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オリジナリティ溢れるOEMメーカーの銀軸万年筆を追え【クレオ・スクリベント リネア アルテ レビュー】

2023年5月28日

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皆さんこんばんは。
 

今回は銀軸万年筆のレポートです。
 

Twitterの筆箱紹介でもよく見かけるようになった銀軸の万年筆。
その魅力は流行の木軸と同じく、「素材本来の手触りと色味」そして愛用年月が長ければ長いほど手に馴染み、風合いも増していく「経年変化」にあるでしょう。
 

一昔前、と言っても2000年代以前ですが、銀軸の筆記具は筆記具メーカー各社からある程度のラインナップが発売されていました。
昔からYARD・O・LEDのような銀軸専門でやっているメーカーもありますが、やはりその筆記具一本の値段はその価値に見合うように高価に設定されています。
 

銀軸を専門としないメーカーは、生産コストの高さから 記念モデル以外において軸万年筆を生産・発売するいうことがなくなってきています。
 

その中でもなかなか目にしない=情報が少ない銀軸万年筆にスポットを当ててお贈りしていきます。
 

ということで今回取り上げる銀軸万年筆は、海外筆記具メーカーのOEMも手掛ける「Cleo Skribent(クレオ・スクリベント)」の唯一の銀軸モデル「Linea Arte(リネア アルテ)」
※(リネア アルト)とも呼ばれます。
 

 
非常に個性的なデザインの万年筆。
 

クレオ・スクリベントというメーカーを聞いたことがある、という人は少ないのかもしれません。
日本の市場では数年前にノギス付きのボールペンやペンシルが発売されていて、私がこのメーカー名を目にしたのもその時が初めてでした。
 

その時は万年筆としてのラインナップがあることに気付いておらず、面白いコンセプトのペンを製造するメーカーが出てきたなーくらいの認識でした。
 

しかし、クレオ・スクリベント自体は第二次世界大戦後の1945年からあり、今も職人による手作業を重んじる「Made in Germany」を貫いている筆記具メーカー。
その卓越した生産技術から、世界の筆記具部品のOEMを手掛けているメーカーです。
 

海外の万年筆メーカーがペン先の製造を他社に委託していると言う話はよく聞きますね。
ペン先のOEMメーカーならドイツのBOCK社やJoWo社が有名です。
 

一方、軸やパーツといった筆記具の部品、また、ペンの製造機器自体を世界中の筆記具メーカーに納入しているのがCleo Skribent社ということになります。
(正確にはCleo Skribent社は万年筆の製造をメインに、ペンの製造機器製造やペン先のメッキ加工受託等は分社したWEISS & WEBER社が行っている)
 

モンブランやパーカーなど、すべての製造工程を自社で行っているというメーカーもありますが、軸などのパーツを製造するための機械やその作業そのものを業務委託するメーカーも少なくありません。
 

そんな筆記具業界の「縁の下の力持ち」とも言えるクレオ・スクリベントの筆記具はどのようなものなのか。
 

それでは早速、「Made in Germany」の銀軸万年筆「リネア アルテ」を見ていきましょう。
 

 

 

 

クレオ・スクリベント「リネア アルテ」の特徴的なデザイン

まずは、いつもの事ながら万年筆のデザインから見ていきます。
 

 
リネア アルテの全体像。
とても美しいギロシェパターンが刻まれたアールデコデザインの万年筆。
 

 
銀軸万年筆というとほとんどが嵌合式ですが、こちらはネジ式のキャップを採用しています。
そういった意味でも、ネジ式キャップ好きには貴重な銀軸万年筆と言えますね。
中央のリング部分がキャップと胴軸が交わる部分です。
 

 
特徴的なクリップは板を曲げたようなデザイン。
キャップは先に向かって細くなり、展望台のように膨らんだ天冠のラインが美しい。
ちょうどクリップの付け根から上は別パーツとなっています。
 

