「書く」を愉しむ六角軸万年筆【カランダッシュ エクリドール レトロ 万年筆 比較レビュー】
今回は久しぶりに万年筆の記事。
やっぱり良いですね、万年筆。字を書くのが本当に楽しくなるアイテムです!
最近カランダッシュのエクリドールにハマっている私ですが、その中でも「レトロ」は特に気に入っていて、シンプルなデザインの中に視覚的なギミックがあり全く飽きないですね。
かなり前からカランダッシュのボールペンにハマりだして、続いて万年筆も気になりだしてきた頃にひょっこり目の前に現れたレトロの旧モデル万年筆。
レトロのボールペンは3本持っていますが、利用頻度が高いのは湾曲大きめで刻印が入ったクリップを持つ旧モデルなんですよね。
旧モデルが良い点の一番の理由として、パラジウムコートが施されていないこと。
これは好き嫌いの分かれるところではありますが、ノンコートはグリップ感の良さが段違いなのです。
しっとりと手に馴染む10μという厚めのシルバープレートは、やはりスターリングシルバーの握り心地に似ているところがあります。
そしてレトロは網目模様のデザインですので、さらに滑りにくい!
反面時間や保管状況によって黒ずんできますので、磨くのが嫌いな方でなければものすごくお勧めなモデルです。
それではカランダッシュ エクリドール レトロの万年筆を詳しく見ていきましょう。
【レトロ万年筆(旧モデル)のデザイン】
カランダッシュ(ロシア語で鉛筆)というだけあって、ボールペン・ペンシルと同じく万年筆も六角形。
ボールペンと並べてもこの統一感ですが、サイズは万年筆が一回り大きくなっています。
これは単に筆記具としての構造が複雑なためと言えますが、ボールペンに比べて力を抜いて書くスタイルの筆記具ですので、これくらいの太さの方がかえって扱いやすいです。
冒頭で書いた、旧タイプのレトロに見られる軸の錯覚ギミックもしっかりと確認できます。
六角柱のシルエットはボールペンにも増して顕著となっていますね。
このデザインと質感。真鍮製ですので細身ですが34gとズッシリ感があります。
重量の打ち分けはキャップが11g、胴軸側が23g。
キャップを尻軸にポストしても良し、キャップ無しで使っても良しです。
ボールペンが26gということもあって、私はキャップはポストせずにボールペンに近い重さにして使っています。
旧タイプのエクリドール万年筆はキャップのデザインが現行モデルとは大きく異なり、クリップのすぐ上が丸く出っ張っていない、言わば万年筆然としたデザイン。
個人的には天冠のデザイン(形)は現行の方が好みですが、旧モデルの赤ロゴペイントがまさに「レトロ」で気に入っています。
六角柱のキャップに丸い天ビスを打ち込んだようなデザイン。ポケットに挿した時にこの赤ロゴとクリップの仏語刻印が覗くのがたまりません。
尻軸は現行品も同じデザインで、六角柱から円柱へと切り替わるどこか「道具的」なデザイン。
ボールペンレビューの時も書きましたが、六角柱の端のカットがめちゃくちゃ好きなんですよね。
キャップをポストする時はこの円柱部分に嵌め込むかたちとなります。
うーむ、どの角度から見ても格好いいシルエット…。
レトロは編み目の範囲が広いですが、少し控えめの菱形がデザインされたアルルカンや、編み目の範囲が狭くエレガントなグレンドージュも気になるところ。
あと、現行モデルではミラネーゼがかなり気になりますね。
【エクリドール万年筆のキャップ対策】
エクリドールの万年筆を使ったことがある方ならお分かり頂ける、いわゆる「エクリドール万年筆あるある」で、キャップがクルクル回る現象が気になるという方も少なくありません。
かくいう私も初めてエクリドールの万年筆を手にした時、それがものすごく気になりました。
この写真のようになるわけですわ。
結構キャップが緩い。
(現行品を知らないので現行品では改善している可能性もありますが…)
緩くて多少回るだけならまだいいのですが、緩い=密閉度が低いと考えられなくもありません。
嵌合式の万年筆ですので密閉度はさらに気になります。
キャップの内側には白いインナーキャップが設置されていますのですぐにペン先が乾くということは無いにせよ、精神衛生上よくありません。
そこで私はキャップの内側にセロテープを貼り、密閉感アップと嵌合具合を調整しています。
セロテープは樹脂のインナーキャップとの相性も良く見た目も目立ちませんし、何よりカチッと合わさったキャップがクルクル回らないのがもの凄く良い!!
