ギミックとデザインの妙、プラチナ万年筆の「PLATINUM Z」でアートを携帯する
皆さんこんにちは。
一年が経つのは早いものでもう10月末。あと2ヶ月もすれば2027年です。
今年も様々な筆記具が発売されました。
近年の国内メーカーの動向から見えてくるのが、部材価格の高騰による相次ぐ値上げと、今まで高級筆記具というジャンルの枠外だったメーカーの高級筆記具ラインナップへの参入。
事務用品を含めた幅広い製品を展開している、言わば我々が幼少期から慣れ親しんだメーカーからも高級筆記具が発売されるようになり、今まで高級筆記具に触れてこなかったユーザー層を巻き込むことに成功していると言えます。
国内メーカー我々消費者も、デザインと書き心地の良い筆記具に対してそれに見合った対価を支払うことになれてきたと言えるのかもしれません。
(といいつつ1世帯当たりの所得が増えているわけではないので、次々と新しい筆記具が買えるわけではないのですが…)
国内の高級筆記具三大メーカーである「パイロット」「セーラー万年筆」「プラチナ万年筆」の中で、上場しているパイロットとセーラー万年筆にスポットをあてると、この3年間(2023年~2026年)の売上げは、パイロットで2024年度の約80億の増加以降は微増傾向、セーラーは2025年度で微減となっています。
パイロットはフリクション(消せるボールペン)の海外シェアもあり、高級筆記具高騰の荒波をカバーできる体勢にあることが大きいと考えています。
対して、高級筆記具に新規参入したコクヨや三菱鉛筆はというと、三菱鉛筆は2023年度から約150億の増収で2026年度も955億という 1,000億にも迫る予想。(2024年のラミーの子会社化も増収の起点になっていると考えます)
コクヨについては、こちらも2023年度に比べ2025年度は約300億の増収。筆記具以外の売上げも大きいですが、デジタル文具のヒットに加え、我々も認識する高級筆記具ラインナップと製品の知名度向上が比例した結果となっています。
見えてくる傾向として高級筆記具の老舗は、価格的にも嗜好品となった万年筆の限定モデルラインナップへのシフトや、エントリーモデルの値上げによる「防御戦略」なのに対して、三菱鉛筆やコクヨは事務用品のベースがありつつ、高級筆記具ジャンル参入や新しいインクの開発等の新規チャレンジが功を奏していると言えます。
筆記具業界の中古市場も同じように相場が底上げされていて、数年前までは3,000~5,000円もあれば様々な選択肢が得られたものの、各メーカーの過去モデルも(モデルによりますが)安く入手することが難しくなってきているように感じます。
これは筆記具価格の高騰の煽りを受け、手軽に買えて扱いも気楽な中古筆記具に注目するユーザーが増えたことと、フリマサイトやオークションが一般的に広く浸透してきたことを表しています。
そんな中で、特にフリマサイトは「不要なものを出品する」から「価値のあるものを高く売る」という場に変化してきていると言えるのではないでしょうか。
さて、前置きがかなり長くなりましたが、今回レポートする筆記具は前置きにあった国内三大筆高級記具メーカーのひとつであるプラチナ万年筆が過去に発売したモデル「プラチナZ(PLATINUM Z)」のボールペンを見ていきます。
この筆記具を選んだ理由としては、自分が大好きな老舗の国内万年筆メーカーが勢いを取り戻して欲しいという願いから。防戦一方ではなく、1970~80年代の攻めたデザイン(=今となっても魅力的なプロダクト)のようなチャレンジ精神を今後は期待したいという意味合いも含んでいます。
それでは過去のモデルではありますが、プラチナZを見ていきましょう。

プラチナZは1980年代にプラチナ万年筆が発売した、ミニマルな円柱形デザインと回転繰り出しギミックが特徴の筆記具。筆記モードは0.5mmのシャープペンシルとボールペンの2種類で、万年筆はラインナップされていません。
その独特なデザインと回転繰り出し機構から、ニューヨーク近代美術館(MoMA)の永久収蔵品に選ばれています。
手に持つと密度感のある一本の円柱を握っているような感覚。
人の心が一番落ち着くのは130mm・27gの円柱を握っているときなのか?と思うほど、プラチナZを手中で転がしているときは心が安らぎますね。(私だけか…)

プラチナZのボディの仕上げは幾つかあり、マットステンレス(このモデルのシャープペンシルがMoMAの永久収蔵品)、マットブラック、ゴールドに加え、私の手元にあるシルバープレートにストライプのデザインも発売されています。
シルバープレートのモデルにはブラックとレッドがあり、手もとのレッドはクリップに赤いラインがデザインされています。何気なく私が気に入っている部分でもあります。

