夏に向けて手に入れたいマーブルレジン軸と言えばイタリア製!【マリーナ・グランデ ボールペンでデルタを振り返る】
毎年、夏が近づくにつれて使いたくなる筆記具があります。
美しいマーブルレジンに、しっかりとした太めの軸。
トリムはシルバー925の鈍い輝きと、握ったときのどこか温かみのある触り心地。
イタリアの筆記具が好きな方であれば、一度は憧れたもしくは手に入れたことがある「DELTA(デルタ)」の筆記具。
2017年に惜しくも廃業となっていますが、筆記具としての保証が受けられなくなった今でも、個人的にはやはり「保管」ではなく「使いたい」筆記具であるデルタ。
私のデルタ(として)のアガリの一本。
「カプリコレクション マリーナ・グランデ」
(マリナ・グランデ)
をレポートしつつ、その後のレオナルドやマイオーラへの枝分かれやデザインの伝承から、デルタ廃業について改めて考察をしていきたいと思います。
なぜマリーナ・グランデなのか
なぜ、ドルチェビータではなくマリーナ・グランデなのか、とお感じの方も多いかと思います。
マリーナ・グランデが私のデルタのアガリの一本となる理由として、全体のフォルム、カラー、そしてデルタならではの指にフィットする軸径にあります。
スペックは、
全長:134mm
重量:27g
軸径:11mm(キャップ部の最大径は14mm)
となり、デルタのペン全体的にではありますが、8mm前後の細軸と呼ばれるものはなく、レジンの軸ではだいたいが10mm前後という、非常に握りやすい太さとなっているのです。
筆記バランスについても、胴軸のシルバー925リングの部分が重心となるため27gの重さが偏ることなく配置されており良好。
ボールペンにおいて、ある程度の重みがあることは指に余計な力が入るのを防ぐという意味でも重要な要素ですが、それと同じくらい“重心が偏っていない”ということは重要だと考えています。
それでは軸のデザインを見ていきましょう。
私のお気に入りポイントとして、軸全体のフォルムがあります。
他のどのメーカーのボールペンにもない、流線的なキャップ部のシルエット。
そのシルエットからは、コンセプトであるイタリアはカプリ島の「青の洞窟」に由来する静かな波、または波間に漂う優雅な船を連想させます。
胴軸には「Capri marina grande」の刻印。
カプリシリーズにはこの濃紺のマーブルレジンである「マリーナ・グランデ」と、水色のマーブルレジンを基調とした「マリーナ・ピッコラ」があり、ピッコラの方は4C芯を使うコンパクトなサイズとなります。
デルタの上位モデルに付いてくるローラー付きのクリップ。
ペンを挟む洋服の生地を傷めないようにと配慮されたデザイン。
これぞデルタの特徴的なデザインといって良いでしょう。
クリップの反対側上部には「DELTA ITALY」の刻印。
そして、そのまま目線を下に移すとシリアルナンバーの刻印が見られます。
マリーナ・グランデがいったい何本の製造本数だったか 今となっては確認する術はありませんが、日本ではドルチェビータほど見かけないような気がします。
レジンの色が濃いため目立たない刻印ですが、デルタの筆記具にはこうしたシリアルナンバーが刻まれているものが多いです。
マリーナ・グランデを象徴する銀職人手彫りの彫刻。
位置がキャップリングではなく、胴軸というところがポイント高し。
カプリ島を流れる波と強い風がデザインされており、側面には「925」の刻印が打ち込まれています。
ドルチェビータもそうですが、デルタの代名詞と言っても過言ではない 味わいのある手彫りの彫刻が所有満足感を高めてくれるのです。
キャップの天冠部分にはカプリ島の「時計台の時計」のレリーフがデザインされています。
よく見て頂くと、ちゃんとローマ数字のⅠ~Ⅻが確認でき、数字の間にはユリの紋章がデザインされています。
▲時計台の写真はGoogle mapより抜粋
カプリ島を象徴するピアツェッタの時計台。
実物を見てみたいものです。(ヨーロッパ旅行となるとなかなか行けませんが…)
リフィルは海外メーカーのボールペンでは汎用性のある、パーカータイプ(G2タイプ)リフィルが利用可能。
先にも書いたとおり、姉妹モデルのピッコラは4C芯対応。
日本語も書きやすいジェットストリーム(のG2タイプ)にも対応しているのが嬉しいところ。
太陽のような鮮やかなオレンジのドルチェビータと対をなす、落ち着いたデザインのマリーナ・グランデ。
心を落ち着かせるような、不思議な魅力があります。
イタリア軸と言えばマーブルレジン。
そして、デルタと言えばマーブルレジンとシルバー925の組み合わせという、いいとこ取りにも感じる堪らない要素が盛り込まれているのです。
デルタ廃業についての考察
デルタ廃業(2017年)から実に6年。今もなお筆記具ファンに愛される美しい軸の数々。
