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首軸破損したアウロラ限定モデルの修繕と、ペン先組み替えによるリペア【アウロラ マーレ ティレニア 万年筆】

2024年9月25日

皆さんこんばんは。
今回はリペア記事となります。
 
つい最近、某オークションに転がっていたジャンク品のアウロラの限定モデル。
私が所有しているアウロラ軸は、オプティマ(旧モデル)グリーンの万年筆、プリマベーラのローラーボール、オプティマのブルーの油性ボールペン。
 
オプティマというとイタリア軸としては有名で、中でも「オプティマ」は14金ペン先搭載でピストン吸入機構、美しいマーブルレジン(アウロロイド)の軸という3拍子揃った魅力的な軸です。
 
アウロラの万年筆は軸からペン先に至るまで全ての部品を自社で製造しており、軸に使われるマーブルレジンも職人が一つ一つレジンブロックから削り出し、美しく磨かれて仕上げられます。
 
フラッグシップモデルであるオプティマや88(オタントット)から派生した特別生産品には、トリムにスターリングシルバーが使われるものもあり、質感からも「イタリア軸」を感じることができるのです。
 
しかし、その美しさから価格は高価となり、なかなか手が出せるものではありません。
 

 
そんなところ、ふと覗いた某オークションに転がっていた限定モデル「マーレ ティレニア」は、鮮やかなグリーンマーブルを基調とし、クリップ以外のトリムにはスターリングシルバー、ペン先には18金のニブが装着された特別生産品。
 
アウロラの特別生産品マーレシリーズは「イタリアの海」をモチーフとして造られており、グリーンを基調とした「ティレニア」の他に、ブルーマーブルの「リグリア」、ライトブルーマーブルの「アドリア」、オレンジマーブルの「イオニア」がラインナップされています。
 

 
オークションで約1万円程で落札したマーレ ティレニアの状態は、首軸が折れていてペン先が無いという、万年筆としての機能を失ったジャンク品でした。
 
オークションの場合、製品の状態判断は画像のみ(質問もできますが、専門的な質問に答えてもらえる確立は低い)のため、いかに限定モデルといえど慎重になります。
 
軸の外観はSV925部分に小傷はあるものの許容範囲で美品と判断。
アウロラ万年筆の売りの一つであるピストン吸入機構については言及されておらず、見た目にも問題無さそう…、首軸の折れはインク窓との境でポッキリ折れていて、見えているはずの黒い筒状の部品がボロボロ。
 
それに加えペン先が無いという状態でした。
 
美しい軸が目当てで、手元にあるプリマベーラのローラーボールと軸色が似ていること、プリマベーラとのキャップの互換性の調査にもなるか、という考えでとりあえずある程度の金額を入れて放置。
 
全く期待していなかったが気付いたら落札していたという嬉しい状況でした。
 

 

数日して手元に届いたマーレ ティレニアは予想通り美軸で、マーブルレジンも艶やかかつ、シルバー925のトリムはズシリと程良い手応え。
 

 
早速、プリマベーラのローラーボールと並べてみると、やはり軸の色は同じっぽいということが分かります。
ううむ…、グリーンマーブル×ゴールドトリムは鉄板の美しさですが、グリーンマーブル×シルバーもなかなかに爽やかで良い!
 

 
プリマベーラにマーレ ティレニアのキャップを嵌めてみると、見事ピッタリと収まりました。
これはこれで満足で、まあ胴軸がダメでもキャップだけ使ったら良いかなという感じです。
 

 
しかし、できることならこの美しく装飾された胴軸や尻軸も入れ替えたい…。
尻軸と胴軸の長さは同じですが、ボタニカル柄のシルバーリングは胴軸側の部品。それより先が尻栓部分となります。
 
尻栓だけの入れ替えは構造的にも難しそう…。
 
胴軸の部品は万年筆とローラーボールでは似ているものの、私のような素人が交換できるような互換性は無さそうです。
 

 
シルバー925製の首軸は入れ替え可能かと並べてみましたが、交換ができそうな部分のパーツの長さが違うためこれも難しいことが分かります。
(仮にプリマベーラの黒い首軸と入れ替えられたとしても、ペン先部分が長くなるためキャップ内に収まらない可能性が想像できます)
 
ということで、プリマベーラ ローラーボールのマーレ ティレニア化は断念。
 
そうなると、次に考える事として「万年筆としての復活」ができないかどうかということ。
そう、手元には限定モデル派生元のオプティマがあるではないか…!
 

