金ペンにも匹敵するパーカー75「オクタニウムニブ」の書き味【PARKER75 OCTANIUM レビュー】
少し前に、超絶に日本語が書きやすい海外製万年筆「パーカー75」と、そのマイナーな上位モデル「パーカー プリミア」をレポートしました。
あれ以来、パーカー75の金ペン先の刻印バリエーションや凝った軸デザインの「プラスヴァンドーム」に再度興味が出始めた私ですが、某オークションサイトやフリマサイトを覗く中、珍しさに負けてついつい入手してしまったモデルがあります。
言わばそれもパーカー75の亜種、バリエーションのうちの一つなのですが、過去に何度か見たことはあったものの、あまり気に止めることがなかった万年筆。
それもこれも、パーカー75の上位モデル「プリミア」が面白かったからに他ならないのですが、今回レポートする万年筆は…、
「パーカー75 フライター オクタニウム」
パーカー75はシズレがある意味至高のモデルで、ペン先ならぬ軸全体の完成度からしても上位モデルのプリミアよりも優れていると言えます。
そんなパーカー75シズレの下位モデルに位置するのが、パーカー独自のスチール合金ペン先を搭載したフライター。
「OCTANIUM(オクタニウム)」という独特な名称で呼ばれるニブは、パーカーのこのペン先(書き心地)に対するただならぬ拘りで、ただのスチール製ペン先ではないよ という自信の表れではないでしょうか。
これはカランダッシュが自社のインクに「ゴリアット」と名前を付けたりするのと同じで、他社との差別化や、ユーザーへの印象に作用するものと考えます。
▲左から、パーカー75のシズレ、フライター、プリミア
サイズはパーカー75だけあって、私たちが見慣れているシズレと同じ。
違うのは軸とペン先に使われる材質。
やはり、パーカー75と言って真っ先に思い浮かぶシズレや、その上位モデルたるプリミアには高級感があり、ステンレススチール特有の色味、表面の質感が感じられるフライターは見た目こそ物足りなさを感じます。
それは素材とシンプルなデザイン故に仕方がない事ですが、このフライターの素晴らしい点は「コストパフォーマンスの高さ」にあると言っていいでしょう。
製造が終わって何十年も経つパーカー75シズレが、いまだに良個体で1万円~1.5万円の中古価格で推移している(最初期モデルは3万円以上が相場)のに対して、出回る数が多くなく希少性も高いはずのフライターの相場はその半分以下(5,000円あればお釣りが出ます)。
▲「フライター」というと、銀色のジョッター等のボールペンを思い浮かべる方も多いはず…
パーカー75の玉数の多さに比べ、圧倒的に見かける事が少ないパーカー75のフライター。日本での発売はそれほど多くなかったのではと推測されます。
「オクタニウム」という珍しい名前のペン先がついているにも関わらず、素材と仕様からスペック相応の値段が付けられているこの万年筆。(中には金ペンを搭載したフライターもあるようですが…)
実は、このオクタニウムペン先が、金ペン先を搭載するパーカー75の書き味に匹敵するとしたら 世間の評価は変わるでしょうか?
ということで、早くオクタニウムペン先の報告をしたいのですが…、ここはまずいつものようにデザインから見ていくとしましょう。
実際、75シズレを見慣れている私からすると、同じ軸のシルエットを持ちながら素材や刻印が違うフライターのデザインは相当新鮮だったりします。
全体像を見てまず大きく違うのがシズレパターンがない事ですが、違いを印象付けているのが同形状の矢羽クリップと天冠のカラーがシルバーなところ。
これが個人的にはポイントが高く、非常に新鮮。
75の亜種である「プラスヴァンドーム」のボールペンを触ったときと同じ新鮮さ。
地味といえば地味になるのですが、しっかりと「下位モデルとしての役割を果たしてる」ところがフライター。
ビジネスシーンにはこれくらい控えめなカラーの方が馴染みます。
天冠のデザインもシズレと同じで、カラーがシルバーに変更されています。
よくこのデザインでカボションが埋め込まれたモデルも目にしますが、やっぱり個人的にはこのシンプルな天冠が好きですね。
パーカー75シズレには、モデル名や素材が刻印されたキャップリング(実際はリングが取り付けられているのではなくデザインの一部)ですが、フライターはそのデザインも廃されているシンプルさ。
クリップの下正面には「PARKER」のロゴ。
この辺りは後期型のパーカー75シズレと同じ字体ですが、矢のマークはなく文字のみ。
PAEKERロゴの左右には「75」の刻印。このフォントが1970~80年代を思わせます。
父親が吸っていた紙タバコの箱のデザインにこういったフォントが使われていた記憶がありますね。
(私は非喫煙者ですが…)
文字も大きく、なかなか良いデザイン。
キャップの裏側に目をやると、ここにありました「パーカーロゴ」と「MADE IN U.S.A」。
これもレトロなロゴの名残があります。
この後、Pと矢が合わさったようなロゴに変わり、これに近い楕円を射貫いた矢のようなロゴに再び変更されています。
素材がスチール且つマットな表面処理のため、拡大するとどうしても小傷が目立ちますね。
首軸の形状はシズレと同じで、アルミ製の首回り(?)にはペン先の角度調整用の目盛りあり。
パーカー75の上位モデルであるはずのプリミアにはこの首軸が採用されていませんでしたが、なぜか下位モデルのフライターには付いているという謎。
ちなみに、手元のフライターもプリミアと同様で、キャップを嵌合した後にキャップが固定されずクルクルと回ります。
個体差なのかどうなのか、プリミアもフライターも一本しか持っていないため、この辺の甘さが仕様なのか個体差なのかは定かではありません。
そう思うと、安定して「パチン!」と嵌合するパーカー75シズレは、シリーズの中でも完成度が一番高いモデルと言えましょう。
精神衛生上、キャップがクルクル回るのはよろしくないので、プリミアの時と同じく黒いマスキングテープを一巻きし、キャップが固定されるようにカスタムしています。
見た目は全く気にしません。笑
プリミアとフライターをお持ちの方に参考になれば、ですが、マステは一巻き+3mmほど重なるくらいに巻けばしっかりとキャップが固定されます。
キャップのクルクルを回避できる他、ペン先のドライアップを抑制できますのでかなりお勧め。
(キャップクルクルが私の手元の個体だけだったらすいません)
手元のフライターはペン先が左に2目盛りほど調整されています。
左手に握って構えると丁度ペンポイントが真っ直ぐになるようになっているので、もしかしたら前オーナーは左利きだったのかな?と想像しながらも、右手でも支障なく使えるためそのままにしてあります。
それにしても、パーカー75シリーズの一番の魅力はこの三角形+滑り止めがデザインされた首軸の形状なのか、と思うほど握りやすい。
ボールペンのフライターはグリップ部まで総金属のため、少し滑るかな…という評価ですが、万年筆のフライターはグリップ部(首軸)が樹脂のため、握りやすさ・書きやすさは100点以上!
