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「カヴェコ スペシャル」というヴィンテージペンシルの魅力【Kaweco Special 69K と Special 109】

2024年10月23日

筆記具に夢中になっていると定期的にやってくるカヴェコ熱。
今年度も変わらずカヴェコに注目していきたいと思います。
 
しかしながら、私が書く記事はカヴェコはカヴェコでも廃番品が多いなーと、改めて読み返して思うのです。なぜだか、最近巷で人気のスペシャルの限定色やスポーツの新色(真珠色)にはめっきりと食指が動かないんですよね…。
 
地味な色が好きだからでしょうか…笑
 
ということで、今回も例に漏れず廃番品のレポートです。
 
廃番品と言うにはかなり過去のものになり、ここまでくるとヴィンテージと呼ぶに相応しい。
使っているユーザーも多い、「カヴェコ スペシャル ペンシル」の原点とも言うべき筆記具です。
 
「Kaweco Special 69K」と「Kaweco Special 109」
 

 
共に1.18mm芯を利用する1930年代の繰り出し式ペンシルで、言わずと知れたドイツ製。
1930年代という風にサクッと書くと目立ちませんが、この記事を書いている現在が2022年ですので 実に92年前の筆記具ということになりますね。
 
日本の元号では昭和の初期(昭和5年~昭和14年)ですので、いかに古いペンシルかということが分かります。
それでも2022年の今、現役で使える状態にあるということは それほどシンプルな構造かつ経年劣化しないベーシックな素材が使われているということでしょう。
 
92年前のスペシャルから現行のスペシャルへと引き継がれている(復刻されている)事が分かるデザインも随所に見られ、非常に楽しめるヴィンテージカヴェコ。
性能は同じため、今回は豪華に2本同時にレポートしていきましょう!
 

 

 

 

カヴェコ スペシャル 69Kと109のスペックとデザイン

今回見ていくのは八角軸の「Special 69K」と丸軸の「Special 109」。
 

 
黒い樹脂製の軽いペンシルから感じる道具としての威厳。
余計な物が無いシンプルな佇まいは、書くために作られた工業製品としての美しさがあります。
 

 
Special 69K:全長127mm、重量11g、軸径9mm
Special 109:全長134mm、重量14g、軸径10mm
 
このシリーズはサイズのバリエーションが多く、69から68~67とナンバーが小さくなるにつれてショートになり、逆に最大のサイズは70となっています。
 
69の後の「K」はクリップ付きを表していて、他には「/1、/2」などのスラッシュの後に数字が付くものもあり、それは胴軸やペン先パーツのカラーを表しています。
 

 
▲ゴールドの刻印とともに光沢のある黒樹脂と非常に相性が良いゴールドのクリップ
 
11gというスペックだけ見るとものすごく軽いように思えますが、実はクリップの重みが良いアクセントになっており、軽いんだけど軽すぎず。クリップの重みをしっかりと感じることができます。
重さについては良い塩梅のペンシルとなっているのではないでしょうか。
 

 
トップには刻みの入った、芯の繰り出し操作を行うためのノブ。
69Kにおいては、軸よりも太いこの操作ノブがポイントで、デザイン的にお洒落(というか可愛い)であるとともに操作性の良さも兼ね合わせていると言えます。
 

 
胴軸の刻印は「Kaweco Special 69K」。
しっかりと刻印が入っていてゴールドに塗装された文字。
 
現在は印刷技術が発達しているので、こういった胴軸への文字入れはペイントが多いですが 流石に92年前となると1本1本を手作業で印を入れて塗装し、検品していたものと思われます。
 
今はなき胴軸のカヴェコマークも入っていますね。
 

 
そして、こちらは「Special 109」。
丸軸且つ、軸径も69Kより1mm太いどっしりとした印象の109。(重さ14gのためズッシリはしてないですが…)
 
こちらも109、108…と数字が小さくなるにつれて軸は短くなります。
 

 
トップのノブは円錐形で大きめ、クリップの形状も69Kとは大きく異なりヨーロッパの伝統的な筆記具でもよく見かける湾曲したクリップです。
 
胴軸にはシングルのリング。
109の上位モデル?(もしくは109の前身モデル)に「Kaweco Original」がありますが、そちらのリングはダブルリングとなっています。
 