 
尻軸のピストン吸入機構を動かしてみたところ、とてもスムーズに動作していて、これは問題無さそうと判断。しかも首軸がないお陰で、胴軸内を綿棒とかで掃除したり、ピストンの先端の観察ができるので好都合です。
 
オプティマ系の万年筆には「リザーブタンク付ピストン吸入方式」が採用されており、ピストンの先端のゴムの部分が小型の「リザーブタンク」を兼ねているという構造。
 

 
このリザーブタンクのお陰で、軸内のインクを使い切った後も、ピストンの先端を降ろすことでペン先にリザーブタンク内のインクを供給することができるのです。
 
リザーブタンクが付いているとは言え、オプティマのインク吸入方法は他のピストン吸入式の万年筆と同様で、インク瓶に浸けたペン先からインクを吸い上げます。
 
ただ、オプティマの場合は構造上の違いにより 最初にピストン先端のリザーブタンクがインクで満たされ、次いで胴軸内のインク室にインクが入るようになっています。
 
この構造の恩恵を受けたという方がどれだけいるのかは定かではありませんが、現代の万年筆の使い方が「インク色を代えつつ楽しむ万年筆」ですので、この構造を疎ましく思っている方が多いのも確か。
 

 
その証拠に見て下さい、この首軸内の黒い樹脂パーツの状態を。
 

 

こうなっている原因は2つ考えられ、考察は次のようになります。
 
①ペンチでペン先ユニットのソケットを外そうとしたが、逆に回してボロボロになった説
これは、ペン先を外そうとしたが真っ直ぐ引き抜いてしまったため、ペン芯とニブは抜けたがソケットだけが首軸内に残ってしまった。という状況が予想できます。
首軸内に残ったソケットを外そうとしたが、ペンチで回す方向を間違えて力任せにやっているうちにパーツがボロボロになった。というところでしょうか。
 
②リザーブタンクに苛ついたオーナーがやっちまった説
リザーブタンクのデメリットが「インク洗浄に時間がかかる」です。
胴軸内のインクが出ても、ピストン先端のリザーブタンク内にインクが残るため、数回の洗浄ではスッキリとインクが出切らないのがオプティマ系万年筆のじれったい所でもあります。
 
この状況に発狂した前オーナーが怒りのあまり首軸をへし折り、中にあったピストン先端のリザーブタンクにアクセスするノズルを心の趣くままにめちゃくちゃにした、という説も捨てきれません。
 
まあ、私は完全に①ではないかと思うのですが、②のオーナーの気持ちも分からなくもないです。
 

 
左が今回のマーレ ティレニア、右がオプティマのインク窓です。
 
オプティマのインク窓にはまだ水とインクが残っていますが、ピストン先端のリザーブタンクにアクセスする用のノズルがペン先側から伸びていることが分かります。
 
この黒い棒のようなノズルが、左のマーレ ティレニアの場合、見る影もありません。
 
ということで、このジャンク品の首軸は「ペン先ユニットのソケット部分だけが残っており、ペン芯とニブがない」という状態だということが分かりました。
 
アウロラにおいてペン先を外すならユニットごと、が鉄則ですが、どういうわけかソケットのみ首軸内に取り残されているという状態。
 
つまりは、このソケットを取り除けば 他のペン先ユニットが装着できるということになります。
 
そうと決まればこのボロボロのソケットとはおさらばです。
 

 
シルバー925の首軸を傷つけないように、ペンチの先にセロハンテープを巻いて捻ります。
通常はペン先側を反時計回りに捻ってソケットを外すのですが、それを反対側からやっていますのでこの状態では時計回りにペンチを回します。
 

 
無事にソケットパーツが外れました。
アウロラのペン先はペリカンやカヴェコと同じく「ペン先ユニット」として首軸に収まっていますので、ペン先をしっかりと固定して反時計回りに回せば、そこまで力を加えることなくペン先ユニットを取り外すことができます。
 
ただ、通常ペン先ユニットをユーザー側で代えることは想定されていませんので、もちろん壊したら保証対象外となり注意が必要。
私もこのジャンク品が手元になかったら、ペン先の移植は考えなかったことでしょう。
 

 
ソケットを抜いた状態の首軸。
本来こちら側から首軸を見ることはないのですが、首軸内に続くクリアのアクリル素材(インク窓)が割れているのと、ソケット用のネジ切りがあることが覗えます。
 

 
手元のオプティマは旧モデルですので、ペン先ユニットに互換性があるかは事前に確認する必要があります。
分割線が見える内側がペン先ユニット、外側が首軸となります。
ペン先ユニットの幅もマーレ ティレニアと同じで互換性がありそうです。
 

 
手元にある旧オプティマ グリーンのペン先ユニットを取り外しました。
アウロラのペン芯にはニブを固定する用の溝のようなものが無いらしく、ペン先を捻ってユニットを外す際はニブとペン芯がズレないように慎重に行わなければなりません。
 

 
試しにマーレ ティレニアの首軸にペン先ユニットを装着してみました。
ちゃんと嵌まって一安心。
 
アウロラのペン先ユニットにはOリングが配置されているので、ねじ込む際は少し手応えがありますが、しっかりとペン先を固定してゆっくり回していけば大丈夫。
 

 
首軸とペン先ユニットの先端がピタリと合っていれば装着完了です。
首軸の胴軸側を見てもちゃんとペン先ユニットが固定されており、問題ないことを確認。
 
そうと決まれば、あとは首軸と胴軸を接着するのみ!
 