うーむ、通天閣のようなキャップ…と言えば、もう通天閣にしか見えなくなってくるデザインのキャップです笑。
 

 
クリップ正面はこれまた珍しい丸みを廃した長方形。
リネア アルテのクリップ刻印は製造年代により異なり、旧タイプがスクエアの中にサークルのロゴと「Cleo Skribent」の社名刻印。
新タイプがサークルのロゴ(Cの中にドット)のみとなっています。
 

ということで、こちらのモデルは旧タイプ。
 

 
キャップの上部には一箇所だけ、素材を表す「925」の刻印。
首軸、胴軸、キャップ(クリップを除く)に至って、全てがスターリングシルバー製ですが、シルバー925を表す刻印はこの箇所のこれ1つのみです。
 

 
天冠にはロゴ等の刻印はなくフラットな天冠。
各所にシルバー特有のくすみが見られますが、クリップはシルバープレートとなっています。
 

 
クリップの裏にはクレオ・スクリベントの誇りである「Made in Germany」の刻印。
 

 
クリップの対面には「Linea・Arte」のレーザー刻印。
キャップ全体の刻印による情報量は多めです。
 

ちなみにスペックは、
 

総重量:45g(コンバーターとインク含む)
キャップのみ:19g
胴軸部のみ:26g
全長:145mm
 

となり、手元の銀軸万年筆の中では大きめのサイズ。
 

次の項では、リネア アルテの筆記感を見ていきます。
 

 

リネア アルテの筆記感

銀軸の万年筆ということもあり、ズシリと重みを感じるリネア アルテ。
ここでは重量バランスや筆記感について書いていきたいと思います。
 

 
まずペン先ですが、18金のバイカラーニブを搭載。
Twitterで「水(インク)も滴るいいペン先」というシリーズをツイートしているのですが、これはその中の1枚。
クレオ・スクリベントのロゴはサークルの右側が空いており、「C」のシンボルを形作っています。
 

ニブの刻印はロゴに加え「Cleo Skribent」「18K」(素材)、「M」(字幅)。
字幅のラインナップはF、M、Bの3種類。
 

 
胴軸に対して首軸が細いため 首軸側を持つかネジ切り部分を持つかになるのですが、私は軸が太い方が持ちやすく感じるためネジ切り部分を持っています。
 

万年筆を使うにあたり、キャップを尻軸にポストするかしないかでバランスや筆記感は変わってきます。
しかし、こちらのリネア アルテは尻軸にキャップが嵌まらない仕様となっています。
 

そのため、筆記時の重量はキャップを省いた26gの重量のみで、長さは125mmの万年筆となります。
筆記時にキャップを尻軸にポストして使われる方にとっては注意が必要。
 

 
私はキャップをポストせずに使うため問題はありませんが、個人的に首軸はもう少し太い方が持ちやすいかな、と感じます。
重量バランスはキャップを尻につけることがないため、丁度一番軸径が太くなる首軸と胴軸の堺目あたり(グリップポイント辺り)が重心となります。
 

 
筆記感は、十分なインクフローに滑らかな紙へのタッチ。
海外製万年筆に見られる、一般的な字幅のM(中字)です。
 

 
私が海外製万年筆の中字を使うとどうもべったりとした抑揚のない文字になりがちです。
 
ここはあえて日本語の美しさである「はね」「はらい」を使わず「とめ」を多用した文字を書くように意識するといった使い分けをすると良いかも知れません。
 

 
文字の濃淡がはっきり確認できる、いわゆるウエスタンニブの中字。
画数の多い漢字はやや苦手としますが、ようは何という漢字が書いてあるか伝われば良いので、文字の画数を一部はしょることも念頭に入れながら 大らかにいきましょう。
 

 

銀軸万年筆比較(サイズ・書き味の比較)

続いては、手持ちの銀軸万年筆をサイズ、書き味で比較していきます。
 

比較に使う万年筆はこの5本。
 

 
▲左から、パーカー「パーカー75」、シェーファー「インペリアル」、クレオ・スクリベント「リネア アルテ」、パイロット「シルバーン トク」、プラチナ「プラチナ・プラチナ」。
 