素材がスチールのため75シズレよりも少し軽く、スペックは、
全長(携帯時):129mm
全長(筆記時):119mm、キャップポストで143mm
重量:18g(純正コンバーターとインクの重量を含む)
となっています。
サラサラした素材の表面効果もあり、キャップは尻軸にポストする際 完全に固定されるわけではないのでご注意を。
インク吸入はパーカー75シリーズ共通でカートリッジ/コンバーター両様式。
現行のカートリッジを使えるところもパーカー75の使いやすさのひとつ。
パーカーのコンバーターはインク吸入もしやすくデザインも良いです。
オクタニウムのペン先。
刻印は細く深く「PARKER OCTANIUM U.S.A.」。
やっと筆記感について書けます。笑
特筆すべきはこのオクタニウムの書き味!
ハッキリ言って14金や18金のパーカー75やプリミアと遜色ないです。
合金ということでスチールっぽい硬めの書き味を想像していましたが、ここまで金ニブに書き味が近いと脳が混乱します。
これ、ブラインドで利き酒ならぬ「利きペン先」したら、金ペン先と間違うのでは?というくらい。
紙面へのタッチは柔らかく、かつ、しなりがあり良好な書き味。
本当に金ペンのようです。
スチールペン先ではカヴェコの書き味に惚れていますが、金ペンの書き味に近いという意味では75フライターは意外性があり、スチールニブのイメージである「硬い・しならない」という常識がもはや通用しないレベル。
パーカーが独自に調整したスチール合金「オクタニウム」の書き味が、今までのパーカー75との差別化を狙ったものではなく、しっかりパーカー75の書き味に魅力を感じている人達(=世間の評価)をターゲットにしている、という意図が読み取れます。
パーカーのスチールペン先はひと味違うという意気込みは、この「オクタニウム」という特別な名前を冠したペン先の書き味からもひしひしと感じることができました。
ということで、最後はパーカー75系列の、オクタニウム、14金、18金の形状・デザイン、書き味の比較を行っていきたいと思います。
▲左から、フライター(オクタニウムニブ)、75シズレ(14金ニブ)、プリミア(18金ニブ)
まず、前回のパーカー75比較からの変更点として、プリミアの首軸を変更しています。
プリミアはプラスチックに金リングの首軸でしたが、パーカー75漆のジャンクからアルミ素材の首軸を換装。
目盛りがない見た目もプリミアの特別感とマッチしているのではないでしょうか?(自画自賛)
字幅は、オクタニウムと14金がXF(極細字)、18金がF(細字)となります。
オクタニウムの書き味を分析すると、やはりペン先素材の独自調整による紙面タッチへの影響も多少あるでしょうが、滑らかな書き味の一番の要因は、このニブの形状自体が最高傑作なのだという結論に達します。
この3本。ニブの素材は違えど、書き味に対する大きなズレがほぼ全くと言っていいほどない(感じない)のです。いずれも滑らかという言葉がピッタリ。
強いていうなら18金が一番“しなり(弾力)”が強い気がします。
これもひとえにパーカー社の75に対する拘りの結晶。
サイドのニブ壁の高さ、しなりを生む切り割りの長さと首軸までの長さ。
この形状ゆえ、この書き味あり。といった傑作ニブだと思います。
何本あっても困らないパーカー75。
バリエーションがかなり豊富な万年筆のため、まだ私が知らないモデルや書き味が存在するのかも知れません。
パーカーの沼は広く深い…。
皆さんも、「パーカー75 フライター オクタニウムニブ」は ぜひチェックしてみて下さい。
ローコストで最高の書き味が手に入ります。
それでは今回はこの辺で。
次の記事でお会いしましょう。
ディスカッション
コメント一覧
こんにちは♪
→キャップを嵌合した後にキャップが固定されずクルクルと回ります。
私のフライターもクルクル回ります(笑)
気にならなかったけど、なるほどーードライアップ防止に黒のマステですね!!
私も巻きます。
私のフライターはゴールドのリングのやつです。
ホント書きやすいです。
でも、ペンポイントが少し合わないような。
調整できるんですか?
そして、今日プラチナの#3776センチュリーがUEFが届きました。
ただいまカートリッジ入れて熟成中です(笑)
あとは、シズレとセーラーのカスタムストライプを狙ってます!!
あんまり沼らないようにしないと…