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蘇る現代のオノト万年筆「オノト ヘリテイジ SV925 オーバーレイ ヘンリー・シンポール」レビュー

2024年9月25日

皆さんこんばんは。
 
少し前に、珍しいオノトのペンを入手しましたので、記録の意味も含めて書いていきたいと思います。
 
オノトというメーカーは、筆記具、特に万年筆を色々と触り初めて数年経った後に知ったメーカー。
日本では、かの文豪 夏目漱石が使っていたとか。
 
東京にいるイングランド好きなX(旧Twitter)のフォロワーさんが使っておられて、当時は何やらマニアックなペンもあるものだと気に留める程度でした。
 
しばらく色々な万年筆を調べていくうちに、パイロットのプランジャーフィラーの万年筆(カスタム823)のインク吸入方法に酷く衝撃を受け、逆引きでオノトの「オノトプランジャー式」万年筆に行き着いた、という経緯です。
 
某オークションにはたまに出品されている「トーマス・デ・ラ・ルー社」のオノト万年筆。
私も数本保有していますが、小さなペン先からは想像もできないような 柔らかな書き味が魅力の万年筆です。
 

 
今回レポートするオノトの万年筆は、デ・ラ・ルー社のオノト万年筆(1905年~1958年まで製造)ではなく、2005年に親設された「オノト・ペン・カンパニー・リミテッド」のオノト万年筆。
 
一度無くなったメーカーやペンのブランドがリニューアルされることはよくあるようで、馴染みのあるメーカーであれば、カヴェコやデルタがそうではないでしょうか。
もっとも、デ・ラ・ルー社が無くなっていたわけではなく、今回のケースはペンブランドであるオノトが復活したということになりますが…。
 
復活したオノトのペンは、創立100周年を祝う特別なモデルから、マグナといったお馴染みの名前の大型万年筆など。
決してリーズナブルなものではないですが、歴史を感じるラインナップとなっています。
 

 
そんな中、手元にあるのは伝統的なオノトプランジャー式を搭載した万年筆。
「オノト ヘリテイジ SV925 オーバーレイ(Onoto Heritage SV925 Overlay) by Henry Simpole」。
 
シンプルな中にオノトのデザインや携帯性、書き味が宿った一本。
ヘリテイジと名が付くだけあって、インク吸入機構やクリップの無いシルエットは、デ・ラ・ルーオノトのNo.2000やNo.3000を彷彿とさせます。
 

 

ヘリテイジ SV925 オーバーレイは、世界限定100本の万年筆。
発売開始は2011年で、2011年に30本が製造され、残り70本を2012年から製造・販売しています。
 

 
豪華な木製ボックスに収まり、付属のリーフレットには当万年筆のオーバーレイ装飾を行った銀細工師、ヘンリー・シンポール氏を紹介するものもあります。
 
イギリスの著名な銀細工師であるヘンリー・シンポール氏は、イギリスの老舗筆記具メーカーのコンウェイ・スチュワートのオーバーレ装飾でも有名なデザイナー。
 
2020年に他界されていますが、彼が残したコンウェイのオーバーレイ装飾の万年筆は今でもファンが多く、中古市場でも高値で取引されています。
(確か、ワランテッドの万年筆にもヘンリー・シンポール氏のオーバーレイのものがあったような…)
 

 
その美しいオーバーレイ装飾が施されたオノトのリミテッドモデル。
オーバーレイ装飾の部分はシルバー925です。
 
このキャップのみオーバーレイ装飾がある当モデルの他に、同軸部分にも装飾が施された500本限定のOnoto the Overlay No1」もあります。(そちらはカートリッジ/コンバーター両用式)
 

 
手彫りのオーバーレイ装飾はとても複雑なデザインで、植物をイメージした模様がつながって形成されています。フィリグリー細工と呼ばれるこの技法には、ヘンリー氏が仕組んだギミック(隠された文字)があります。
 
コンウェイ・スチュワートの万年筆でもそうですが、この「隠された文字」はヘンリー・シンポール作のトレードマークとも言われています。
 

 
さて、こちらのオノト万年筆に隠された文字、お分かりになりますでしょうか?
 
例えばコンウェイのオーバーレイであれば、コンウェイ・スチュワートの「C」と「S」そして創業年の「1905」が隠されているそうです。
 

 

正解は、このような「ONOTO」の文字となります。
 

 
ボタニカルなオーバーレイ装飾に隠されたオノトの文字、実に粋な計らいではないでしょうか。
 

 


 
イギリスの銀細工と言えば、以前の記事からもしばしば書いている「ホールマーク」が挙げられます。
こちらのオノト ヘリテイジにおいても例外ではなく、シルバー925であるオーバーレイ装飾部分の下にはイギリスのホールマーク。
 
「H.C.S」はメーカーズマーク、その隣にはSV925のスタンダードマークであるライオンパサントの刻印。
 

 
また、(925)、レオパードの顔、角が取れた四角枠に小文字の「n」から、2012年の製造であることが分かります。
写真右の(見難いですが)天秤マークに925はコモンコントロールマーク。
さらに右2つが何のマークなのかは特定できませんでしたが、一連のホールマークがずらりと並びます。
 

