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素晴らしきデ・ラ・ルー オノト 万年筆の書き味【ONOTO DE LA RUE レビュー】

2023年10月8日

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皆さんはヴィンテージ万年筆(またはアンティーク万年筆)と聞いて何を思い浮かべるでしょう?
モンブランやペリカンの年代物ももちろんあるのですが、私は「オノトの万年筆」。
 

ひとえに「オノトの万年筆」と言うと、メーカーがオノトであると勘違いしてしまうそうですが、オノト(ONOTO)は万年筆のブランド名であって、メーカーはイギリスのデ・ラ・ルー社です。
 

何というか 私のオノト万年筆のイメージは、ヤード・オ・レッド社のヴィンテージペンシルのような感覚で、「筆記具としては古い機構を持ちながらも、メンテ次第で現役の使用にも十分に耐える道具」というイメージ。
適切なメンテをすることで本当に孫の代まで使える道具という、少し玄人向け筆記具というイメージでしょうか。
 

 
ヤードもデ・ラ・ルーもイギリスのメーカーという共通点があります。
 

そう、初めてオノトという名前を聞いたのは、イギリス好きな筆記具の師匠(数年前にTwitterで出合い、筆記具沼にハマるきっかけとなった方)が、「オノトの万年筆は良いよ」と言っていた時で、もうかれこれ6~7年前になるでしょうか。
 

当時、オノトは夏目漱石が使っていた万年筆くらいとしか認識がなく、万年筆を持ち始めた私にとってはプランジャー式という独特なインク吸入機構もあってか、何だか敷居の高い万年筆というイメージでした。
 

しかも某オークションでも、状態が良くない割になかなかの高値が付く筆記具でしたので、これはコレクターがつくほどの 相当マニアックなものに違いない!というイメージのもと、自分には扱えないであろうと敬遠する傾向にありました。
 

その後もTwitterで様々な方と知り合い、中には万年筆の調整をされている方々もちらほら。
 

デ・ラ・ルーオノトの修理/調整を得意とされている方もおられ、万年筆の知識もある程度ついてきたこともあり、ジャンク品を掴んでも何とかなるか!という意気でヴィンテージのオノトを購入。
 

購入したオノトはプランジャー機構が死んでいて、つけペン万年筆として使用していましたが心のもやもやは取れず。
 

やはりオノトを機構・書き味含めて120%味わうには修理や調整が必要!と判断し、その道のプロにお任せすることに。
 

今回の記事は、つけペンとして使っていたオノト万年筆を修理/調整に出し、機能を取り戻すまでの過程の時系列となっています。
 

 

 

 

デ・ラ・ルー社 オノト万年筆のデザイン

手元のオノトは2本で、どちらもモデルは5600と推測。
おおよそ1世紀前の万年筆ですので、本体の素材は現在のプラスチックではなくエボナイトというゴムが主原料の合成樹脂となっています。
 

 
エボナイト焼けと呼ばれる変色が見られる片方のオノトと漆黒を維持しているシングルキャップリングのオノト。
片方は黒かったボディがカーキ色に変わっています。
 

 
オノトというと夏目漱石や内田魯庵が使っていた万年筆というイメージがありますが、夏目漱石が使っていたのは手元にある5600シリーズよりも前のモデルで「ペリカン(Pelican)」というクリップの無いモデルだそう。
※メーカーの「Pelikan」ではない、デ・ラ・ルーのモデル「Pelican」
 

 
キャップには空気穴が4つ。(クリップの下を含めて四方に開いています)
キャップに穴が開けてある理由としては諸説ありますが、気圧の変化によるインク漏れ対策とどこかで聞いたことがありますが、実際はどうなんでしょう。
 