 
「Kaweco Special」の胴軸反対側には「109」の刻印。
フォントがクラシックで可愛い。
 

 
クリップにも「Kaweco」ロゴ。
旧ロゴは八角形の中に円がありKawecoの文字となっています。手彫りで刻印したであろうと思われる味のあるデザインのロゴ。
 
トップの芯繰り出しノブにあるギザがデザイン的アクセントに。
繰り出し動作で回転するのはこのギザより上の部分のみで、根元から回転するわけではありません。
 
69Kと109のクリップを比較してみましょう。
 

 
横から見てもまるで違うクリップ。
 
69Kのクリップ先はティアドロップ型。
109に比べてクリップを形成する金属は薄く見えますが挟み込む力は申し分なし。
 
現行のスペシャル用オプションのクリップは109(Kaweco Originalも同様)の湾曲クリップが基デザインとなっている事が分かります。
 

 
個人的なお気に入りは、109のトップの形状とカヴェコマーク。
横から見ても格好いいですが、正面(上)から見ても格好いい。
 
ロゴの文字デザインは現行と同じですが、クラシックなカヴェコロゴは八角形。
カヴェコロゴを見ると学ランのボタンを思い出してしまうのは私だけではないはず…笑
 

 
正面から見たクリップの比較です。
ティアドロップ型と剣先型という真逆のデザイン。
 
109はカヴェコロゴに尖ったトップの形状+ロゴという情報量の多さ、69Kは現行に通じる丸くシンプルなデザインがスペシャルらしい。
 

 

戦前カヴェコと近代カヴェコの比較

続いて戦前のカヴェコと昨今のモデルを比較していきます。
 
1883年のカヴェコ創業から約50年後に発売された純然たるカヴェコ スペシャル。
1976年にオリジナルカヴェコが終わり、1995年以降はグットバレット社による復刻カヴェコとなっています。
 
言わば、オリジナルカヴェコと復刻カヴェコの比較。
 

▲左から、カヴェコ BP(正式モデル名不明)、カヴェコスペシャルS(BP)、69K、109、スポーツ ルックス(MP)
 
オリジナル:BP、69K、109
復刻:スペシャルS(BP)、スポーツ ルックス(MP)
 
となります。
 
相変わらず一番左のボールペンのみ謎ですが、スペシャルやスポーツ ルックスはそれぞれトップにヴィンテージの面影が。
 

 
カヴェコスペシャルの特徴とも言うべきノックボタン。
69Kは回転繰り出し式ですが、現行のカヴェコは操作性を考えノック式となっています。
※画像はボールペンのためノックボタンのせり出しが多め
 

 
カヴェコスポーツ ルックスのトップは109にとてもよく似ています。
クリップの刻印は「Kawecoロゴ」から「Kaweco刻印」へ。
 
ルックスのメカニカルペンシルも伝統的な1.18mm芯を踏襲している且つ、トップを回すことによる回転繰り出し式となっています。(ルックスのペンシルは逆回転で芯が収納されます)
 

 
トップのロゴを並べてみました。
左から、スポーツ ルックス、109、スペシャルS。
 
カヴェコと言えばコレですよね。
ああ…、しかしどう見ても学ランのボタンに見えてしまう…!
 
前項で書いたとおりヴィンテージは八角形のロゴで、良い感じに92年間存在してきたことによる「味」が出ています。
 

 
胴軸のロゴを並べてみました。
名も無きボールペンのロゴのフォントが角張っていて他と違う感じですが、一番古いのでしょうか?(情報求む)
スポーツ ルックスの太く彫り込まれた刻印も格好良い。
 
時代を超えて愛されるカヴェコの筆記具。
 
道具としての使いやすさ、シンプルで美しいフォルムは ユーザーが道具を「使っていることを意識させない」手指との一体感があると同時に、「使いたい(使いたくなる)」欲求を満たす要因となっているように感じます。
 

 

芯の繰り出し方法・収納方法

現在における「回転繰り出し式」のペンシルはだいたいの物が、トップを回転させ芯を出し入れする仕様なのに対して、ヴィンテージのカヴェコは少し違う操作感となっています。
 