 
その裏側には「H70」のシリアルナンバー。
Hはおそらくモデル名であるヘリテイジ(Heritage)の頭文字でしょう。
製造ナンバーは70。
 
前述しましたが、2011年に30本の製造、2012年から残りの70本を製造していますので、2012年に入って1本目の製造ではないかと思われます。
(2011年の製造であれば、ホールマークのアルファベットは「m」になります)
 

 
天冠は刻印等がないプレーンなドーム型。
オーバーレイ装飾ということで、樹脂製のキャップに銀細工が被せてある構造ですが、銀細工部分はしっかりと固定されています。
 

 
胴軸に目をやると「ONOTO THE PEN」「MADE IN ENGLAND」の刻印。
こちらはおそらくレーザー刻印となります。
 
胴軸のこの位置にこの刻印。
まさにヘリテイジと呼ぶに相応しい仕様ではないでしょうか。ニヤニヤが止まりません。
 

 
手元にあるデ・ラ・ルー オノトの刻印(手前と奥)と比較してみると、「ONOTO THE PEN」の部分は文字間のスペースも含め完璧に再現されており、下部はデ・ラ・ルー社の刻印の代わりに「MADE IN ENGLAND」と、今風の刻印になっています。
 

 
ヘリテイジの元となったモデルとは違いますが、デ・ラ・ルーオノトの2本とサイズ比較。
左は「5601(おそらく)」、右はマグナをそのまま小さくしたようなモデルの「6234」。
 
どちらもクリップがあるモデルですが、オノト ヘリテイジはNo.3000のようなクリップの無いモデルが元となります。
 

 
ペン先も比較します。
左から、5601、ヘリテイジ、6234。
 
左が5601、よく見るデ・ラ・ルーオノトの14金ペン先ではないでしょうか。
ハート型のハート穴が可愛いですね。
 
右の6234は5号ペン先のため少し大きめサイズ。
バイカラーですが、シルバーカラーのコーティングがほぼ剥げてしまっています。
 
ヘリテイジのニブの「ONOTO」刻印は6234やマグナの刻印を再現しているものかと。
オノトのペン先は番号によってサイズの見分けが付き、3→5→7の順に大きくなります。
マグナ等の大型モデルとなると7号の大きなペン先が着きますが、これはモンブランやパイロットがそうであるのと同じでとても分かりやすく、ビジュアルで見分けられるのは良いことです。
 

 
ヘリテイジのペン先を拡大してみました。
 
レ・ラ・ルーの3号ペン先との一番の違いは、バイカラーであることと、18金であること。
刻印の表記もCT(カラット)というところがオノトらしい。
 
ニブの飾り帯の部分は「ONOTONOTONOTO」(オノトノトノト)!
これは少しチャーミングで笑えますね
 

 
字幅の表記はニブやペン芯にはありませんは、書いた漢字M~Fではないかと思われます。
あとでレポートしますが非常に柔らかいタッチで書くことができます。
 
ペン芯は(ピント合ってないですが…)デルタやファーバーカステルでもよく見る形ですね。
 

 
ペン先を正面から。
ニブの形はサイドの壁が切り立った現代風のニブ形状。
形はファーバーカステル(伯爵コレクション)のようでもあります。
 

 
このシルエットがまさにオノトといった出で立ち。
小さめなペン先にオノトプランジャー式を組み込んだ寸胴の胴軸。
 
たまりません…!
 

 


 
プランジャーフィラーは先に尻軸をいっぱいまで引き上げた状態でペン先をインクに浸け、引き上げた尻軸(ロッド)を戻し、内圧を抜く事で一気にインクを吸い上げる方式。
 
尻軸を捻って締め、インクを保持します。
ペン先に送る分のインクが切れたら、尻軸を少し緩めて胴軸内からインクを供給することで書き続けることができます。
 
オノト ヘリテイジにはデ・ラ・ルーオノトと同じでインク窓はないですが、出先で使うというよりは 家でゆっくり物書きするとき、傍らにインク瓶を置いて書けなくなったら入れる、くらいの心持ちで使うのが粋ではないでしょうか。
 

 
携帯時は23g、筆記時は14gと軽快に筆先を走らせることができます。
とてもバランスの良い筆記具で、小さなペン先がまたいい。
 

 
オノトの柔らかい18金ペン先、オノトプランジャー式によるインク吸入の儀式、ヘンリー・シンポール氏の美しいオーバーレイ装飾。
伝統を継承しながら、見事にモダナイズされた万年筆。
 
この万年筆は、所有すること、使うたびに喜びを感じます。
 

 
使う前にキャップを外す、使った後にゆっくりとキャップにペン先を収める。
一連の所作が美しい。
 
万年筆を使うということは慌ただしい日常において、優雅な時間の流れを取り戻すための特別な時間です。
 

 

さて、今回は2005年より「オノト・ペン・カンパニー・リミテッド」からの発売となったオノト万年筆。
「オノト ヘリテイジ SV925 オーバーレイ by Henry Simpole」をレポートしました。
 

 
限定モデルではあるものの、毎日使うペンとして携帯しています。
お気に入りの万年筆は使うことがメンテナンス。
 
再現されたデ・ラ・ルーオノトの書き味と、今は亡きヘンリー・シンポール氏の技術に想いを馳せて。
 
今回はこの辺で。
最後までお読み頂きありがとうございました。

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