“もう一つのエクリドール” カランダッシュ ヘクサゴナル キューブ ボールペンに関するレポート
高級筆記具の部類に入る筆記具の中で、比較的手が出しやすく、それでいてパフォーマンスが高い筆記具は何かと聞かれた時、必ず口に出す筆記具があります。
「カランダッシュのエクリドール」
カランダッシュにはさらに手が出しやすく、パフォーマンスにも優れた「849」というモデルもありますが、849はアルミ合金にラッカー塗装がメインとなり、どちらかというと高級筆記具というよりは汎用モデル的な印象が強くなります。
では、849よりもエクリドールの方が筆記具として優れている点は何なのか。
それは、カランダッシュのゴリアットリフィルの書きやすさと六角軸の握りやすさはそのままに、堅牢性と程良い重量感、そして見た目の美しさがプラスされているところだと考えます。
かつてそのエクリドールの上位互換モデルとして発売されていた「ヘクサゴナル コレクション」。
エクリドールよりクリップと全長が長く、胴軸の表面処理にチャイニーズラッカー(中国漆)を施したモデルや定番のグレンドージュが刻まれたモデルなど、さらにラグジュアリーな筆記具という印象のヘクサゴナル。
現在は廃番となっているラインナップではありますが、エクリドール、強いて言うならカランダッシュが好きであれば一度は使ってみてほしい筆記具です。
今回は、自身としてはヘクサゴナルの上がりのモデルである「ヘクサゴナルコレクション キューブ」を入手しましたのでレポートしていきます。
エクリドールコレクションの軸の柄は多岐に渡りますが、ヘクサゴナルコレクションのラインナップは数少なく、そこからも短命に終わったモデルだということが読み取れるのですが、今回レポートするキューブの他に、グレンドージュ、チャイニーズラッカー、カーボンくらいでしょうか。
その中でもキューブはヘクサゴナルコレクションでしか為し得ない彫刻と言いましょうか、表面に柄を刻むというよりは六角軸そのものを変えてしまうような大胆なカッティングが魅力の一本。
以前にキューブの万年筆を手にしたときから、いつかはキューブのボールペンも手に入れたい一本として探していました。
▲ノックボタン周りの情報量の多さ。クリップ上部のカットも特徴的。
ヘクサゴナルコレクションのサイズ感はすでに手元にある「カーボン」で体感済みですが、エクリドールと軸径を同じくして、ヘクサゴナルは全長が長くなっています。
スペックを比較すると、
全長(携帯時)
ヘクサゴナル:135mm
エクリドール:128mm
全長(筆記時)
ヘクサゴナル:135mm
エクリドール:127mm
重量
ヘクサゴナル:28g
エクリドール:26g
となっています。
エクリドールよりも筆記時の全長が8mm足されており、男性の手にも丁度良い長さ。
胴軸の素材は真鍮で程良い重みがあり、表面の仕上げはロジウムコーティングにより美しい輝きを保っています。
キューブは胴軸やクリップが直線的で、都会的な格好良さがありますね。
シンプルで長いクリップ。胴軸の半分くらいの長さはあります。
構造上、クリップにバネは仕組まれておらず、長いクリップのしなりのみで動作。現代のクリップの機能からするとお世辞にも使いやすいとは言い難いクリップでデザイン重視。
付け根にはシリアルナンバーが見えるのですが、せっかく手元にボールペン・万年筆を含め3本のヘクサゴナルがありますので、シリアルナンバーとクリップしたのロゴをもとに年代順に仕様を並べてみたいと思います。
まず比較するのはこの3本。
いずれもヘクサゴナルコレクションで、左からカーボン(BP)、キューブ(BP)、キューブ(FP)となります。
ヘクサゴナルは849のようにクリップ下にメーカーのロゴや製造国の刻印が入っており、この刻印とシリアルナンバーを見て製造順を判断しようというものです。
手元にある各モデルのシリアルナンバーは、アルファベットのCから始まる6桁で構成されており、頭文字のC以降はすべて数字となります。
カーボン(BP):C46293
キューブ(BP):C51530
キューブ(FP):C43228
※BP…ボールペン、FP…万年筆
ユーズド市場に出回る数の少なさから、シリアルナンバーにAやBがあるかは未確認。
通常、シリアルナンバーとして順を追うのであれば、AやBがあってもおかしくはないです。
ただ、Cというのは「CARAN d’ACHE」の頭文字のCである可能性もあり、その場合はCのみで他のアルファベットは無いことになります。
続いて、クリップ下のメーカーロゴ刻印を見てみると、
カーボン(BP):CARAN d’ACHE SwissMade
キューブ(BP):CARAN d’ACHE Swiss
キューブ(FP):CARAN d’ACHE OF SWITZERLAND
という違いが見られました。
万年筆の「CARAN d’ACHE OF SWITZERLAND」は古い予感が満載。
また、製造年代を判別するうえで欠かせないのがノックボタンの刻印。
手元のキューブ(万年筆)の天冠には刻印が無くフラット。
ノックボタンに刻印が無いカーボン(BP)に対して、「CdA」ロゴと側面に「CARAN d’ACHE」の刻印があるキューブ(BP)。