パーカー万年筆の穴(1つ)はよく、ペン先の乾きを危惧するユーザーの手によって埋められていますね。
 

 
クリップはクラシカルな玉クリップ。
クリップやゴールドトリムのキャップリングには劣化が見られますが、ヴィンテージ万年筆に完璧を求めてはなりません。
 

よく見ると、キャップリングには「RG」という謎の小さな刻印が。
しかも正位置からだと逆向いており、天冠側から読んでRGだと分かる程度の物です。こういう刻印の類いを探すのは楽しいですね。
 

 
クリップにはトーマス・デ・ラ・ルー社のマーク「TDR」。手彫りで味があります。
後のモデルでは太陽のマークに変わっています。
 

 
尻軸。
オノト万年筆のエボナイト焼けは表面を研磨する(焼けている部分を削る)ことで黒さを取り戻します。
その度に表面の模様や刻印は削られ、薄くなっている物がほとんど。
 

こちらの個体もおそらく「5600」と刻印されていたであろう跡がうっすらと。
0の下には横向きに打ち込まれたエボナイトのピンが見えます。
 

 
プランジャー式ということで尻軸(尻栓)のネジを外すとロッドが伸びますが、こちらカーキの個体はロッドがスカスカで気密性がなく、プランジャー式の機能を保持していません。
 

しかももう1本の黒いオノトに至ってはロッドが欠損しておりインク吸入どころではない状態。
つけペンですので問題なく使えていますが、やはりプランジャー式でインク瓶からインクを吸いたい…。
 

 
胴軸には「ONOTO THE PEN」「DE LA RUE & Co LTD LONDON」の刻印。
 

 
刻印の四角いスペースの周りには、細かなギロシェ模様が刻印されていたと思われますが、かなり薄くなっていることが分かります。
 

 
非常に軽いオノトの万年筆。
使われている金属はトリムの部分のみのため、ペン全体の重量は15g程度。
キャップを抜いた重量は10gという軽さ!
 

さすが、文豪が好んで使用していたとされる万年筆だけあって、長時間の筆記にとってペンの軽さは重要です。
 

 
キャップを尻軸にポストしても違和感のない重量バランスと全長。
携帯時は全長が129mm、キャップを尻軸にポストすると163mm。
 

ペン全体が軽いため見た目以上にリアヘビーな感じはせず、むしろ素晴らしいシルエットとなります。
 

 
ペン先は14金。
刻印はモデルにより様々ですが、手元の2本に共通する刻印は「DE LA RUE」「ONOTO」「LONDON」。
数字の「3」はニブのサイズ。数字が大きくなるほど大型になります。
 

このなで肩のニブ形状と、ハート型のハート穴が可愛いですね。
 

 
ペン芯はつるんとした質感のシンプルなもの。
ヴィンテージ万年筆のペン芯はこのように薄いものが多いですね。確かパーカー デュオフォールドもこんな感じだったような…。
 

ペン先が曲がっているんですよね…、手元のオノト。
それでも柔らかなタッチを維持しているヴィンテージオノト。
 

個人的にどツボなのが首軸の形。
プランジャー式やインク止め式のヴィンテージ万年筆は首軸の形がとにかく格好良いのです。
 

 

オノト万年筆をいざ修理/調整へ

見てきたように、ボディの状態等は問題ないと思われる手元の2本のオノトですが、つけペンとしての利用より、プランジャー式を生かした運用がしたい!ワシはプランジャーを使ってみたいんジャー!
 

ということで、プロに頼むことにしました。
 

 

今回依頼したのが、オノト(デ・ラ・ルー)とモンブランをメインに様々な万年筆を修理・調整されている調整師「ネコ様の万年筆(@ThomasDe_La_Rue)」さん。(Twitterリンク)
 

しばしばオノトの修理風景をアップされていましたので、オノトの修理と言えばネコ様でしょう!ということで、早速依頼。
 

何回かのDMやりとりの後、いざ修理へ発送!
 