 
首軸内のアクリルと胴軸のアクリルインク窓がピタリと合う位置を、マスキングテープで印しておきます。
これが少しでもズレているとインク漏れの原因にもなりかねませんので、特に慎重に慎重に…。
 
また、接着には強力な瞬間接着剤を使いますので、この作業に2度目はなく失敗は許されません。
接着部分はペン先ユニットが通るネジ切りに近接していますので、念には念を入れ、ネジ切りの部分には「ワセリン」を塗布し、ネジ切りへの接着剤の侵入を防ぎます。
 

 
写真のような塗布イメージとなります。
 

 
接着剤の分量に気をつけながら慎重に貼り合わせ、無事に接着作業完了!
 

 

使った接着剤はセリアにある「セメダイン3000ゴールド瞬間接着剤〈耐衝撃〉」。
様々な種類の接着剤があるなか、「耐衝撃」に惹かれて購入。
 

 
念のため約半日置いてからマステを剥がしました。
首軸と胴軸はしっかりと吸着されており、出来は上々。
後ほどペン先ユニットを嵌めてからインクを通してみて、インク漏れがなければ晴れて成功となります。
 

 
改めてオプティマの14金ペン先を装着。
もともとマーレ ティレニアは18金のロジウムペン先が搭載されたモデルですので、見た目と性能は変わりましたがこの軸を万年筆として復活できたことに感無量です。
 

 
うーむ、美しい。
ジャンク品と言えど軸が綺麗で何よりでした。
シルバー925の重みと、クロームメッキにはない暖かな色合い。
キャップ天冠のアウロラロゴも良い塩梅。
 

 
早速インクを吸入して、一日待ってみます。
インク漏れが無ければ修繕成功と言えるでしょう。
 

 
インク漏れは無いようですので文字を書いてみましょう。
どっしりとしたペンの自重が助けとなり力を抜いてペン先を走らせることができます。
 
オプティマで使っていた14金ペン先。書き味はサリサリと硬めで紙へのタッチは柔らかい、これぞアウロラの書き味!
 

 
通常のオプティマの首軸は樹脂製ですので、金属製のマーレシリーズとは筆記感が異なります。
マーレシリーズは否応なくフロントヘビーとなります。
重さは人によって好みが分かれそうですが、シルバー925の首軸を握って文字を書くのはたまりませんな。
 

 
キャップを尻軸にポストしても筆記バランスは崩れません。
というより、ポストした方が筆記時の重量は増すものの、キャップと首軸のシルバー925でバランス自体は良くなる傾向です。
 

 

マーレ ティレニアが復活した所で、万年筆自体のスペックとデザインを見ていきたいと思います。
 

 
マーレ ティレニアは2012年に発売。
世界480本の特別生産品です。
 
全長(携帯時):130mm
全長(筆記時):125mm
重量:41g(キャップ:13g/胴軸:28g)
 
トリムはシルバー925、胴軸はモデルに合わせたカラーのマーブルレジン。
 

 
キャップリングにはカプリ島にある奇石群のファラリオー二と月(太陽?)のモチーフ。
反対側にはベスピオス火山のレリーフが施されています。
 

 
キャップリングの正面には「AURORA MADE IN ITALY」。
イタリアメーカーの限定軸はデルタと言いアウロラと言い、こうしたロゴやモチーフを軸に刻むのが好きですね。
 

 
メーカーロゴの反対側にはシリアルナンバー。
手元の個体は47/480本となります。
 

 
天冠には「ヌラーゲ」という3000年前のモニュメントのレリーフ。
クリップの反対側にはスターリングシルバーを表す「925」の刻印と、アウロラのホールマークである「☆5 TO」(トリノ)の刻印。
 

 
天面にはアウロラのメーカーロゴが刻印されています。
この丸い三角のロゴがこの類いのモデルの堪らないポイントではないでしょうか。
 

 
クリップはオプティマや88と同じ「ジュエリークリップ」。
このクリップは裏側に「METAL」の刻印がありますので、シルバー925では無さそうです。
 

 
尻軸はオプティマの黒い樹脂パーツとは打って変わって、マーブルレジン×シルバー925の装飾で豪華に。
イタリアの先住民エトルリアの花瓶のパターンだそうです。
 
これはインク吸入のモチベーションが爆上がりですね。
 

 
アウロラのペン芯はエボナイトが採用されているところもポイント。
インクとの親和性が良く、万年筆の命ともされるペン先にコストを惜しまないところは素晴らしい。
ペン先が自社製造だからできる芸当なのかも知れません。
 
ペン芯には字幅表記があり、このペン先は「F(細字)」となっています。
 

 
アウロラは本当にニブの形が美しい。
楕円を半分に切ったような、ペンポイント側に向かうにつれてニブ側面の壁が開いていく特徴的な形状。
アウロラのペン先はアイデンティティーに溢れています。
 

 

さて、今回はジャンク品修繕の記事となりました。
ペン先はオリジナルとは違いますが、軸折れで安く入手したものをまた使えるようにするのは楽しいものです。
 

 
アウロラの美しい軸を手に取り、キャップを外す瞬間の気分の高揚。
 
今は14金のペン先での筆記を愉しみ、いつかアウロラのロジウムの18金ペン先を手に入れたらこのマーレ ティレニアに戻したいと思います。
 
それでは今回はこの辺で。
最後までお読み頂きありがとうございました。

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