモやサツマイモ、クリといった食物を味わった時の感覚に近いと思うのです。
 
非常にコクッとしている。
これこそが1920年代~30年代にかけて造られていた「エボナイト製のPix72」の醍醐味。
 
逆に、1930年頃からメインの素材となったセルロイドで造られたPix72は手触りはしっとりとしながらも、グリップ感に関してはヌルッとしています。これは素材としての密度の高さから来ているもの。
 
セルロイド素材だとカラフルな筆記具が造れるというメリットがあり、これはこれで高級筆記具に向くのですが、欠点として退け(縮みや変形等の変化)が素材の特性上避けられないということ。
(エボナイトにも注意すべき点として変色があるのですけど…)
 
また、そのヌルッとしたグリップ感は時に滑りやすいと感じるため、筆圧をかけて筆記するメカニカルペンシルやボールペンには向かないのではないかと思うのです。
 
一方で、万年筆やローラーボールのような筆圧をあまり必要としない筆記具には良いかと思います。
まあ、あくまでこれは持論ですので、参考程度に思って頂ければ幸いです。
 
話が長くなりましたが、ようは1920年~30年代に造られたPixペンシルは、手触りが良いしグリップ感も良いので書きやすい!ということが言いたかったのです。
 
アンティークペンシルは樹脂軸であれば「エボナイト製」に注目して頂くと楽しみの幅が広がるかと。
 

 
先ほど補足したエボナイトの変色が見られるのがこの写真。
左の72/2と右のL71の色味の違いがお分かりになるかと思います。
 
ブラックのエボナイトは普通は漆黒ですが、利用状況や保管状況によっては赤茶色く変色してしまう。表面に水分が付いたまま放置や、水に浸けて放置は禁物です。
 
という違いも見てもらいつつ、もう一つ注目したいのが、エボナイト製のPixペンシルのノックキャップに見られる「D.R.R 569824」の刻印。
 
これは特許番号で、この刻印が打たれているプッシュボタンに何かしらの特許がある(あった)という事だと考えます。
(パーカー デュオフォールドのアンティークペンシルには、クリップに「PAT SEP.5-16」の特許番号刻印があります)
 

 
72/2のようなモンブランPixペンシルシリーズの型番は、クリップの下辺りに刻印されています。
おそらく焼き印のように打たれる型番ですが、エボナイト軸は変色する度、黒さを取り戻すために表面を研磨される傾向にあるため、刻印が薄くなっているものがほとんど。
 
極限まで研磨されていないエボナイト軸の、この絶妙にザラッとした質感が何とも言えません。
 

 


 
刻印の位置はモデルによって様々で、72(写真奥)のように胴軸にリングが配されていないモデルは軸の中程に、リングがあるモデルはクリップの下辺りに刻印されています。
 
L71(写真中)を見ると分かるように「Pix」の筆記体のロゴに歴史を感じます。
現在のモデルではマイスターシュテュックやエントリーモデルにPixの名が使われ、モンブランの歴史から見ても重要なブランド名だということが覗えます。
 

 
Pixペンシルを比較したとき、とても興味深いのがクリップの形状の違い。
デザインの返還的には、写真左のモデル(72/2)から右(72)のモデルの方へと形を変えていきました。
 
この辺りのクリップデザインは、同じドイツのメーカーであるカヴェコのアンティークペンシルにも見られる事から、1920~30年代のトレンドになっていたか、同じ金属メーカーが造っていたか、という事でしょう。
 

 
ペン先の方に目をやると、上位モデルのL71(またはL72)の口金が特別であることが分かります。
口金のパーツ自体は廉価モデルも上位モデルも同じですが、デザインという面でL71(またはL72)の口金にはミルグレイン(装飾刻印)が施されています。
 

 
口金を外すと3モデルとも同じペンシルの内部機構となっており、全長や重量が同スペックであることの裏付けともなっています。
 
Pixペンシルを入手する際は、チャックがうまく動作するかを確認する必要があります。
中にはノック時に芯が固定されず抜け落ちてしまう個体もあるため注意。
 

 
Pixペンシルを分解してみました。
パーツの構成は、真鍮製のペンシル機構(中軸)・口金・樹脂製の胴軸・クリップ・樹脂製の頭キャップ・ノックボタンの6つ。
 
PixL71の記事を書いたときに「クリップが外れない…」と書きましたが、実は外せることがその後に判明しています。
 
組み立ては、中軸に対してペン先側から、頭キャップ→クリップ→胴軸→口金の順に差し込んでいくだけ。
これは他のPixペンシルのモデルも同じで、メンテがし易い合理的な構造だと言えます。
 

 
Pix72や72/2は一本の胴軸パーツとなりますが、L71(またはL72)はペン先側とクリップ側にパーツが分かれているのも興味深い。
 
L71はL72や他の72モデルよりもずんぐりと太い軸径になっているため、軸の厚みも迫力がありますね。
 

 
Pixペンシルといえば、その名の元にもなったノック時の「ピックス、ピックス…」というノック音。
※外国語的にそのように聞こえるという擬音語が語源。
 
Pixペンシルはいずれのモデルもとても押しごたえがあり、ノックする度に「あぁ、Pixペンシル使ってる」という思いが湧いてきます。
これがたまらんのです。
 

 


 
同じ年代、同じドイツの筆記具メーカーに「カヴェコ(Kaweco)」があります。
カヴェコのペンシル「スペシャル」もPixペンシルのようにエボナイト→セルロイドという素材の変化を経験してきたモデル。
 
丸軸のモンブランPixペンシルに対して、八角軸のカヴェコスペシャル。
エボナイト製の多角軸はエッジが効いていて非常に格好良いです。
 
ちなみにこちらは芯出し方法が回転繰り出し式となっています。
 

 
Pixペンシルとカヴェコスペシャルを並べてみました。
 
左側はアンティークカヴェコ。
八角軸のスペシャル(69K、168K)と丸軸の109。八角軸はエボナイト製で、丸軸はセルロイド製。
こちらもやはり触り心地がコクッとヌルッで違います。
 
左側の7本はすべてモンブラン。
Pixペンシルはモデルによってエボナイトとセルロイドで素材が違い、マイスターシュテュックのようなデザインの172以降はプラスチック(プレシャスレジン)の軸へと移っていきます。
 
いずれも「Pix」と刻印されたペンシル。
1920~30年代のPixペンシル72から、1950年代の172、1960~70年代のPiX-16と、時代の流れと共に姿を変えていくPixペンシルですが、独特なガチガチとしたノック感は引き継がれています。
 

 
1.18mm芯を使うアンティークペンシルの良い点は、線の太さが変幻自在だということ。
カッターや芯研ぎ器で尖らせれば0.3mm幅の線を引くことができ、また、磨がなければ1.18mmの極太を愉しむことが可能。
 
これは通常の文字書きとしての時幅から、スケッチペンとしての機能まで有することを意味します。
一度使ってみるとその守備範囲の広さに虜になる1.18mmペンシル。
 
その時幅の広さにプラスして、有り余る軸の魅力。
モンブランのPixペンシルやカヴェコスペシャルを持つ意味はこれに尽きます。
 

 
さて、今回はモンブランのアンティークペンシルであるPixペンシル72/2を中心に、エボナイト製ペンシルの魅力について書いてきました。
 
72シリーズは特に製造期間が長いため、中古市場では見かける機会も多いかと思います。
入手された際は、ぜひクリップの形状やペンシル自体の造りを観察しつつ、独特なノック感を愉しんでみて下さい。
 
それでは今回はこの辺で。
最後までお読み頂きありがとうございました。

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