ユーズド筆記具との付き合い方【モンブラン/カランダッシュの傷消しメンテ法】
皆さんは筆記具を新品で買いますか?それともユーズド(中古)で買いますか?
最近は某フリマサイトやネットオークションの普及で、一流メーカーの筆記具であっても思いがけなく安く手に入るケースがあったりします。
欲しかった過去のモデルを手に入れる場合はデッドストックを探し回るより効率的で、特にフリマなどは、欲しかった物が不要物として破格の値段で出ていたりするため、掘り出し物を見つけたようで嬉しいですよね。(その時は電光石火が求められますが)
私は、何かの記念に筆記具を買う時は新品を。それ以外で興味のある筆記具を買う時はフリマやオークションを利用しています。
個人的には筆記具1本にウン十万かけて新品を買うよりは、多少キズがあっても定価より安くユーズドを2本~3本買う方に魅力を感じるタチなのです。
(こういったブログを書いている手前もありますが…)
顔も知らないどこの誰かが使った筆記具を買うのは抵抗がある、という方ももちろんいらっしゃると思います。
確かに、手元に届いた傷だらけの筆記具を見ると少し可愛そうになることもあるのですが、それが乱暴に扱われてきた物か、それとも丁寧に使い込まれてきた物かは、状態からある程度見分けることもできるようになってきました。
新品は新品で、ユーズドで買った物より愛着が湧くのは言うまでもありません。
その筆記具の「栄えあるファーストオーナー」ですからね。
厳密には愛着が湧くというより、使う時の気持ちがまるで違うと言った方が適切かも知れません。気が引き締まり、より大切に扱おうとします。
そして大切にしようと思う気持ちは、自分自身の筆記具への扱い方自体を変えてくれます。
ユーズドだから雑に扱うのではなく、ユーズドも丁寧に。
ただ、新品で買う物より少し気軽に扱えるのがユーズドの良さだったりします。
一方でくたびれた筆記具をメンテナンスして、ピカピカに磨いて使うというのは何とも気持ちが良いもので、それがユーズドを買う醍醐味なのかもと思うことがあります。
自分に回復志向があったのかと気付かされる時ですが、小傷だらけの筆記具であれば誰でも一定の道具だけで美しく蘇らせることができるのです。
前置きが長くなりましたが、今回の記事は「ユーズド筆記具との付き合い方」として、小傷だらけのモンブランマイスターシュテュックソリテールドゥエと、最近よく見かけるエクリドールの旧タイプを復活させていきたいと思います。
それではやっていきましょう!
ユーズド筆記具購入時の注意点
今回取り扱うユーズド筆記具はモンブランのマイスターシュテュックソリテールドゥエステンレススチール(ボールペン)と、カランダッシュエクリドール(ボールペン)のアルルカン。
まずこの2本の購入にあたってですが、二点気をつける点がありました。
①凹みや割れ欠けがないこと
これは自分自身で直せる範囲での事になりますが、金属軸であれば凹みがないこと、レジン軸であれば大幅な割れがないことを確認してから買うようにしています。
もっともほとんどが画像と商品の説明文で判断ということになりますが、どうしても気になる点がある場合(角度的に不明確や画像が粗く確認し辛い等)は出品者に素直に質問するのが良いでしょう。
モンブランのマイスターシュテュックソリテールドゥエはキャップが金属、胴軸がレジンという組み合わせですので、写真で分かりづらいレジンの部分は注意が必要です。
もっとも多少割れていたとしてもレジン部分であればノーマルのモンブラン#164のパーツで代用できたり、はたまた金継ぎなどで補修するのも面白そうです。
一番気をつける点は金属部分の凹み。
これは素人ではどうしようもありません。筆記具は筒状ですので内側から叩いて直すこともできませんし、同じ金属素材を足して平らにするにしても専門的な技術が必要と思われます。
なので私はどれだけ欲しいモデルでも金属部分が凹んでいる物は買いません。
