オマスのフラッグシップ万年筆の偉大なる書き味【OMAS アルテイタリアーナ ワイルド パラゴン レビュー】
皆さん、明けましておめでとうございます。
去年は当ブログサイトをご愛読頂きありがとうございました。
本年も皆さんに役に立つと言われるような筆記具の情報を発信していければと思います。引き続きよろしくお願いします。
本当は年末にご挨拶と一緒にもう一記事!と思っていたのですが、予想以上に忙しい年末だったため私と一緒に忘年筆の記事まで年を越してしまいました…。
と言うわけで、2025年一発目の記事は 昨年末に入手した万年筆のレポートとなります。
私が忘年筆(価格的にも兼新年筆ですが…)に選んだのは、タイトルにもある通りオマス(OMAS)の万年筆。
もともとオマスの万年筆が欲しかった!というわけではなかったのですが、完全に一目惚れで買ってしまいました。
去年末、Xでも「忘年筆・新年筆」という言葉がちらほらと見え始めた頃、臨時収入もあり 何か自分の中で記念となるペンを探していたところ、突如出品された未使用保管品がオマスの万年筆「アルテイタリアーナ ワイルド パラゴン」の旧モデルでした。
所有するオマスの筆記具としては5本目で、前の4本はボールーペンが3本、万年筆が1本。
ボールペンは丸軸でブライヤー軸の「A.M.87」、そして2本の素材が異なる12角軸のアルテイタリアーナ ボールペン(チタン軸のT2コレクションと同樹脂モデル)。
万年筆はヴィンテージの総金属軸「OMAS 50」で、これはフレックスニブで独特な書き味が愉しめる逸品。
今までサラッとオマス筆記具の表層を体験した形ですが、伝統的な樹脂軸の万年筆は未体験でした。
オマスのセルロイド製万年筆は未知の領域。
未知の領域に足を踏み入れるのはいつもワクワクしますね!
オマスって廃業したのでは?という認識をお持ちの方のために簡単に遠隔を書いておくと、
オマス(OMAS=Officina Meccanica Armand Simoni)は1925年にアルマンド・シモーニにより設立され、卓越した技術とデザイン、使われる希少な素材で、オマスの万年筆はイタリアの老舗筆記具メーカー御三家として愛されていましたが、2016年に惜しまれつつ廃業。
その後、アメリカのペンコレクターを中心に2023年に復活を果たし、日本でも同年11月より取り扱いが開始となっています。
オマスの万年筆において、間違いなくフラグシップモデルの位置付けであるアルテイタリアーナのパラゴンは、まさにオマスの技術の結晶と言っていいでしょう。
アルテイタリアーナには2種類のサイズがあり、パラゴン(大型)とミロード(中型)。
分かりやすく書くとオマスのパラゴンはモンブランで言うところのマイスターシュテュック#149と同等となり、ミロードが#146のようなサイズ感となります。
手元のアルテイタリアーナ ワイルド パラゴンは、2010年頃に発売された廃業前の旧タイプ。
2008年のクリップデザイン刷新以降でも この首軸が金属製のモデルは賛否両論あったようで、もしかすると廃業に傾くきっかけになったモデルなのでは?と考えられなくもないですが、個人的にはこの金属首軸こそが購入の決め手なのです。
さて、色々書いてきましたが、百聞は一見にしかず。
これら前置きで書いた内容を一つずつ紐解いていきたいと思います。
それでは、見ていきましょう。
オマス アルテイタリアーナ ワイルドのデザインとサイズ感
まずは、アルテイタリアーナ ワイルドのデザインから見ていきます。
なんといっても特徴的なボディのデザイン。
フラッグシップモデルのアルテイタリアーナは、創設者アルマンド・シモーニが1930年にギリシャのパルテノン神殿から着想を得てデザインしたと言われています。
オマスと言えば12角軸を想像する程 代名詞的な軸のデザイン。
そして「ワイルド」は、12角形の軸に艶やかなセルロイドで稲妻パターンがあしらわれています。
12面あることで、エッジの効いた各面が光を反射し、美しい陰影と上品な輝きをもたらす軸。
この稲妻パターンは、オマスから1993年に発売された限定モデル「ガリレオ・ガリレイ リミテッドエディション」のデザインがオリジナル。以降、オマスの定番デザインとして定着し、現在発売されている新生オマスでも同様のデザインのアルテイタリアーナを購入することができます。
イタリア軸と言えば、クリップに付くローラーが印象的。
この旧モデルのアルテイタリアーナ パラゴンは、2008年にクリップの形状が変更され、私が調べた中ではその後、あまり人気がなかったからか以前の伝統的なクリップ形状に戻っています。(パラゴン、ミロードともに)
横から見ると、ビスコンティのクリップ(ポンテベッキオ橋)並みに前にせり出しており、その分ローラーも平たく大型になっています。