円柱デザインではありますが、キャップと胴軸という区切りはしっかりと存在し、背中側のキャップリングには「PLATINUM」の刻印。
一瞬、プラチナ万年筆のロゴマークって何だっけ?と必至に思い出そうとしましたが、この文字のロゴでしたね。
こういう仰々しくない控えめなロゴは好印象です。

プラチナZの特徴となるギミックの一つ目、クリップの収納機構。
プラチナZはスプリングを備えた収納式のクリップを持っています。クリップの開きは最大幅で2mmほど。
私は普段、rethinkの「Otemoto」にこのペンを挟んで携行していますので、レザーペンシースやシャツの胸ポケットなどに対して十分なクリップ性能を発揮します。

クリップの収納ギミック。
クリップの根元を軸側に押し込みつつ、クリップ先に向かってスライドすると収納(固定)されます。
クリップを展開したいときは、逆にクリップの根元側を軸に押し込みながら天ビス側に向けて軽くスライドさせます。
クリップがキャップの壁に完全に一体化するわけではないのですが、ペン全体の直進的なラインが完成し非常に美しい。
デザインが円柱のため、クリップがあるとデスクの上で転がるのを防止できますが、筆記時にクリップが邪魔になる場合は収納できるという誰にとってもメリットのある構造となっているわけです。

天ビスのデザイン。
これはシルバープレートのレッドモデルのため天ビスのロゴのカラーも赤ですが、シルバー×ブラックのモデルではこのロゴのカラーは黒になります。
Zの彫りにエナメルコーティング。この部分だけ見ても十分な拘り。

クリップを正面から。
クリップ先がU字形になっているため、円柱のデザインに統一感がでています。
そして、軸のストライプに赤いライン。
そもそもこのレッドモデルは、赤い油性インク用にブラックとセットで作られたモデルではないかと考えています。見かけることも少なくなってきましたが、ブラックも見つけたら是非入手して赤黒揃えたいですね。

続いてリフィル交換の仕組みについて。
プラチナZはキャップを真っ直ぐに引き抜くことから始めます。回転繰り出し式の中でも言わばCROSSのボールペンのような構造に近いです。
キャップの厚みもあり剛性感が溢れています。これも金属筆記具の「密度感」を感じるのに重要なポイントでもあります。

キャップを引き抜くと見えるローレット(凹凸模様)の入ったパーツを反時計回りに捻って外し、リフィルを取り出します。
対応するリフィルの規格は「A2規格」。プラチナZのリフィル自体はとっくに廃番となっているため、A2規格の互換品を探すことになります。
私がこのシルバー×レッドモデルを手にしたときに装填されていたリフィルは、三菱の「BA-7」という赤インクのリフィルでしたが、このリフィルも既に廃番となっており国内メーカーのA2規格リフィルを入手することは難しいという状態。
リフィルの形状は、以前記事にしているアウロラのテッシーやヤード・オ・レッドのボールペンに使うリフィルと同じです。

そこで活躍するのがAmazonなのですが、探したところありました。
シュナイダーの「エクスプレス75(Schneider Express 75)」。中字(M)の10本入りで海外からの発送です。Amazonの価格は2,688円。半月ほど待って到着。お洒落な箱です。

リフィルの比較。
上から、G2規格(パーカータイプ)リフィル、シュミット社のS700、シュナイダーエクスプレス75。
ということでシュミットのS700でもいけるのですが一本770円でしたので、一本あたり約268円(アマプラで送料無料)となるシュナイダー エクスプレス75を選択しています。

リフィル交換時の注意点は、リフィルに付けるバネ(バネは胴軸側に固定されていない)の付け替えが生じること。空のリフィルと一緒に捨ててしまわないように気をつけましょう。
このバネにも向きがあり、細くなっている方をペン先と反対側にして、リフィルにバネが固定されるように取り付けます。

このようになり、バネがリフィルに固定されます。
このような仕様をもったボールペンは海外メーカーのボールペンでたまに見かけますので、胴軸内にバネが固定されていない場合はバネの向きを無視していいのかリフィルの固定すべきなのかを確認して軸内に収納します。
あとは胴軸内にリフィルを戻して、ローレットの付いた金属製のインナーキャップをねじ込み、キャップを戻してリフィル交換は完了です。

プラチナZのギミックの2つ目、回転繰り出し機構です。
キャップを回転させるとペン先ごと胴軸内から繰り出されてきます。このようなリトラクタブル機構を持つ筆記具は他にもありますが、この繰り出しの手応え、動作音の気持ちよさはなかなかないのでは?と思います。
胴軸内にはリフィルが出たままのペン先が収納されているわけですが、シュナイダーエクスプレス75自体 粘度の高い油性インクのため書き出しが擦れるといったこともありません。