あと、モンブランであればホワイトスターに落下痕がある物(天冠が欠けている物)には手を出さないようにしています。
②偽物でないこと
続いてこれはフリマであれば瞬時の見極めが必要ですが、偽物(模造品)でないこと。
模造品を買ってしまう事ほどお金が無駄な事はありません。
モンブラン以外で偽物の筆記具というのはあまり見たことがありませんが、モンブランについては本当にたくさんの偽物が出品されています。
マイスターシュテュックについてはキャップリングの形状や刻印の鮮明さ、刻印の位置、そもそも出品されている仕様のモデルが存在するのかなどを把握していれば偽物回避できます。
特に雑な造りの偽物はキャップの3連リングを見れば一発で判断できますので、いくら安く出品されていたとしてもすぐに飛びつかず一旦冷静になりましょう。
さて、この二点に気をつけて買ったソリテールドゥエがこちらになります。
全体的に小傷や汚れは多いですが何とかならないレベルではないですし、余計なネーム刻印などもありません。
回転繰り出し等の動作が正常かどうかは、そもそも正常な動作を出品者が知らないケースもあるため商品説明欄はあてにならず、これは手元に届いてみてどうかということになります。
幸い、手元のソリテールドゥエは動作系については大丈夫でした。
各部をじっくり見てみると、細かな擦れキズ、汚れがかなりついている事が分かりますが、落下痕はないため固い地面に落とされてはいないようです。
きっと筆箱に他の筆記具と一緒に無造作に放り込まれていたのでしょう。
レジンの部分もキズが目立ちます。
硬い物と触れ合った痕跡がありますね。
続いてカランダッシュのエクリドールですが、こちらは私としたことがメンテ前の全体像の写真を撮りそびれています…。
旧モデルのエクリドールはパラジウムコーティングが施されておらず、経年によるシルバーコーティングの硫化やクスミが出ている場合がほとんど。
クスミや黒ずみは金属磨きクロスでアッサリ綺麗になるので問題ないですが、こちらも凹みがあっては直せませんので、凹みがないかは買う前の最重要確認項目です。
(エクリドール自体堅牢な造りのため凹んでいる個体になかなか出合いませんが)
ということで、エクリドールについては以降メンテ中心で見ていきます。
強いて直すとことがあるとすれば、このノックボタンの擦れ。
これは旧モデルで特に多く発生する事象なのですが、胴軸内の汚れが起因して使い出してから起きることがほとんどです。
これについては後述していきます。
小傷を直すのに必要な道具と使い方
小傷修復やメンテナンスを始める前に必要な道具の紹介です。
以前の記事でも紹介していますが、「サンエーパール」が本当にお勧めです。
レジンにも金属にも使える万能研磨剤。
写真はサンエーパールと目の細かい「デリケートクロス」、そしてマスキングテープ。
デリケートクロスは消耗品ですので何枚かあった方が良いでしょう。
マスキングテープはサンエーパールが侵入して欲しくない箇所に貼るためのもの。
言ってみればプラモデルの塗装と同じ用途で使います。塗りたくない箇所をガードする要領ですね。
サンエーパールをベースにキズ消しを行い、場合によって仕上げは研磨剤入りのクロス(金属磨きクロスやレジン磨きクロス)を使っています。
あと、写真にはありませんが、綿棒・ティッシュ・アルコール除菌ティッシュもあるといいです。
※アルコール除菌ティッシュについては使い方注意で、例えばモンブランのホワイトスター(天冠)で使うとホワイトスター周りが溶けて赤く滲んだりするため、場所によっては使わないようにしましょう!
あとは、研磨に必要な最低限の筋力と根気、忍耐、そして時間が必要。
サンエーパールはペースト状の研磨剤ですので、ある程度手も汚れます。
爪も短く切った方が良いでしょう。
→今気付きましたがビニール手袋をしてもいいかもしれません。
モンブランマイスターシュテュックのキズ消し手順
それでは、先ほどの道具をもとにモンブランソリテールドゥエのキズ消しメンテナンスのスタートです!