先にも書いたとおり、万年筆としては携帯時の全長が145mmというのは長めの部類にあたります。
この5本の中でも全長は一番長く、唯一のネジ式キャップを持つ万年筆となっています。
 

 
キャップを外してみました。
この5本の中では一番首軸が細く、胴軸径もパーカー75と同等。
 

ううむ、個人的にはこの中ではプラチナ・プラチナが首軸の太さから頭抜けて持ちやすいと感じるため、リネア アルテは胴軸こそ太めですが、細軸の筆記感が好きな方向けの万年筆と言えるのかも知れません。
 

同じ細めの首軸を持つパーカー75と違う点として、グリップポイントがペン先寄り(パーカー75)か、胴軸寄り(リネア アルテ)かということです。
 

筆圧が弱めの方は胴軸側を持つ傾向があるため、リネア アルテは万年筆の自重に筆圧を任せながら、軽く毛筆のように筆記する方に向いた万年筆ではないでしょうか。
 

 
ペン先のアップ。
首軸一体型が多い手元の銀軸万年筆です。
 

ペン先の素材と字幅はそれぞれ、
 

パーカー75:14金(XF)
インペリアル:14金(F)
リネア アルテ:18金(M)
シルバーン:18金(M)
プラチナ・プラチナ:プラチナ合金(F)
 

 
この中では切り割りが一番長いシルバーンが一番柔らかい書き味。
パーカー75とプラチナ・プラチナは書き味は硬めですが、しなりがあり、字幅が細いということもあって日本語がとても書きやすく感じます。
個人的な意見ですがご参考に。
 

クレオ・スクリベント リネア アルテの書き味はファーバーカステルに近いかな、と感じます。
がっつりウエスタンニブ的な書き味と言いますか、紙へのタッチが柔らかでインクフローも良好。
 

そのため線は太めとなり 画数の多い漢字や細かな文字は苦手ですが、濃淡のある文字を楽しむことができる書き味。
 

しっかりと一画一画を「とめ」て書く文字が好きな方であれば、バッチリとハマる万年筆ではないでしょうか。
 

 

番外編:BOCK社製ペン先を搭載する3社のペン先と書き味の比較

最後に番外編として、ペン製造機器や筆記具部品のOEMメーカーでもあるクレオ・スクリベントのペン先を、同じBOCK社製ニブを搭載した兄弟ペン先とも言えるファーバーカステル、カランダッシュの2社と比較していきたいと思います。
 

 
同じBOCK社製と言われる3社のニブは確かに形も似ています。
ただ、似ているというだけで全く同じニブではなく、各社のコンセプトや書き味に合わせたカスタマイズがなされているのは言うまでもありません。
 

 
比較するのはこの3社のペン先。
左から、
 

・ファーバーカステル クラシックコレクション
・クレオ・スクリベント リネア アルテ
・カランダッシュ ヘクサゴナルコレクション
 

首軸からペン先ユニットが露出しているという見た目もよく似た3本となっています。
 

 
正面から見たニブで比較していきましょう。
3社の中では、サイドの壁が一番高いのが真ん中のファーバーカステル。
クレオ・スクリベントに近い形状をしています。
 

カランダッシュは丸いアーチ型となり、他の2本とは少し違った形状が採用されている事が分かります。
 

体験をもとにニブの形状と書き味の関係を考えると、サイドが切り立ったニブであるほど書き味は硬くなる(しなりが少なくなる)傾向にあると考えています。
 

これはBOCK社製のニブに限らず、国産の万年筆においても同じで、昨今のモデルのニブ形状からプラチナの書き味はパイロットやセーラーの書き味よりも硬く感じるのではないでしょうか。
 

その要因として各社のニブの形状の違いが大きく関わっていると言わざるを得ません。
(国産万年筆のニブの形状の違いについては過去の比較記事をご参照ください)
 

※紙へのタッチはニブ形状というよりもニブの素材(14金なのか18金なのか21金なのか)やペンポイントの研ぎが大きく関係していると言えます。
 

 
ペン先を横から比較すると、3社のニブとペン芯の関係が似ていることも分かってきます。
見た感じ、そっくりそのまま入れ替えが可能なのではないかとも思えるニブとペン芯のシルエット。
 

微妙な違いはあるものの、うーむ、これは興味深い!
 

