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限定モデルでも「書きやすい」は重要。実用的なモンブラン作家シリーズ「ボルテール」レビュー

2024年10月5日

皆さんは限定モデルの筆記具を買う時、どのような動機で買うでしょうか?
 
デザインやカラーが気に入ったから、コンセプトに魅力を感じるから、製造本数が少なく希少価値を感じるから、新品やミント品をコレクションしている、等々。
 
私の場合は、色んな筆記具を手に取って使ってみて「自分に最も合う筆記具を探す」という目的と、筆記感やデザインの調査を行い情報を読者の方にシェアしたいという当ブログサイトの大義名分から。
 
限定モデルというと現行品よりも過去に発売されていたユーズド品を手にすることが多いのですが、最近はその筆記具が発売された「年」に注目しています。
 
過去のモデルを手にする時、その筆記具が発売され廃番となった時代背景や、ペンの状態から前オーナーの利用状況を想像し考えること。
それがたまらなく楽しいからです。
 

 
今回レポートするボールペンの購入動機は「1995年という発売年」。
1995年のモンブラン作家シリーズ「ボルテール」のボールペンです。
 
ボルテールも例外なくユーズド品を購入したのですが、小傷はありながらも目立った破損はなく丁寧に使い込まれてきたことが分かります。
 
1995年は阪神淡路大震災や地下鉄サリン事件等 暗い出来事が多かった年。
そんな中 日本でも発売されたボルテールは、当時いったい誰がどんな気持ちで購入し、どのような環境で使われたのか。
 
それを知るよしはありませんが、縁があって私の手元にやってきたこの筆記具に対して私ができることは、擦れた表面を磨き美しく蘇らせること、そして誰かそのペンの情報を求める人のためにデザインや仕様を記し使用感を伝えていくことです。
 
それでは作家シリーズ「ボルテール」をしっかり磨いて綺麗にしたところでレポートしていきましょう。
 

 

 

 

実用的な作家シリーズ「ボルテール」ボールペン

ボルテールを手に入れようと思った動機が印象深い1995年のモデルだったからというのは前述したとおりなのですが、実際に使ってみて何よりも感心させられたのが、その重量バランスの良さと書きやすさ。
 
前回の記事で取り上げたカランダッシュのレマンにも言えることですが、重量バランスがいい=スペックほどの重量を感じなくなる、ということ。
 
つくづく筆記具でものを書くという行為において、重量バランスは重要なのだと考えさせられます。
 

 
ゆっくりとキャップを回してペン先を繰り出し ボルテールを握ると11mmの程良い胴軸径に併せて、モンブランプレシャスレジンのしっとりと指に吸い付くような触り心地が出迎えてくれます。
 
モンブランの特別生産品と言えば豪華な装飾やある意味突飛なデザインの物が多い中、非常にクラシックで落ち着いたデザインのボルテール。
 
作家シリーズでも初期の頃のモデル(特に1992年のアガサ・クリスティー~1995年のボルテールあたりまで)は、ベースとなっているヘリテイジモデルが存在し、このボルテールにおいても1930年代に発売されたペンシル「pix L71」からインスピレーションを受けたデザインとなっています。
 
と言っても全く同じデザインが採用されているわけではなく、「ボルテールが活躍した18世紀をイメージさせる装飾」ということで、共通点が多くも違う点も多々あるといったところ。
 
ということで、その違いを忠実に描き起こしてみました。
(pix L71を持ち合わせていないため…いつかは手元に置きたいですね)
 

 
左がボルテール、右がpix L71の天冠の装飾柄です。
ボタニカル柄に点やラインを基調としたデザインなのは共通していますが、ボルテールは葉の数が2枚でpix L71は1枚など大きく違うことが分かります。
 
これだけ細かく彫られた柄が天冠に乗っていると流石にインパクトがありますね。
 

 
ちなみにこのボルテールの天冠の装飾デザインですが「謎」が一つあり、全部で4面ある双葉のレリーフのうち一つだけに違う模様(文字に見えないこともない)が刻印されていること。
※写真の赤丸部分
 
規則正しく並んだ彫刻=支配とたとえて、その中の一つを崩すことで自由(中世的な支配からの脱却)を表現したのではないかという、ボルテールの主張した啓蒙主義を表しているのではないかと勘ぐってしまいます。
 
話はそれましたが、非常にバランスの良い筆記感という話をしていました。
 
スペックは
携帯時の全長:140mm
重量:29g(キャップ側:16g/胴軸側:13g)
胴軸径11mm(グリップ部)
 
作家シリーズはテーマとなる人物にちなんだデザインを取り入れながら、筆記具としての性能も担保しなくてはなりません。
 

 
ボールペンでいうと、タイプとしてはヘミングウェイやデュマといったマイスターシュテュック#161をベースにしたものと、ボルテールのような#164をベースとしたものがあります。
 