まずはマスキングから。
キャップの部分はクリップ、ホワイトスター周り、3連リング周りの3箇所をマスキング。
クリップをマスキングするのは、クリップ下にサンエーパールのペーストが入ると面倒だからと、持つ場所の確保のため。クリップと天冠を分解できるモデルであれば、分解させてから行う方がいいです。
ホワイトスターは前述したとおり、研磨剤や溶剤が付着することでホワイトスターが赤く滲むのを防止するためです。
モンブランのレジンには赤い樹脂が配合されているため、溶け出すとホワイトスターが赤く滲むのです。
3連リングの部分をマスキングする理由は、この間のシルバーの梨地加工部分をサンエーパールの粒子が削ってしまわないようにするため。
もっともこの部分は小キズがあっても治せない箇所になるため、見た目を最低限に止めるという程度になります。
胴軸のレジン部分も可能な限りマスキングします。
内部にペーストが入らないようにこのようにしていますが、ド真剣に端まで磨いているとこのマスキングは外れますので気持ちあった方が良いかな程度です。
このレジン部分、綺麗だとは思いませんか?
実は一度磨いていて、今回が二度目になるのです。キズが深いと一回の研磨では綺麗になりませんのでサンエーパール研磨は納得いくまで何回も行うことが重要です。
ペースト状のサンエーパールを適量クロスに取り磨いていきます。
適量というと曖昧ですが、少し多めに使うことをお勧めします。たくさんの粒子で表面を覆った方が効率が良いからです。
着けたらひたすら磨くべし!
かなり腕がダルくなりますが、痙らない程度に、酸欠にならない程度に休み休み磨きましょう。
磨いた部分のクロスは黒くなります。
金属やレジンの表面を削っている事が分かります。逆に言えることは、薄いゴールドコーティングの箇所に使うと薄くなるか最悪剥げてしまう恐れがあるため、磨く場所は慎重に見極めましょう。
まんべんなく根気よく磨きます。
傷が深いところは特に入念に。何度もサンエーパールを着けて磨きます。
納得いくまで磨けたら、手を洗い、濡れティッシュやアルコール除菌ティッシュで研磨箇所を拭っていきます。綺麗な仕上がりが見える最高の瞬間!
レジン部分も同様に研磨剤を拭います。
※白いレジン部分がないため胴軸はそのままアルコール除菌ティッシュで拭いています。
マスキングテープを剥がし、再度汚れを拭ってから軽くティッシュでから拭き。
ふむ、なかなかの仕上がり!
余は満足じゃ。
あとは元通りに組み上げれば完成です。
今回の写真にはありませんが、3連リングの部分は金属磨きクロスのみで磨いています。
その際、リング間の梨地のシルバー部分は黒っぽくなりましたが、洗剤を着けて洗うと綺麗に元通りのシルバーになりました。
以降ビフォーアフターです。
▲クリップ周り
▲クリップ横からキャップリングにかけて
▲レジンの胴軸
いかがでしょう。
これで清々しい気持ちで使うことができますね。
カランダッシュエクリドールのメンテナンス方法
続いてはエクリドールの方をメンテナンスしていきましょう。
エクリドールをサンエーパールで磨くと考えた時、胴軸かノックボタンかとなるのですが、この個体については胴軸がそれほど汚れていないため、ノックボタンの擦れキズを磨いてきたいと思います。
このノックボタンサイド部分はノックする毎に胴軸内と擦れて擦れキズができてしまいます。
このようにノックボタンを外せば磨きやすくなります。
まあパーツが小さいので力が入れづらいですが…。
樹脂部分はしっかりとマスキングして溝や隙間にペーストが入らないようにします。
磨き終わった後がこちら。
縦の小傷はほぼ無くなりましたが、再度ノックボタンを胴軸内にねじ込む際に横傷がついてしまいました(汗)。まあ、気になるようならまた磨くまでです。
ノックボタンのみを磨いても元(胴軸内部)が汚れていてはまた同じ事の繰り返しですので、胴軸内部もしっかりとアルコールを染ませた綿棒でお掃除。
ユーズドかつ旧モデルのエクリドールはとにかくこの胴軸内が汚れています。
ノックをすることで微細な金属粒子が汚れと共に内壁に付着するため、入念に掃除しておく必要があります。
続いてはクリップ裏のメンテナンス。
細い隙間の汚れを取るため、このように綿棒の先を少し引っ張り伸ばして使うと便利。
左手でクリップを少し持ち上げつつ、綿棒を入れて優しく磨きます。
旧タイプのクリップはストレートのためこのあたりは掃除しやすいですね。
クリップのアール部分にも綿棒を差し込んでぐりぐり。
意外と汚れるんですよね、ココも。
クリップ裏についてはブロアーもあるとさらに綺麗になるかも知れません。
クリップの表側です。
それほどキズがあるわけではないですが、ここはサンエーパールでピカピカに磨いてみましょう。
シルバーコーティングの表面を磨くとさらにクロスは黒く汚れます。
10μの分厚いコーティングのため磨いても安心感があります。
ピカピカに、綺麗になりました!