セロテープは爪楊枝などをうまく使って綺麗に貼る必要がありますが、キャップクルクルが気になる方はやってみる価値ありです。
ただ、これをすると尻軸にキャップをポストすることができなくなるので、筆記時にキャップをポストして筆記バランスを取られる方にはお勧めでない方法です。
ちなみにキャップ無しでの筆記は写真のような長さで少し短め。
ペンケースから出した時にキャップと胴軸の面が揃っているのは気持ちの良いものです。
そしてこれでまた一つ、エクリドールレトロ万年筆への愛着が増しました。
【エクリドールのペン先と書き味】
さて、続いてはエクリドールの書き味についてです。
カランダッシュのラインナップでは高級筆記具に分類される当エクリドールですが、ペン先はスチールペン先となっています。
正直、ニブが金ペンかスチールかで、どちらが良くてどちらが悪いとか判断するのは無粋と考えるたちです。
このエクリドールのカッチリした胴軸の六角デザインと一本の金属棒感から、スチールペン先のコシが強めの書き心地はとても合っていると思うのです。
首軸のデザインも優れていて、ペン芯の黒い樹脂と段差無く繋がる首軸のラインが美しい。
また、ニブも複雑な彫刻が入っており万年筆のペン先ならではの精密感が出ています。
このニブの刻印。よく見るとオブリークで書いたような斜線の太さの違いが面白いです。
カランダッシュのロゴは旧モデルの「CdA」マーク。
現行モデルはペンシルロゴとなります。
ちなみに18金のペン先を持つバリアスのニブのデザインもエクリドールと同じ。
いつかはスチールと18金の書き味の違いを比較してみたいものです。
ペン芯は現行品とは異なるものが装備されています。
これ、どこかで見たことあるペン芯だと思ったら、カヴェコスポーツの旧モデルと同じでした。
ブログのネタ帳を探すと出てきました。
カヴェコは年代によっていくつかペン芯の種類がありましたが、エクリドールも同じなのでしょうか。
ペン芯のフィンがニブ側に備わっている薄型のペン芯。なかなか格好いいです。
エクリドールはカートリッジ/コンバーター両用式。
胴軸から首軸を外してカートリッジ交換を行います。そのつなぎ目に見えるOリングが良い仕事をしているのです。
これのお陰でかなり精度の高い密閉ができていると感じます。
ねじ込む際もねっとりと閉められていくのが分かる手応え。こういう部分の造りは道具としても重要だと思います。
現在はモンブランのカートリッジ「ブルーアワー」を差して使っていますが、青いインクと軸との相性も抜群。モンブランのブルーアワーは、筆記直後はブルー、時間が経つにつれてグリーン系へと変化していくお気に入りのインクです。
ちなみに今は使っていないですが、付属のコンバーターは一般的な欧州規格のものでシュミット社製。
右がカランダッシュのロゴが入った純正品です。
筆記感はカッチリと一本筋の通ったコシのある書き心地。
どこかウォーターマンのカレンに近い書き心地と感じました。
※ウォーターマンカレンは18金ペン先のガチニブ系。
手元のレトロは字幅がMでインクフローも十分。ブルーアワーの濃淡も忠実に表現してくれています。
ペン先を横から見ると、大きく丸いペンポイントが見て取れます。
また、アーチの浅いニブの形状やペン芯の薄さも筆記時のコシに一役買っていそうですね。
【他の嵌合式キャップの銀製万年筆比較】
最後は手元にある嵌合式キャップを持つ銀製万年筆で比較します。
比較する万年筆は左から、
パーカー/パーカー75 シズレ
カランダッシュ/エクリドール レトロ
パイロット/シルバーン トク(プレーン)
プラチナ/プラチナ・プラチナ
海外製2本と和製2本の計4本です。
スターリングシルバーの軸はあえて磨いていません。
字幅はパーカー75のみXFで、それ以外はMとなっています。
この中ではカランダッシュのみスチールペン先ですが、金ペンに負けない良いバランスの書き味。
しっかりとしたコシを感じるエクリドールとパーカー75。
今まで使ってきたスチールペン先の中でもガチニブ感を感じるエクリドールは、非常に扱いやすい万年筆と言えます。
普段から鉛筆やボールペンをメインに使っている方にも書きやすく、画数の多い日本語にもペン先が踊らず対応できる万能型。ミスりたくない場面に投入できる信頼の万年筆。
パーカー75はペン先の研ぎがXFということもあり、金ペンのフワフワ感は抑えめな代わりに弾力を十分い感じられる仕上がり。筆圧のコントロールで極細から中字辺りまでを表現できそうです。
一方、紙へのタッチがソフトなのはシルバーンとプラチナ・プラチナ。
字幅Mでもインクフローが潤沢で太めの線を吐く手元のシルバーン。それでも複雑な漢字が潰れないのは流石。書き味が一級品なのはしっかりと筆圧を受け止める太い首軸と胴軸の形状とのバランスが取れているから。
プラチナ・プラチナは流石の柔らかさ。
次の文字へと滑らかに、流れるように筆を走らせることができるのは、この万年筆の醍醐味ではないでしょうか。字幅Mでも細めな文字が書けるのは、力を抜けば細く、入れれば太く、指先から伝わる圧力の差を柔軟に受け止めるキャパがあるからだと言って良いでしょう。
4本のペン先の形、インクフロー、素材から来る書き味はそれぞれで、これこそ万年筆で字を書く愉しさの根本と言えます。
インクはいずれもブルー系を入れていますが、インクの色もそれぞれ。
(モンブランのブルーアワーは時間が経ち随分緑っぽくなっています)
このような複数の要因が重なって、世に出ている万年筆の書き味は星の数に匹敵します。
自分の書き方やクセに合った万年筆を探す楽しみ、好みの色のインクに出逢う愉しみは、他には変えられません。
さて、今回はカランダッシュ エクリドール レトロ 万年筆を様々な角度から見てきました。
エクリドールはカランダッシュが好きな方は間違いなく使いやすい万年筆であり、同時に高級万年筆に誰もが求める所有満足感を満たしてくれるという点でも万人にお勧めできる万年筆です。
特にレトロは優れたグリップ感、エクリドールの精密な金属加工技術を体験できる視覚的なギミックなど、エクリドール入門の方にも使って頂きたい一本です。
それでは今回はこの辺で。
最期までお読み頂きありがとうございました。
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