個人的にですが、クリップ形状は伝統的な以前のデザイン(現行モデルのデザイン)の方が好きですね。
クリップの比較。
真ん中のT2コレクションのボールペンがよく見るオマスのクリップではないでしょうか。
ミロードサイズの筆記具に見られるのが奥の樹脂軸のクリップ(ローラー無し)。
クリップについては、主にパラゴンのような上位モデルにローラー付きのクリップが付くイメージですが、ミロードサイズのモデルに付いている場合もあり、クリップのみで軸サイズの判断が難しいです。
キャップの天面は円錐形で、この世代のモデルには「Oロゴ」が付いています。
素材はシルバー925。
現在のパラゴンにはOロゴがデザインされたメダルが嵌め込まれており、そちらも高級感あり。
キャップ上部とOロゴの中の柄が続いていることから、Oロゴの金属パーツは埋め込まれているということが覗えます。
胴軸の稲妻パターン。
セルロースやセルロイドの軸は、軸の加工段階において素材のつなぎ目が出る場合と出ない場合があります。
オマスやアウロラのような棒状の素材を円筒形に削り出して作る万年筆にはつなぎ目がありませんが、ペリカンのスーベレーンのように、シート形に形成したセルロースを巻いて円筒形に仕上げる軸は 軸の柄につなぎ目が生じます。
こういったランダムな柄のパターンの軸は、棒状の素材を削り出して作られているわけですね。
(引用元 ドラゴンボール 集英社)
個人的にこの手の稲妻パターンを見て、真っ先に思い浮かんだのがこちらのシーンだったというのはここだけの話にしておきましょう。
オマス アルテイタリアーナのスペックは、
携帯時全長:150mm
筆記時全長(キャップポスト無し):136mm
筆記時全長(キャップポストあり):179mm
重量:48.5g(胴軸側:34g)
軸径(ネジ切り部分):14mm
と、かなり大型(オーバーサイズ)であることが分かります。
もう少し小さめが好みという方はミロード サイズがお勧め。
オーバーサイズと言われるオマス パラゴンのサイズ感について、冒頭でも書いたように分かりやすく(?)、モンブランの#149、#146、#144と並べてみます。
▲左から、オマス アルテイタリアーナ パラゴン、モンブラン マイスターシュテュック#149、#146、#144と続く
全長はモンブラン#149に匹敵するサイズ。
流線型バランス型のモンブランと比べて、ベスト型で面が際立つデザインのオマス。
重量も48gと50gに迫る重さで存在感抜群です。
ここまで、ざっくりとデザインを見てきました。
モンブランとのペン先(ニブサイズ)の比較については 後の項で行っていきます。
最高級素材全部乗せのオマス万年筆
冒頭でオマスのアルテイタリアーナ ワイルドを「一目惚れで買ってしまった」とは書いたものの、見た目だけで10万円以上もする万年筆を買うようなことはしないのが慎重派の私。
発見からポチるまでの十数分間は全力で情報収集となります(笑)。
この旧モデルのアルテイタリアーナは情報が少なく苦労しました。
まず胴軸とキャップの素材が艶やかで美しいセルロイド。これはアルテイタリアーナ パラゴンの代名詞と言っても良いでしょう。
オマスが扱う最高の素材の中の一つとして様々なモデルに使用され、知名度の高い素材。
しかもブラックとクリームホワイトのワイルド柄。
この柄はオリジナルだった限定モデル「ガリレオ・ガリレイ」以降、オジバや360といったモデルの柄としても使われています。
セルロイドの欠点として、環境や経年による変化が挙げられます。
オマスのセルロイドも同様に収縮が発生しており、上の写真の胴軸と首軸の間を見て頂くと、隙間が生じていることがわかります。
ただ、このパラゴンの構造上の素晴らしい点として、セルロイドの収縮が発生した際も機能的な影響を受けないように 外装のセルロイドとインク室が別パーツとなっているところ。
外装のセルロイドの内側にはクリア樹脂の筒(インク室)があり、セルロイドが収縮したとしても内部に影響が及ばないようになっているのです。
そのため、このように胴軸と首軸の間に隙間が生じてもそこからインクが漏れ出すということはありません。
トリムには、私が大好きな素材であるシルバー925が贅沢に使われています。
クリップ、キャップリング、天冠、尻軸リング、首軸。
私が好む万年筆の傾向として、シルバー925(スターリングシルバー)がトリムに使われているかどうかがあります。もはや万年筆を選ぶ基準の一つと言っていいでしょう。
トリムに使われるシルバー925は 経年の利用や保管で硫化が起こり必ず黒ずんできますが、定期的に磨いてメンテナンスすることが楽しみの一つとなっています。