 

オノトのようなヴィンテージ万年筆(いや、正確にはアンティーク万年筆と言うべきか)には修理やメンテが欠かせませんが、オノトが作られた約1世紀前の手法を忠実に再現するのではなく、現代に置き換えた時に考えられる最善の素材や手法で修理されているというところが、今回 私が依頼を決めたポイント。
 

例えば、プランジャー式機構では胴軸内に無気圧空間を作るため、尻軸付近にコルク材が使われています。
当時の技術を再現するのであればコルクを使えばいいわけですが、それだと耐久性に不安があり、また程なくして修理に出す必要が出てきてしまいます。
 

そこをパッキンやOリングに置き換えることで、耐久性を担保しながらオノトプランジャー式の操作性を再現し、また、長期利用にも耐えうる状態へと仕上げているのです。
 

もちろん、コルクはコルクで吸入時ロッドの操作が軽いなどのメリットもあります。
保管するうえの作法(未使用時は水を吸入しておく等)がありますが、どのように使いたいかで依頼先を選んでも良いでしょう。
 

やはり万年筆はガシガシ実用してナンボと考えていますので、なるべく少ないメンテ回数で長く使えること。
これが私がアンティーク万年筆を使う上で必要不可欠な状況。
 

ネコ様の万年筆さんは上記のように、中古または新品のパーツと現代の技術で代替できるパーツを元に修理を行い、それを実現されています。
 

修理中も細かな修理風景を知らせてくださり、終始安心して完成を待つことができました。
発送から到着までの修理期間は約1週間程度と、万年筆の修理は初めて出しましたが、個人的にはカメラや時計に比べてとても早いという印象です。
※納期等は修理の混み具合により変動します
 

 
私の2本を含めたオノト万年筆の調整、修理風景はブログの方にもアップされていますので、気になった方はぜひ訪れてみてください。
 

サイトのリンクはこちら↓。
 
ネコ様のペンクリニック Penna Stilografica
 
さて、修理/調整を終えて丁寧に梱包されて戻ってきたオノト万年筆。
書き味やプランジャー式吸入機構を試していきたいと思います。
 

 

万年筆としての機能を取り戻したオノトは120%楽しい

修理/調整から戻ってきたオノト2本を早速使ってみます。
 

 
帰還した2本のオノト。
微妙に天冠や尻軸のデザイン、キャップリングの数などに違いがあるのが面白いです。
 

ネコ様に調べて頂いたところによると、モデルは5601とのこと。
モデルによるデザインの違いは多岐に渡り、オノト修理に携わっていると資料に無いモデルに出くわすこともあると仰っていました。
 

 
デ・ラ・ルー社がオノトを製造していたのが1905年~1958年とされています(枻出版社:万年筆クロニクルより)ので、その53年間の間、様々なバージョンアップやマイナーアップデートが施されてきたと想像できます。
うーむ、奥が深い。
 

 
オノトを手に持ったときの重み。
もちろん補完された内部パーツはありますが、重み=重量という意味ではなく、人の手が加わって命が吹き込まれた感じ。
 

これが、本来のオノト万年筆というモノなのか…!!
 

 
カーキの方も同様にカッチリと仕上がっている感。
何というか、プロにお任せした安心感というのがついているのでしょう。
使い出すにあたっての何の心配も無い、これから本来のオノトを使えるという満足感というのもあります。
 

 
ペン先も整えて頂きました。
本来あった書き味を残したまま、ペン先の曲がりなどが修正されています。
 

 
ペン先を拡大するとこの通り。
左がカーキ軸で右が黒軸。
 

どちらも3番の小さなペン先ですが、書き味は流石オノトという柔らかさ。
 

 
カーキのオノトは細字で、取り回しのしやすい書き心地。
紙へのタッチが柔らかで、指に摩擦を感じることなくスルスルとペン先が走ります。
 

黒のオノトはスタブっぽい書き味で、角度によって太めの線と細い線。
(画像の「プランジャー式の~」以降の文字)
私の特にお気に入りの書き味です。
 

 
尻軸などピンのある部分。
次回もし調整となった場合に分かりやすいようにと、あえてパーツの隙間は埋めて隠さずに。
これもメンテをして長く使う上での工夫ですね。
 

 
尻軸のロッドを固定するためのピン。
私のような素人だと ここにピンがあること自体見逃しそうですが、ピンが見えていることで構造も理解できます。
そして、外観の情報量としても良い味を出しています。
 

