デルタの万年筆レビューその参 【SEA WOOD】
みなさんこんにちは。今月はデルタ月間ということでドルチェビータ、スクリーニョと順に紹介してきました。今回もデルタ社追悼と表してデルタの万年筆をレビューしていきます。
デルタと言えばフラッグシップのドルチェビータを筆頭にその美しいマーブルレジンの胴軸が真っ先に思い浮かびますが、中には異端とも呼べるモデルも存在します。それが今回レポートする「SEA WOOD」です。華やかなマーブルレジンとはまるで対照的なシブい木軸の万年筆。木軸と言えば国産のパイロットカスタムが有名ですが、海外メーカーのデルタにも密かに木軸万年筆がラインナップされていました。そもそもアジア以外の海外メーカーで木軸というのは珍しいのかも知れません。
このSEA WOODはスクリーニョの後に購入しました。スクリーニョが太軸過ぎたため通常サイズのデルタ万年筆を求め入手に至ったのですが、こちらも意外と太軸でサイズ的にはモンブランの№146と同等のサイズ。しかも手にした感じは木軸らしからぬズッシリとした感触。デルタに細軸は存在しないと確信したのでした。
SEA WOODを使い始めた頃は書き始めにインクがかすれることがしばしば。そのため出番が少なめでしたが使っていく内に書き癖に馴染みインクが出るようになった噂に聞くデルタ万年筆らしい(失礼)万年筆でした。言うなれば「万年筆という筆記具を教えてもらった」万年筆なのかもしれません。今もメインの万年筆ではないですがペンケースを木軸で揃えるときなどに必ず登場し、赤いインクを吸わせて使用しています。
それではデルタの異端万年筆、SEA WOODを見ていきたいと思います。
【SEA WOODの軸やスペック】
SEA WOODはデルタの万年筆の中では見た目が地味な部類に入ると言えます。ラインナップはナチュラルウードとダークウードの2色。毎度のことながら私は経年変化をより楽しみたいため薄めのナチュラルをチョイスしています。SEA WOODと呼ばれるアフリカ産のイロコウッドは湿度に強く耐久性のある木材のため船舶や家財道具に使われることが多いそうで、常に人の手とともにせわしく動く万年筆の素材としてもピッタリではないでしょうか。希少なイロコウッドを職人が丁寧に削りあげ、仕上げられているのがSEA WOOD。その表面は飴色に輝き、マーブルレジンのように光の当たる角度によって表情を変える部分も見られます。胴軸とキャップはそのイロコウッドの木軸をメインに、ブラウンとアイボリーのマーブルレジンとクロームのトリムでまとめられていて上品さと高級感を醸し出しています。金属+木材の組み合わせが一般的ですが、金属+木材+レジンという組み合わせはこのSEA WOODだけではないでしょうか。
キャップを見るとデルタ万年筆お馴染みのコレクション名とシリアルナンバー。少し見にくいですがマーブルレジンのキャップリング部分にシリアルナンバーが彫られています。クリップはスクリーニョと同じくホイールの無いシンプルなクリップで挟み込みは少し硬めに作られています。
天冠には他の万年筆同様にデルタのペン先マークが施されていてデルタ筆記具としての統一感を感じます。この天冠・キャップリングのマーブルレジンが良い仕事をしており、とても手の込んだデザインとなっていますね。スペックは長さ約140mm、重さ約30g、軸径15mm。キャップ・胴軸ともに樽型に仕上げられており木のぬくもりと持ちやすさを両立させています。
【吸入機構とペン先】
続いてSEA WOODの吸入機構ですが、こちらはピストン吸入式。ピストンといってもドルチェビータ・ピストンフィリングのように胴軸に吸入機構が組み込まれているのではなく、取り外し不可能なコンバーターが付いているような形態です。胴軸を外すとインクタンクが見られます。このようにコンバーターのようなインク吸入方式でインクを入れることもでるのですが…。
尻軸のマーブルレジン部分がキャップのようになっており、それを外すことで首軸と胴軸を分離することなくインクを入れることもできる変わった仕様なのです!しかしながら、やっぱりインクが入っていくところが見たいので、結局の所、私は首軸と胴軸を外してインクを入れてしまうのですが…笑
ペン先を見てみます。こちらのモデルは通常のペン先ではなくフュージョンニブと呼ばれる仕様となっています。フュージョンとは融合の意。スチールペン先に被せるように18金のプレートが付いています。これは硬いスチールペン先とは違う熱伝導率の18金プレートを置くことでスチールペン先のインクフローを向上させるという狙いがあるようです。正直、私には普通のスチールニブとの書き心地やインクフローの違いが分かりませんでしたが、オリジナリティのあるペン先は嫌いではないです。
ペン芯はデルタの大型万年筆に共通のフィンが細かいペン芯となっています。3本のデルタ万年筆のペン芯を並べてみるとこんな感じ。こういう細かいフィンのペン芯はインク吸入の際、ペン先を上にしてペン芯に残ったインクを吸い上げる時の“フィンの間のインクが順にインクタンクに吸われていく感じ”が見て取れるのでとても好きなのです(共感いただけるでしょうか…この感じ)。
【他の万年筆との比較と筆記感】
最後に他の万年筆とのサイズ比較です。自分もそうなのですが、やはり万年筆を持つ(買う)うえで自分にフィットする万年筆のサイズというのは重要だと思うのです。そのようなことから、万年筆を使う方々が所有させているであろうポピュラーな万年筆との比較を毎回行っています。少しでも参考になればと思います。
左からパイロットカスタム74、デルタSEA WOOD、プラチナセンチュリー#3776、そしてモンブランのマイスターシュテュック№146です。ほぼほぼ同じサイズだということがお分かりいただけるかと思います。長さ以外の違う点としては筆記バランス。SEA WOODは重さが約30gですが、キャップが約15g、胴軸が約15gと普通の万根筆の重量構成に比べてキャップが重くなっています(例えばマイスターシュテュック№149ならキャップが10g、胴軸が20g)。
そのためキャップを尻軸に差して書くとリアへビーとなり何やら落ち着きません。私はキャップを尻軸に差さずに文鎮代わりとして紙に置いて使っています。
【まとめ】
さて、デルタが放つ異端児SEA WOODはいかがでしたでしょうか。金属+木材+マーブルレジンの軸は、木軸万年筆にありがちな「渋さ」をある程度殺し、渋さに加え上品さと豪華さを演出していました。さらに独特なピストン吸入式の機構や珍しいフュージョンニブからは、新しい万年筆のあり方を切り開こうとしたデルタの志向がうかがえます。
デルタ追悼記事によるデルタ万年筆のレポートは今回で一旦終わりになります。デルタの美しい万年筆達が製造されなくなったのは悲しくて仕方ありませんが、文房具店で見かけたらぜひその優雅な軸を手に取ってじっくり見ていただきたいです。きっとお気に入りの一本が見つかるかと思います。カヴェコやコンクリンのようにいつかまたデルタが復活することを夢見ながら、美しい万年筆を使い続けようではありませんか。
それではまた。
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