キャップリングのシルバー925。
これが面白い形をしていて、前面と背面の3面分は丸面加工で刻印が刻まれ、他の面にはグレカパターンが刻まれています。
刻印は「OMAS」「THE PARAGON ITALY」。
未使用保管品のためすでに硫化が進んでいますが、これはこれで渋いためこのままで良いかと。
首軸のシルバー925にはイタリアのホールマークが小さく打たれており、所有満足感を満たしてくれます。
ホールマークは「925」と、オマスの識別刻印である「☆ 144 BO」。
こういったホールマークが出てくる度に書いているのですが、オマスの銀製品は「BO=ボローニャ」の検査所で144番目に認可されたということになります。
最高の素材はペン先においてもふんだんに使われており、ペン先は18金、ペン芯はエボナイト。
オマスの万年筆の素晴らしいタッチ、書き心地については以下の項で触れていくのですが、昨今は万年筆もコスト削減の流れで一部の老舗万年筆メーカー以外はペン芯にエボナイトを使わなくなりました。
エボナイトという素材はインクとの親和性が高く、その万年筆のインクフローに大きく関わってくる重要なパーツ。
オマスのペン芯はこのように平たい形状となっており、これは筆記時にニブの柔らかさを指先へと伝えるのに最適な厚みなのだと理解しています。ペン芯が厚いほど強度が出る反面、書き心地は硬くなるように感じます。
そして最後は、素材と言うより万年筆を120%愉しむための機構である「ピストン式吸入機構」を搭載しているということ。これはこのクラスの万年筆には欠かせません。
尻軸を軸に向かって反時計回りに回しピストンを下げ、時計回りに回してインク瓶からインクを吸入する。この書く前の儀式が万年筆を使う醍醐味とも言えます。
インクの吸入量も約1.9ccと十分。
インク窓はないため筆記中のインク残量は確認できません。そこだけ惜しい部分といえばそうなるでしょうか。
大きなボディにインクをたっぷりと吸わせ、ぬらぬらと筆記を愉しむ。
万年筆はこうでなくてはなりません!
首軸が金属素材の万年筆を選ぶわけ
前書きにて、このアルテイタリアーナ パラゴンは「金属の首軸が購入の決め手」と書きました。
首軸の素材が大好きなシルバー925であること以外に、私が感じる金属製首軸のメリットについて書いていこうと思います。
個人的に金属製首軸の万年筆の使用頻度が上がっていて、一度ハマると抜け出せない書き心地と言いますか、金ペン先との相性が凄く良いように感じています。
金属製首軸の万年筆と言っても、それほど数があるわけでは無く ほとんどの万年筆が樹脂製の首軸を備えています。
樹脂製首軸のメリットはその軽さであったり、しっとりとした握り心地となるわけですが、そでれは金属製首軸のメリットとは一体何なのか。
それはひとえに「低重心による安定した筆記感」にあると感じています。
首軸の重さに任せてペン先を走らせる感覚を覚えると、これがまた至高の書き心地に変わる。
金ペン先のタッチの柔らかさ+万年筆の自重により、ただでさえ筆圧をあまり必要としない万年筆の書き心地の良さを、さらに引き出しているように感じるのです。
それが、この金属製首軸とセルロイドの胴軸という素材の組み合わせであり、「物理的な重心」は胴軸の中心位置にありながら、太めの軸径と素材により握ったときの重量感が自然とペン先へ傾くように設計されている。
言わば「筆記時に重心が感覚的にペン先へ移動する」という感覚が味わえる万年筆。
書き心地が良いと感じるということは、自分本来の文字が書けるということ。
書いていて気持ちが良いと感じる筆記感。これこそ万年筆を使う意味であり、書く喜びではないかと考えます。
「ペンは書く喜びを与えてくれるものでなければならない」と、オマス創業者のアルマンド・シモーニが好んで繰り返したと言われています。その思想がこのアルテイタリアーナのパラゴンにはしっかりと受け継がれているように感じてなりません。
▲左から、モンテグラッパ ミクラ、アウロラ マーレティレニア、ファーバーカステル クラシックエボニー、オマス アルテイタリアーナ パラゴン
金属製首軸の書きやすさに気付かせてくれたのは、去年ジャンクで入手して修復したアウロラのマーレティレニア。オマスのパラゴンより小型の万年筆ですが、書き心地が似ているように思います。
この4本を並べた理由は、同じ金属製の首軸を持つ万年筆のため。
サイズはそれぞれですが、書きやすかったミクラやクラシックコレクションも金属製首軸だということを改めて思い出しました。
金属製首軸の万年筆に興味が出た方は、ぜひこの万年筆達をご参考に。
書き心地は全てが一緒ではないですが、きっと金ペン先と金属製首軸のコラボレーションを感じることができるでしょう。