 
ペン芯を比較します。
 

ファーバーカステルとクレオ・スクリベントは同じタイプのペン芯が採用されていることから、ニブとペン芯については互換性があると考えます。
(実際にペン先を分解し組み換えを行ったわけではないので、断言はできませんが…)
 

今回の記事の写真にはありませんが、カランダッシュスチールニブのペン芯とカヴェコのペン芯は同じものが使われており、この2社のペン先も互換性があるものと思われます。
 

ペンポイントの研ぎについても同じBOCK社製のニブということもあり酷似。
字幅はそれぞれ違っていて、
 

左:ファーバーカステル…EF
中:クレオ・スクリベント…M
右:カランダッシュ…F
 

となっています。
 

ついでに、巷で製造元が同じと言われているファーバーカステルとペリカンのニブ(ペン先)も比較しておきましょう。
 

 
サイドが切り立ったブリッジ型のファーバーカステルのニブと、丸いアーチ型のペリカンのニブ。
かつては同じOEMメーカーのニブが使われていると言われていましたが、現在は違うようです。
 

ペリカンの長い歴史の中でBOCK社にニブ生産を委託していた時期もありますが、現在は自社製造しているようです。
そして、ニブのバイカラー塗装はWEISS & WEBER社へ委託しているというのが私の考察です。
 

その根拠としては、WEISS & WEBER社のホームページにペリカンのニブが登場していること。
もしかすると、ペリカンだけでなくヨーロッパの筆記具メーカー各社のニブの塗装や刻印工程を受託しているのではないかと考えます。
 

 
横から見ると結構な形状の違いが見て取れます。
実際の書き味も、ペリカンはかなり柔らかい書き味を実現していて、差別化が図られていることが覗えます。
 

 
3社のペン先で書き比べてみました。
ペン先通りの字幅ですが、カランダッシュのみ他の2社と違い、字幅が日本製に近い(細め)のように感じます。
 

逆にファーバーカステルはEFですが、日本製万年筆のFくらいの字幅。
私の中ではクレオ・スクリベントの万年筆と同様に、「とめ」を駆使して文字を書く部類の万年筆メーカーという位置づけです。
 

 
いやしかし、インクの濃淡を楽しむのならば純然たるウエスタンニブを使うのが良いでしょう。
字幅が細くなればなるほど、「好きなインクを入れて文字の濃淡を楽しむ」というジャンルからは外れていくように思いますから。
 

 
さて、今回はクレオ・スクリベントの銀軸万年筆「リネア アルテ(リネア アルト)」をレポートしました。
 

どちらかというと後半は、万年筆のレポートから外れて銀軸比較やニブ比較がメインとなりましたが…汗。
 

 
筆記具メーカーとしてのクレオ・スクリベント、OEMメーカーとしてのクレオ・スクリベントという具合いに、2つの顔を持つ希なメーカーとして、海外の筆記具業界を裏で支えていると言っても過言ではありません。
 

レポートした銀軸のリネア アルテの他にも樹脂軸のモデルや希少樹種を用いた木軸モデルもラインナップされており、日本の筆記具事情においてマイナーなブランドではありますが、なかなか目が離せないメーカーとなっています。
 

ユーズド市場ではあまり出回ることがないため、見つけたら確保して、是非その書き味を体験してみてほしいと思います。
 

それでは今回はこの辺で。
最後までお読み頂きありがとうございました。

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