その点、ボルテールはマイスターシュテュック#164をベースにしながらも、軸に使う樹脂を厚くし、言わばミッドサイズのボールペンのような握りやすさとバランスのいい重量(重心)を実現していると言えるのです。
 

 

ベースはマイスターシュテュック#164

モンブランのフラッグシップモデルと言えば間違いなく「マイスターシュテュック」となるでしょう。
マイスターシュテュック=最高傑作と銘打つだけあって、その書きやすさは折り紙付きです。
 
作家シリーズでありながら特異なデザインからは逸脱していて、むしろベーシックなデザインであるとも言えるボルテール。
 
この項ではボルテール ボールペンのベースがマイスターシュテュック#164であることを検証していきましょう。
 

 
左がマイスターシュテュック#164(以下:#164)、右がボルテール。
真ん中は#164の回転繰り出し機構の内部構造モデルです。
 
ボルテールの内部機構を直接見たわけではありませんが、ボールペン全体と胴軸接続部からクリップまでの全長、180°の回転繰り出し角が同じであることから、おそらく内部機構は同一の物だと推測されます。
 

 
壊す可能性があるためボルテールを分解する勇気はありませんが、おそらく同じ内部機構ではないかと。
#164系の回転繰り出し機構の特徴として真鍮製で、上からキャップを被せてクリップをセットし、天冠パーツで締める、という構造です。
 
分解するときはその逆で、天冠をネジって外し、クリップを外し、内部機構をキャップから下に引き抜く、です。
 

 
胴軸との接続部分。
ネジ切りの形状も同じ。ということは胴軸を入れ替えて使うことも可能ですが、試してみたところボルテールの胴軸は太くて#164のキャップに着けてもペン先を回転繰り出しさせることはできませんでした。
(ドネーションペンとは互換性があります)
 

 
右の#164はキャップより胴軸の軸径が細くなっているのに対して、ボルテールはキャップと胴軸の太さが同じです。
 
そのため操作感は同じものの、#164のような王道のシルエットと比べてもよりクラシカルな趣となっているのです。
 

 

ボルテールのディティールと部分的比較

それでは、作家シリーズ「ボルテール」の各部ディティールを、他のボールペンと比較しながら見ていきましょう。
※ボルテールのボールペンにも偽物は存在しますので、各部のディティールを参考にして頂き偽物を手にされないようご注意ください。
 

 
まずはキャップから。
作家シリーズの初期のペンにはボルテールにもあるような「MONT-△BLANC」のクラシックなロゴが刻まれています。
モンブラン山のイラストは手描き風で、どこか温かみのあるタッチとロゴの字体。
まさにクラシックモンブランを彷彿とさせる部分ではないでしょうか。
 

 
2016年にモンブラン創業110周年を記念して発売された「ルージュ&ノワール」のキャップにも同じクラシックロゴが刻まれていますが、よく見ると現代的でアイコニックなデザインにアレンジされている事が分かります。
これはこれでスタイリッシュで格好良い。
 

 
クラシックロゴの右下には「Voltaire」のサイン。
もともとゴールドのサインですが、手元のボルテールは経年使用によりゴールドが薄くなっています。
保管されていたものではなく実際に使われてきたことが分かる部分ですね。
 

 
クリップに向かって左側面にはシリアルナンバーが刻まれています。
「*****/13000」ということで世界で13000本限定。
そのうちの1本が手元にあるというのは感慨深いものです。
 

 
キャップリングには「(シルバー)925」の刻印とボタニカル柄の装飾。
ボルテールの金属部分はスターリングシルバーの上からゴールドプレートが施されているバーメイル仕様となっています。
 
ボタニカル柄の装飾は天冠のデザインと同じくpix L71で使われている装飾が踏襲されています。
さながらボールペンとして復刻したpix L71と言ったところでしょうか。
 

 
クラシックな筆記具を演出するポイントとして、クリップの形状は大きな役割を果たしています。
左がボルテール、右がチャールズ・ディケンズ。
 
カランダッシュのエクリドールやカヴェコ スポーツ、アウロラのオプティマのように伝統的なデザインを引き継いでいる筆記具には、このような湾曲したクリップが着いていることが多いです。
クリップを横から見た時の、この優美なラインが何とも言えず美しい。
 

 
クリップ正面はサイドに装飾がデザインされ、クリップの先も18世紀をイメージしたデザインとなっています。右にカヴェコ スポーツ ルックスを並べてみましたが、クリップ先のデザインにどこか共通するものを感じます。
 

 
ホワイトスターの土台となる部分が装飾された金属という仕様は、後の特別モデルで幾度となく使われてきました。
左がボルテール、右は2009年限定発売のユニセフシグネチャーフォーグッド(リペア品)。
ボルテールはより大きな天冠が採用されており、通常サイズの約1.5倍ほど。
 