私自身も当時、美しいデルタの軸に対する憧れや収集心に燃えていましたが、これほどのアイデンティティーを持った筆記具メーカーが廃業に至った背景とは何なのか。
その理由は語られないまま(私の日本語でのリサーチの限界)現在に至っていますが、デルタ創業者の一人であるニノ・マリノ氏のインスタグラムから感じた事をもとに、改めて考察をしていきたいと思います。
※あくまで私の考察ですので、事実とは異なる部分もあるかと。
まず、廃業についての動きを考えるとき、フラッグシップモデル「ドルチェビータ」の変化に目を向けるべきでしょう。
日本で買うことができた後期のドルチェビータに「ドルチェビータ フェデリコ」というモデルがあります。
フェデリコを否定するわけではありませんが、個人的に違和感を覚えたモデルであることには間違いありません。
違和感を覚えた部分として、キャップリングのデザインがあります。
▲ドルチェビータのシルバー925キャップリングの彫刻
ドルチェビータと言えば、職人が手作業で削り出すシルバー925に施された彫刻が醍醐味でした。
それがフェデリコになると太めでプレーンなキャップリングに、レーザー刻印?で入れたかのような彫刻デザインとなります。
当時は、デザイナーが変わったかコストカットの波が押し寄せたか、という感覚で見ていましたが、あの頃から筆記具メーカーとしてのデルタに陰りが見えていたのではないかと感じます。
以前に考察したときは、職人の離職や後継者不足に伴いデルタとしてのデザインが保てなくなったため廃業を選択されたのかと考えていました。
続いて、デルタの創業者であるニノ・マリノ氏とチロ・マトローネ氏のデルタ廃業後の動きについて。
ニノ氏は以前より立ち上げていた筆記具ブランド「マイオーラ」に注力し、他にも新たなブランドを立ち上げつつ、限定的な本数でありながらもファンを唸らせるデザインの筆記具を生み出し続けています。
一方、チロ氏は息子のサルバトーレ氏をはじめとした一家で「レオナルド オフィチーナ イタリアーナ」を創業。
日本でもデルタ廃業後に出てきたブランドとして、ネームバリューがあるのではないでしょうか。
取り扱われている店舗も多くなっていき、Twitterでも見かける事が多くなりました。
レオナルドがデルタの後継ブランドだと言う人もいますが、デルタ感が強いのはマイオーラではないかと個人的には感じます。
両ブランドに共通していることが、イタリア軸の煌びやかなデザインと、職人の手作業による彫刻や組み立てに拘りを感じるところ。
ニノ氏のインスタグラムでも、2022年の一部のデルタモデル復刻の際、「職人」というキーワードが幾度となく使われています。
キャップリングの意匠が継承されているのは間違いなくマイオーラ。
継承されていると言うよりは、ニノ氏のデザインそのものだと言っていいでしょう。
▲艶やかで厚みのあるマーブルレジン。
マイオーラ、レオナルドの両方に採用されているデザインとしては、ローラー付きのクリップと厚みのあるマーブルレジン。
そしてボールペンにおいては、ペン先のデザイン。
丸く滑らかに整えられたペン先はマイオーラとレオナルド双方のボールペンに共通しているデザインです。
これらのことから、デルタというブランドはもともとニノ氏とチロ氏のその後を見据えた、それぞれが独立していくための“ベースのブランド”だったと考えることはできないでしょうか。
それぞれのブランドを成功(夢の達成)に導くための、デザインの着想や筆記具の考え方となる基となったブランドだったのではないかと推測します。
デルタのDNAは2名の氏によって継承され、別々のブランドではありますが、今も尚イタリア筆記具ファンを唸らせる万年筆やボールペンを生み出し続けているのです。
デザインが受け継がれるドルチェビータ
2022年より、マイオーラから数量限定で発表されているデルタの万年筆。
元々のデルタのモデルのほとんどがカートリッジ/コンバーター両用式だったのに比べ、限定モデルとして生産されているデルタはピストンフィリング。単なるオマージュではなく、アップデートされているところがたまりませんね。
どれもほぼ200本未満の生産本数のため、なかなか我々が手にすることはできませんが、そうした“新生デルタ”でも確認できるデルタのデザイン。
それでは改めて、デルタのデザインを振り返っていきます。
左:ヴィアベネット(BP)
中:マリーナ・グランデ(BP)
右:ドルチェビータ スリム(FP)
の3本から残りの2本、ヴィアベネットとドルチェビータ スリムを見ていきます。
ヴィアベネットはデルタの筆記具の中ではエントリークラスの価格帯となる筆記具。
手元の一本はボールペンですが、万年筆もラインナップされていて、カラーはブラックとレッドがあったかと。