エクスプレス75が純正リフィルではないですが、筆記時のペン先のブレもなく非常に良好な書き心地。
昨今はジェットストリームのような低粘度インクが流行していますが、粘度の高い油性インクも捨てたものではなく、この文字に緩急のつけやすいぬらぬらとした筆記感を低粘度派にもぜひ味わって頂きたいと思うのです。

と、ここまでプラチナZを中心に見てきました。
ギミックとデザインの融合。MoMAに永久収蔵されるペンと言うだけあって、デザインだけ出ない機能の革新性が体験できる素晴らしいボールペンだと思います。
このような1970~80年代の、今となっても新しい筆記体験が得られる不朽の名作となりえるペンを保守的な思想となってしまった国内メーカーにはぜひ思い出して頂きたいものです。

▲左がプラチナZ、右がアウロラ アスティル
さて、ここからはおまけの比較として同じくMoMAに永久収蔵されている「アウロラ アスティル」の、ボールペンと比較していきたいと思います。
※MoMAに永久収蔵されているのはアスティルの「万年筆」となっています。
どちらも円柱形で回転繰り出し機構を備えたボールペン。
アスティルも軸にバリエーションがありますが、手元にあるのはベーシックなステンレス。他にはブルーのラッカー軸にゴールドトリム等。

スペック比較
【右】プラチナZ(プラチナ万年筆)
携帯時の全長:130mm
筆記時の全長:145mm
重量:27g
軸径:8mm
【左】アスティル(アウロラ)
携帯時の全長:131mm
筆記時の全長:142mm
重量:22g
軸径:8mm
2本とも基本スペックは似ているものの、プラチナZはいずれのモデルもマットな外装に対して、アスティルは鏡面仕上げとなっており印象は大きく異なります。

アスティルはキャップの前面に「AURORA」のロゴ。プリントに見えますがしっかりとした刻印です。

クリップはスプリングが組み込まれており、最大で6mmくらいまで開きます。
クリップを開いてない時は胴軸にピッタリと密着しており隙間は無し、クリップの先は外側に沿ったデザイン。この辺りはプラチナZとはデザイン思想が異なっていて、非常に興味深いです。

アスティルもリトラクタブル式の回転繰り出し機構を搭載しています。
プラチナZと違う点はペン先の収納方法。
キャップを捻ると、まずはリフィル(ペン先)が繰り出され、続いて口金部分が繰り出されてきます。
プラチナZはリフィル(ペン先)が出た口金自体が中からせり出してきますが、アスティルの一見動かなさそうなパーツが寸分の狂いもなく繰り出されてくる光景もかなり面白いです。

ペン先の比較。左がプラチナZ、右がアスティル。
ペン先を繰り出したときの全長はプラチナZの方が長くなっています。その理由として口金の形状の違いが挙げられ、プラチナZの流れるような円錐型のとは対象的に、アスティルは階段状に細くなるソリッドなフォルム。どこか製図用ペンを思わせるシャープな印象を受けます。
視認性はプラチナZの方が優れますが、アスティルは海外製らしいデザインに特化したペン先形状だと言えますね。

そしてこの2本は同じA2規格のリフィル対応となります。
プラチナZの胴軸側にリフィルを収納する方式とは異なり、アスティルはキャップ側にリフィルを固定して胴軸内に戻すという方式。言わば回転繰り出し式ボールペンではお馴染みのキャップを捻って外してリフィルを装填する、ヤード・オ・レッドと同じ機構のボールペンとなっています。

さて、今回はプラチナ万年筆の過去モデル「プラチナZ」のボールペンをレポートしました。
現在発売される国内メーカーのペン、特に筆記具の老舗である国内三大万年筆メーカーにはこのような優れたモダンデザインの筆記具が少ないように思います。
それが私が過去モデルを買う理由となっているのですが、老舗メーカーにも国内の高級筆記具第3勢力(三菱鉛筆やコクヨ)のように懐古主義から脱した攻めるモダンなデザインの筆記具の開発・発売を期待したいところです。
これは筆記具に関わらずですが、現代の業界においてアイデンティティを保持する分野とあえて捨てる分野というのが必要になってくるのではないでしょうか。
と、プラチナZのレビューも行いながら、筆記具業界についても色々考える機会となりました。
皆さんはどのようにお考えでしょうか。是非コメントでお聞かせ頂ければと思います。
それでは今回はこの辺で。
最後までお読み頂きありがとうございました。












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