 
クリップの裏には「GERMANY」のエンボス刻印。
ここは限定モデルによくある「METAL」等の素材の刻印はなく、製造国の刻印のみとなっています。
 

 
ペン先の比較。
左から、マイスターシュテュック#164、ボルテール(作家シリーズ)、メニューイン(ドネーションペン)
 
口金のサイズや形としてはベースの#164サイズですが、ボルテールは例にならってpix L71のデザインが踏襲されています。
ユーディ・メニューイン等一部のドネーションペンには文字刻印が入っていて情報量が多いです。
 
作家シリーズ ボルテール ボールペンの外観的特徴をまとめると、
 
・18世紀をイメージした装飾のトリム(天冠・キャップリング・口金)は1930年代のpix L71をもとにしたデザイン。
・金属部分はシルバー925にゴールドプレートのバーメイル仕上げ。
・キャップに「MONT-BLANC」のクラシックロゴとボルテールのサイン。
・「*****/13000」のシリアルナンバー。
 
となります。
 

 

ボルテール ボールペンのサイズ比較

最後はボルテールに近い筆記感を持つモンブラン ボールペンとの比較です。
近い筆記感と書いてお気づきの通り、同じ#164の構造を持つボールペンを並べてみました。
 

 
左から、ヘルベルト・フォン・カラヤン(ドネーションペン)、ユーディ・メニューイン(ドネーションペン)、ボルテール、ユニセフ シグネチャーフォーグッド、マイスターシュテュック#164。
 
ボルテールはドネーションペンと同じ胴軸径をもっており素晴らしいグリップ感。
1mmだけ軸径が細くなるのがユニセフと#164で、こちらも老若男女に使いやすいモデルとなっています。
 
こちらの5本はペン先繰り出しのためのキャップ回転角が180°と共通していて、同じ回転繰り出し機構を組み込んでいると思われるモデル。
 
ペン先繰り出しの操作感はねっとりと高級感があり、動作も無音。
まさに最高傑作に相応しい操作感の回転繰り出し機構です。
 

 
手元の作家シリーズも3本目となりました。
左から、チャールズ・ディケンズ(ボールペン)、ボルテール(ボールペン)、アレキサンドル・デュマ(メカニカルペンシル)。
 
3本それぞれに操作感や筆記感が全く異なるのが面白いモンブランの作家シリーズ。
 
音楽家をコンセプトにしたドネーションペンとの大きな違いがそこで、ドネーションペンのボールペンは各モデルの重心バランスや重量が似せてあり、ほぼ一定な書き心地が得られるのに対して、作家シリーズは重量や重心バランス・筆記感・ペン先の繰り出し操作がモデル毎に大きく違うこと。
 
それが作家シリーズの面白さといっても言いすぎではないでしょう。
(筆記具としての「書きやすさ」という点では博打要素が大きいですが…笑)
 
ボルテールはそんな尖ったデザインが多い作家シリーズの中でも、操作性や書きやすさに重きを置いたモデルと言えます。
 

 
手元にある限定モデル達のホワイトスターを並べてみました。
これをやるの久しぶりな気がします。
 
作家シリーズやドネーションペンの過去モデルに共通しているのが、ホワイトスターがアイボリーな事。
両端の2本は純白のホワイトスターなのですが、違いがお分かりでしょうか?
 
ホワイトスターのサイズもそれぞれに見えますが、この7本のモンブランでいうとチャールズ・ディケンズとルージュ&ノワールの2本のみ大型のホワイトスターで、それ以外は同じサイズです。
 

 
ボルテールのホワイトスターを上から見たところ。
天冠の装飾部分がまるで弾丸のように渦巻いて見えます。
透明感のある小さなアイボリーのホワイトスターが美しい。
 

 

さて、今回はモンブランの作家シリーズの1995年発売モデル「ボルテール」のボールペンをレポートしてきました。
 
18世紀を生きたボルテールにちなんだ彫刻やペン全体のデザインに合わせ、フラッグシップモデルであるマイスターシュテュック#164の内部機構を搭載した、非常にバランスの良い一本にまとまっています。
 

 
作家シリーズのなかでは実用性も兼ね備えているという点で数少ない一本ではないでしょうか。
 
全体的な印象としては1930年発売のpix L71のボールペンモデルと言っても過言ではないどデザイン的な共通点が多いため、その年代のペンシルとセットで持ち歩いても良さそうです。
 
コンセプトとなっている作家に想いを馳せたり、発売年を思い出しながら使うのも楽しい作家シリーズ。(1995年のボルテールに関しては、まだ生まれてないよ~ という方も多いでしょうけど…)
書く楽しみに加えて、ペンへ探究心を掻き立てられるモデルというのは良いものです。
 
それでは今回はこの辺で。
最期までお読み頂きありがとうございました。

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