エクリドールの製造年代とノックボタンの刻印の関係にならって、刻印の無いノックボタンは刻印があるものより前に製造されている、ということが見えてきます。
※エクリドールのノックボタン刻印とクリップから見る製造年代の違いについては、こちらの過去記事をご参考に。
ノックボタンを外してノック機構そのものを見てみると、エクリドールと同じくノックキャップ部分に刻印があるかないかで分かれており、これで新旧の判断ができます。
これらの仕様の違いから、製造が古い順に並べると下の表のようになります。
ヘクサゴナルコレクションの全盛が1980年代~2000年頃までであることから、シリアルナンバーそのものが製造年月を表すというよりは、モデルに関係なく振られていった番号であることが分かってきます。
▲左から、ヘクサゴナル、バリアス、エクリドール。(共にボールペン)
ヘクサゴナルコレクションがバリアスへと上位モデルの位置を譲り、ラインナップから淘汰されていった経緯としては、六角軸のデザインや軸径、仕様がエクリドールに酷似しており、上位モデルというよりはエクリドール亜種のような印象が強かったことが挙げられるのではと考えています。
ヘクサゴナルコレクションの仕上げであるチャイニーズラッカー等の一部の特殊な加工はバリアスへと受け継がれ、太く大きくなった軸はより様々な仕上げ(木軸やアイバンホーといった複雑な仕上げ)を可能としています。
今、改めて見てみるとエクリドールの亜種感が強いヘクサゴナルコレクション。
左から、849ブラック(旧モデル)、エクリドール アルルカン、エクリドール スイスフラッグ(旧タイプ)、ヘクサゴナル カーボン(BP)、ヘクサゴナル キューブ(BP)、ヘクサゴナル キューブ(FP)、エクリドール レトロ(FP)旧タイプ、エクリドール 80周年SV925、エクリドール フラダリ、エクリドール ヒュッゲ(ミラネーゼ)
おそらくですが、軸の仕上げについて、エクリドールがシルバープレートがメインだった時期に、先んじてパラジウムコーティングを施した上位モデルとして発売されていたのではないかと考えています。
カランダッシュと言えば、書き味最高なゴリアットリフィル。
カランダッシュの記事ではほぼ毎回書いていますが、世に出ている油性ボールペンのインクで性能が断トツだと思っているのがカランダッシュのゴリアット。
書き始めがダマにならない、インクフローが良い、粘度は軽すぎず重すぎず。
まさに病みつきになる書き味です。
849、エクリドール、ヘクサゴナル、バリアスいずれのボールペンも同じリフィル対応(※XSモデルは4C芯対応)となっているため、重さ、長さ、径において自分の筆記スタイルに合う軸を選べるのもカランダッシュの良いところではないでしょうか。
エクリドールが手にフィットする方には特にお勧めな廃番モデル。
某フリマサイト等で「ヘクサゴナルコレクション」を見つけたら、それは買い時なのかも知れません。
それでは今回はこの辺で。
最後までお読み頂きありがとうございました。
ディスカッション
コメント一覧
こんにちは。
これはヘクサゴナルというよりもカランダッシュ全般の話で恐縮なのですがここにコメント失礼します。
エクリドールの銀色のメッキですが、銀メッキをやめたあとしばらくはロジウムメッキでした。
私の記憶では2013年頃を境にレトロやシェブロンなどの定番品がロジウムメッキからパラジウムメッキに変更されたように思います。当時のカタログがあればいつ頃変更されたのかがわかるのですが、手元にカタログがないため詳細は不明です。
参考までに、Google Booksで「カランダッシュ ロジウム OR パラジウム」と検索すると、エクリドールの定番品は2008年頃にはロジウムコーティングで、2015年頃にはパラジウムコーティングになっていることがわかりました。
私もエクリドール レトロとシェブロンをそれぞれ複数本持っていますが、ロジウムの時期とパラジウムの時期では色が違います。
ロジウムメッキは真っ白に輝いていて、色がほとんどないように見えます。
それに対してパラジウムメッキはロジウムメッキと比べると、グレーがかったような少し鈍い色を示しています。
以上の話はエクリドールの定番品のもので、限定品はこの限りではないはずです。また、バリアスなどの上位モデルは今でもロジウムメッキされていることが現行カタログで確認できます。
長文失礼しました。
山水さん
こんにちは。
コメントありがとうございます。
そして、ブログ記事にない有益な情報、ありがとうございます!
うーむ、ロジウムコーティングとパラジウムコーティングで見られる微妙な色味の違い…奥が深いですね。
ロジウムとパラジウムではロジウムの方が価値が高いようですので、バリアス等の上位モデルで使われるのでしょうか。
ロジウムからパラジウムに変更になったのは、やはりコストカットの意味合いが強いのかも…などと勘ぐってしまいます。
そのあたりも意識しながら、手元のエクリドールを見てみたいと思います。
明確な変更時期が記載されたカタログの情報も気になりますが、仕様の変更に気付くにはやはり複数本手元に持って見比べるということが重要なのだと改めて思いました。
記事の内容に至らない点もあると思いますので、山水さんのような有志の情報もお借りできれば幸いです。
引き続き当サイトをよろしくお願い致します。