オマスのペン先と書き心地
最後はオマスのペン先とその書き心地について。
個人的に非常に書きやすく感じ、フィーリングが合うオマスのペン先。
前項で書いたシルバー925の首軸とグリップ位置の軸径、そこにタッチが柔らかな18金のペン先が乗ってくるのですから 書き味がまずいわけはありません。
字幅はF(細字)ですが、海外製万年筆によくあるFだけど国産のM(中字)並みに太い、ということはなく、字幅通りの線を出してくれる、信頼のペン先。
ニブは18金。オマスというと矢が刻印されたニブを想像しますが、こちらは洗練された斜めストライプ模様が入ったバイカラーのデザイン。
刻印は「OMAS 18K 750」。
首軸は丸形の持ち手に対して、端には12角形の飾りがついています。
ペン芯の素材はエボナイト。
オマスと言えばこのペン芯の形ですね。エボナイト素材のペン芯はしっかりとインクを蓄え、書き始めから書き終わりまで擦れることはありません。
ニブのサイズをモンブランのマイスターシュテュックシリーズと並べてみると、#149と#146の間くらいのニブサイズだということが分かります。
左から、#144、#146、#149、共にモンブラン。そして、一番左がオマスのパラゴン。
インクフローは潤沢で、書き続けてもいつまでも快適な筆記感。
フロントヘビーの恩恵は万年筆の自重で書くため指が疲れにくいこと。普段から樹脂軸で軽めの万年筆を使っていると最初は重さに違和感を感じるかも知れませんが、慣れるとここまで書きやすくなるのかと感動します。
ペンポイントを拡大しました。
紙面への柔らかなタッチに加えしなりのある書き心地。それがシルバー925の首軸に乗ってリズミカルに紙面を走ります。
見れば見るほど美しいペン先。
両面はこのようになっています。
このペン先は、かの久保工業所の調整という情報もありますが、幾分旧モデルのため詳細は不明。
二ブを正面から見ると美しいアーチを描いています。
どことなくデルタのドルチェビータ万年筆のニブの形にも似ているような気がしますね。
走り書きもじっくり書く文字も、指先の繊細な動きにも反応してくれるように思います。
細字で弾力があるため「とめ・はね・はらい」もし易く、日本語向きとも言えるペン先。
入れているインクはセットとして付属していたオマスのブラック。インク瓶も12角形でお洒落。
試し書きでモンブランのパーマネントグレーを入れてみたのですが、書き始めにインクがスキップする事が多く、相性が悪いように感じました。
オマス純正のブラックを入れたところ、そのような事はなく快適そのもの。
やはり万年筆と同じメーカーのインクを使うのが一番良いのでしょうか?ブラックを使い切ったら色々なメーカーのインクも色々試してみようと思います。
旧型のアルテイタリアーナ パラゴンは、45g以上の重量級万年筆で胴軸部分だけでも34gあるため、キャップを尻軸にポストして書くことはないのですが、もちろん嵌めて書くことも可能。
その場合は、全長約180mmに届く勢いの威風堂々たる出で立ちとなります。
モンテグラッパのミクラと並べるとこの体格差。
いや-、万年筆の多様性は本当に面白い。これでどちらも書きやすいのですから不思議です。
さて、今回は記念すべき2025年一発目の記事。
私の忘年筆であり新年筆であるオマスのアルテイタリアーナ ワイルド パラゴンの2010年モデルをレポートしてきました。
正直 書いてみるまでは、モンブランのマイスターシュテュック#149クラスの万年筆は自分には大きすぎるかな、とも思っていましたが、アルテイタリアーナのパラゴンが これほどのオーバーサイズながら自分好みの書き味を提供してくれる万年筆だったとは…嬉しい誤算でした。
最高の素材に、時代を超越したエレガントなデザイン、そしてリズミカルにペン先を運べる書き心地。
2016年に一度廃業したオマスをなんとか再建したいという、コレクター達が熱心になる理由がよく分かる傑作だと思います。
2023年9月に復活した新生オマスは2年目を迎え、万年筆調整師のTAKU氏とのコラボ万年筆を限定発売したりと、日本との絡みもあり今後もその動きから目が離せません。
オマスを持つ(味わう)のであれば、まずはフラッグシップであるアルテイタリアーナ パラゴンをお勧めします。
そして、個人的にも今年はイタリア軸に再注目する一年になりそうな予感。
とても長い記事になりましたが、今年も読者の皆さんが素晴らしい筆記具に出逢えますよう。
今回はこの辺で。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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