 

こうして見事に蘇ったオノトの万年筆。
インクが入った状態で返ってきていますので、また今のインクが無くなったらプランジャー式の吸入方法を楽しんでみたいと思います。
 

 

オノト プランジャー式 万年筆のインク吸入方法

しばらくオノトを使いインクが切れましたので、洗浄して新しいインクを吸入していきたいと思います。
 

プランジャー式というと、今はパイロットのカスタム823がメインどころではないでしょうか。
しかし、プランジャー式のオリジナルであるオノトを使わずしてカスタム823を使うわけにはいきますまい。
 

オノトと言えばいつかは「セピア」のインクを吸わせたいですが、今は持ち合わせがないためペリカン(こっちはPelicanじゃなくてPelikan)の「エーデルシュタイン」をば。
 

 
ペン先洗浄の際は首軸を捻って外してジャブジャブと洗います。
この首軸にもネコ様にインクボタ落ち対策の補修を施して頂いています。
 

 
プランジャーロッドの操作感もねっとりとしていて精密感を感じます。
インク吸入の際は、まずこのロッドを目一杯上げて吸入準備。
 

最初、プランジャー式というのは注射器のようにインク瓶にペン先を突っ込んでから、ロッドを持ち上げながら吸い上げるものと勘違いしていました。
 

実際はロッドを持ち上げた状態から、下げていくことで胴軸内を無気圧状態にし、最後の押し下げで無気圧を解除=インクを吸い上げるという機構だということを知りました。
なかなかに面白い吸入機構だと言えます。
 

 
さて、目一杯ロッドを上げて準備完了。
 

 
続いて、インク瓶にペン先を沈めます。
ペン先をインクの底に押しつけないように慎重に。
 

 
利き腕で作業を行うために持ち手を変えました 笑
この状態からロッドを下げていきます。
 

もちろん、この状態だと胴軸内に空気が入っているので、ロッドの押し下げに比例してブクブクと音を立てるインク瓶。
 

 
最後の押し下げで「シュポン!」という無気圧解除の気持ちの良い音が鳴り、インク吸入が開始されます。
私は5秒くらい待ちますかね。
 

あとは尻軸のネジを締め、ペン先の余分なインクを拭き取れば、インク吸入は完了です。
 

尻軸のネジを最後まで締める事で、首軸と胴軸(インクタンク)が完全に遮断されます。
この状態で携帯し、書き始めるときは尻軸ネジを少し緩めてインクタンクから首軸側にインクを通します。
 

 
このネジの緩め具合いは本当に少しで十分。
連続して書き続けるときは緩めたままに、筆記中もネジを締めたり緩めたりでインクフローを調整することができます。
 

いやー、面白いですプランジャー式万年筆!
修理してよかったと思える瞬間ですね。
 

 

さて、今回はデ・ラ・ルーのオノト万年筆を購入後~修理~復活利用までの流れでレポートしてきました。
約1世紀昔のアンティーク万年筆を日常で使う喜び・愉しさは格別です。
 

某オークションやフリマの普及により、出回ることが増えてきたアンティーク(またはヴィンテージ)万年筆。
多少状態が悪くても調整師さんの手で(よほど修繕不能な状態でなければ)修理が可能です。
 
そんな修理が必要なオノト万年筆を入手されたら、「ネコ様の万年筆」さんの調整、お勧めです。
 

 
暑い夏に冷えた麦茶を飲みつつ、ゆっくりと明治・大正時代に思いを馳せながら使うオノトの万年筆。
実にロマンに溢れていると思いませんか?
 

それでは今回はこの辺で。
最後までお読み頂きありがとうございました。

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