スペックは、
全長:133mm
重量:29g
軸径:11mm(キャップ径は12mm)
アールデコなデザインがお洒落なヴィアベネット。
珍しいのが、キャップリングと天冠の素材として「カゼイン」が使われているところ。
カゼイン樹脂はミルクプロテインを含んだ半合成樹脂ということで、分かりやすく言うと牛乳がベースとなっている天然素材由来の樹脂。
カゼイン樹脂は100年以上の歴史があるようですが、主に衣類用のボタンに使われることが多く、筆記具に使われている例はあまりないかと思われます。
優しいアイボリーカラーのキャップリング。
経年劣化により表面に細かな傷が付いていますが、黒いボディに対してアイボリーのストライプがいいアクセントになっています。
胴軸には「DELTA ITALY」「VIA VENETO」の刻印。
ヴィアベネットはイタリアのローマにある通りのひとつ。デルタの筆記具はこうした地名に由来したモデルが多数発売されていました。
クリップはショートタイプのティアドロップ型。
エントリーモデルのデルタ筆記具ではよく見るクリップ形状で、手元にある「スクリーニョ」にも同様のクリップが付いています。
天冠のカゼイン樹脂はドーム型で、お馴染みのデルタのロゴが配置されています。
こちらもよく見ると小傷が無数についていますが、なんとも味わい深い経年変化ではないですか。
全体的に落ち着いた色合いのため、ビジネスシーンにもピッタリなヴィアベネット。
シンプルな中にもカゼイン樹脂を使用するなど、ピリッとアクセントが効いた筆記具です。
一方で、夏のプライベートタイムには 爽やかなオレンジのマーブル軸が使いたくなります。
ドルチェビータはそんな欲求を満たしてくれる一本。
今でもユーズド市場を賑わす、デルタを代表するモデルです。
ドルチェビータには様々なサイズの万年筆やボールペンがありますが、ドルチェビータ スリムはその中でも一番ベーシックなサイズのモデルではないでしょうか。
スペックは、
全長(携帯時):132㎜
重量:24g
軸径:11㎜
ペン先:14金
インク供給:カートリッジ/コンバーター両用式
万人に使いやすいスペックは、ドルチェビータを体験するにはもってこいのサイズ感。
キャップにはしっかりとシルバー925のトリムが、職人の手による彫刻と共に配置されています。
この部分のデザインは、そのままマイオーラで復活したデルタ「39+1」のペンに継承されています。
シリアルナンバーからも分かるとおり、10000本を超える本数のドルチェビータが製造されてきたことが覗えます。
艶やかなブラックのレジンとオレンジマーブルレジンの対比が美しい。
ペン先にはデルタの飾り刻印とロゴ。
「DELTA 14K 585」の刻印が見えます。(左サイドには字幅の刻印もあり)
デルタの万年筆ペン先は硬めの書き心地で、芯が通ったガチニブ系。
筆圧が強い人にも使いやすいペン先ではないかと思います。
インクの名前から季節外れ感がありますが、SAILORのSHIKIORIから「囲炉裏」を吸入。
オレンジ軸に合うインクカラーかつ、明るすぎない色合いのものをチョイスしました。
このコンバーターからインクを吸わせる瞬間は、なんとも言い難い優雅な気分になりますね。
赤とオレンジの中間のような、読みやすい文字が書ける「囲炉裏」。
囲炉裏の中で燻る炎をイメージしたカラーとなります。
普段からボールペンを常用している私ですが、万年筆といって筆圧を構えることなく書けるデルタのペン先。
しっかりと芯が通った書き味は安心感があり、いつもの自分らしい文字を書きたい方には特にお勧め。
マイオーラで復活したデルタの万年筆もいつかは試してみたいと思うこの頃ですが、生産本数が少ないこともあり、以前のように日本人でも気軽に買えるかというとそうでもない環境なのが惜しいところ。
近いうちにマイオーラやレオナルドのペンを買って、比較をしてみたいものです。
女性の手にも男性に手にも馴染むであろう、爽やかなオレンジマーブルの万年筆。
鮮やかなイタリア軸ではアウロラ(AURORA)の万年筆もイメージされますが、オレンジマーブルであればデルタでしょう。
さて、今回は旧デルタの名品「カプリコレクション マリーナ・グランデ」をレポートしつつ、デルタの廃業について考察を行ってきました。
デルタは廃業しましたが、デルタの意匠を引き継ぐブランドが2つになり、より多様性が生まれたと言って良いかと思います。
私としてはこれ以上デルタの筆記具が増えることはありません(多分…)が、マイオーラとレオナルド、2つのブランドの筆記具にも注目していたいと思います。
それでは今回はこの辺で。
最期までお読み頂きありがとうございました。
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