やはり小傷があるとよりくすんで見えますが、綺麗に磨くと見違えますね。
さて、今回の記事ではユーズド筆記具との付き合い方、メンテナンスの仕方について書いてきました。
ご参考になる部分はあったでしょうか。
筆記具は書くための道具ですので、傷付きもすれば壊れもします。
このような高級筆記具については、使い捨ての物とは違いリフィル交換もできるため丁寧に使えばずっと使い続けることができます。
何かの縁で誰かが使わなくなった筆記具が手元に来たら、綺麗に磨いてみてあげてください。
かならず輝きを取り戻します。
傷だらけになって尚、仕舞い込まれてしまえば筆記具としての役目を果たせませんが、こうして綺麗にすればまたその筆記具は自分のもとで新たな歴史を刻むことができるのです。
機械式時計にオーバーホールが必要な様に、ユーズドに限らず新品で買った物についても、数年使えばメンテナンスが必要になるかも知れません。
筆記具は使い続けることが最大のメンテナンス。
そして、もし傷がついたら今回の記事のようにぜひキズ消しも試してみてください。
仕事や勉強の相棒にまた一段と愛着が湧くことは間違いありません。
それでは今回はこの辺で。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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→著者:たにけん(tanikeeeen)
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コメント一覧
21年1月のブログ拝見しました。モンブランPIXのクリップに擦れが散見され気になっておりました。サンエーパールで軽く磨けば画像のカランダッシュクリップみたいに綺麗になるのですね。地金が出るのではと気になり躊躇しておりましたが今週休みの日に挑戦したく思います。あと12金張りのシェーファーやパーカーの金色クリップも大丈夫でしょうか? よろしければご教授お願いいたします。
まっぽうさん
コメントありがとうございます。
小傷消しの磨きについて、どれくらい(の強さ、時間、範囲)すれば良いのか、判断に迷いますよね。
アンティークやヴィンテージのような、現代に比べてメッキやコーティングの厚みがないものは慎重になられた方がいいかもしれません。
1980年代以降の製品であれば、多少磨きすぎても地金が出ることはないでしょう。(程度にもよりますが…)
お使いのモンブランのPixというのは1990年代からのモデルのものでしょうか?
だとすれば大丈夫ではないかと思います。
小傷の深さにもよりますが、磨けばきれいになるはずです。
サンエーパールが少なくなってきたので、最近は仕上げまでの工程に耐水ペーパーを使うことが多くなりました。
筆記具のトリム(メッキ部分)は5000番→7000番→10000番の順に優しく時間をかけて均等にかけ、その後にサンエーパールで研磨。
最後に、銀磨きクロスのような研磨剤入りのクロスで仕上げています。
小傷はほぼほぼ無くなりますので、慣れてこられたら耐水ペーパーの利用もお勧めです。
(ただし、傷消しの作業はやはり表面を削りますので自己責任のもと、実施の判断をお願いします。)
ユーズドで手に入れた製品も、自分で手間暇かけて綺麗な状態に戻すことでさらに愛着が湧いてきます。
まっぽうさんの相棒の筆記具も美しく蘇るといいですね。
傷消しの成功を祈っております。