 
トップに配置する丸いノブは「芯を繰り出す」ためのもの。
現在の繰り出し機構と違う点はここにあり、ノブを反対方向に捻っても芯は軸内に戻っていかないこと。
 
つまりは、ノブを逆に回したら机か指先で芯を胴軸内に押し戻す必要があります。
 
仕組みを見てみましょう。
 

 
書き終えた後の69Kのペン先を外してみました。
そこに芯の姿は無く、針金が一本あるのみ。
 

 
芯が通る穴は金属で補強され、軸からの衝撃や曲がりから芯を守ります。
 

 
ペン先の金属には2本のスリット。
ペン先にスリットを入れ弾力を持たせることで、筆記時に芯が折れる心配を無くしていると考えます。
 

 
トップのノブを回転・逆回転させることで胴軸内の針金は前後に動き、軸内の芯を押し出す仕組み。
しかしながら、芯はこの針金に連結しているわけでは無いため戻りの動きには連動せず、ペン先から出た芯はそのまま収納されずに止まるという事です。
 

 
そのため、あまり長い芯は装填できず、芯の長さは35mmほど(約首軸分くらいの長さ)が限度となります。
 

 
少し写真が分かりにくいですが、胴軸側には予備芯をストックしておくための穴が開いており、同じく35mmほどの長さの芯を収納しておけます。実にシンプルな造り。
 
回転繰り出し・収納のペンシルに慣れていると少し戸惑うかも知れないヴィンテージカヴェコの芯の繰り出し。
当時は画期的だったであろう書き続けるために必要な機能。
 
今となっては芯を戻すという手間を、このペンシルを使う上での「作法」として楽しむ大らかさが必要と言えるでしょう。
 

 

使いたくなる1.18mm芯という字幅

カヴェコに限らず、モンブランのPixやパーカーのデュオフォールド、その他名だたるペンシルはほぼ1.18mmの芯を使用します。
 

 
現在のように芯を限りなく細く形成する技術がまだ無かったということもあるでしょう。
そう考えると0.3mmは恐ろしいくらい細い(オレンズの0.2mmとかもありますが…一般的に。)ですね。
 
昔と比べ芯の素材(配合)が変わったように、芯が折れない仕組みというのも相当な技術革新があったに違いありません。
 
技術の進歩というのは、発見と発明の繰り返しで予想だにできない方向に進んでいくもの。
この先筆記具はどうなっていくのでしょう。
 
 
さて、話がそれましたが、幼少期から細字になれた現代人にとって「1.18mm」芯は必ずしも書きやすい字幅ではなかったりもします。
 
私も最初は1.18mmという芯が生み出す字幅に抵抗がありました。
 
しかし使っていくほどに1.18mmの利点と言いますか、細字とはまた違った使い勝手に虜になってしまったのです。
自分の筆記具遍歴を遡ると、太めの芯はファーバーカステルのエモーション(1.4mm)がスタートだったのかも知れません。
 
芯研ぎで磨げば細くなり、また、ペンシルの倒し具合いによって芯の腹や頭を使い分け、自在に字幅をコントロールできるようになる。
 

▲指先の繊細な動きにも反応する細くて軽いスペシャルの軸。
 
また、ヴィンテージカヴェコの軸の「軽さ」はそうした芯の濃淡を表現する、ペン先のコントロールに適していると言えなくもないです。
 
とめ・はね・はらいを使い分ける日本語を書く時も、そして絵を描く時も、1.18mm芯ならではの使い勝手や表現技法が可能になると言えます。
 

 
69Kと109で性能は同じですが、軸の太さ・軸の形から使い勝手という点は異なる2本。
私は文字書きは69K、絵を描く時は109を使用することが多いです。
 
発売当時のユーザーはどのようにこの多様な軸があるカヴェコ スペシャルを使っていたのでしょうか。
そんなことを考えながら、時を超えて使うヴィンテージ カヴェコ ペンシル。
 

 
カヴェコ好きの方には、機会があれば是非一度手に取ってみてほしいと思うペンシルです。
92年前に想いを馳せながら…。
 
それでは今回はこの辺で。
最後までお読み頂きありがとうございました。

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