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Pixペンシルでしか味わえない至高のノック感!モンブランメカニカルペンシルの傑作「No16」。

2024年10月10日

最近、ヴィンテージのペンシルにすっかりハマってしまっています。
 
前回は1930年代のモンブラン メカニカルペンシル「Pix L71」を見てきましたが、今回はその約30年後、1960年代のペンシルを見ていきましょう。
 
モンブランPixペンシルの一番の醍醐味は、そのノック感に尽きます。芯を繰り出したことがハッキリと分かる 存在感のあるノック音。
昨今においてシャープペンシルのノック音というのは、周りへのエチケットも考えて極力消音な、そしてノックせずに芯を繰り出す仕組みへと変わってきています。
 
一方、「リズミカルなノック音は思考を活性化させる」という観念のもと作られた、過去の傑作Pixペンシルは、その語源ともなった大きめのノック音が特徴。
また、硬くガチガチと手応えのある押し心地は、他のペンシルでは味わえないものとなっています。
 
ノックボタンを外し、芯を入れ、ノックして芯を繰り出す(使い切ると新しい芯が自動で装填される)。
1930年代のペンシルから始まったモンブランPixのノックシステムは、1.18mmの芯に対応。
 
60年~70年代に入り、芯径が0.9mmより細い芯に成り代わっていくまで約20年余り、Pixといえばこの1.18mmかつ手応えのあるノック感のペンシルが主流でした。
 

 
今回見ていくのは「モンブラン No16 Pixペンシル」。
近代モンブランのデザインに近づきながらも、伝統的なPixペンシルのノック機構、使用感を持ち合わせた傑作と言えます。
 
 
それもそのはず。
 
この年代は幾つかの筆記具ラインが展開されていましたが、その中でも「ビショップリング」と呼ばれるキャップリングを持ったモデルは上位モデルとされ、万年筆(No12、No14)にはキャップリングに「マイスターシュテュック」の名が冠されています。
 
つまりは、1960年代における「最高傑作(マイスターシュテュック)」ということになります。
今も愛され続けるモンブランPixペンシルシリーズは、単なる過去のペンシルではなく、モンブランの時代を作ってきた最高傑作のうちの一角を担っているのです。
 
それでは、モンブランのPixペンシル No16を見ていきましょう。
 

 

 

 

モンブランペンシル年代別比較

モンブランNo16の詳細を見ていく前に、モンブランペンシルの各年代の比較をしておきます。
 
手元のPixペンシルはこちらの5本。
 

▲左から、L71、172、172K、No16、No16(No18のエラー品)
※エラー品については後述
 
左から右に行くにつれて製造年代は新しくなります。
・Pix L71…1930年代
・Pix 172(172K)…1950年代
・No16…1960年代
 
Pix 172はモデル名の末尾に“K”が付くショートモデル(全長121mm)と、付かない通常モデル(全長132mm)があり、前回記事にしたL71とそのロングサイズであるL72の関係のような、異なる2つの長さのモデルが発売されていたことが分かります。
 
海外メーカーのペンシル事情を見ていくと、
1920年代~30年代はポケットペンシルと呼ばれるショート軸が流行ったこともあり、モンブランやパーカーからは様々なショートペンシルがラインナップされていました。
 
それが1960年代あたりからショートモデルは、レギュラーモデルとは完全に棲み分けされ数を減らしていったものと考えます。
 
代わりに、レギュラーモデルは使用する芯径が1.18mmから0.92mmに移行し、以後、現代に向かうにつれより細い芯に対応していく事になります。
 
芯が細くなるに従い、ペン自体も細軸化していったことが後のメカニカルペンシルのラインナップからも読み取れます。
 

 
モンブランの歴史を振り返ることは海外筆記具のトレンドを振り返ることを意味します。
 
モンブランの過去のペンシルラインナップや機能を見ていくと、1960年代から芯径は1.18mmを脱し、0.9mmがメインに。
そしてその後、ペンシルのバリエーションを増やしながら0.7mmや0.5mmと派生していった事が覗えます。
 
スケッチペンシルはというと、「レオナルド スケッチペンシル」として枝分かれしていきました。
 
各年代のPixペンシルの特徴を比較してみましょう。
 

 
何度も書きますが、Pixペンシルと言えば心地良いノック感とノック音。
ということで、この3モデルのノック感を比較すると、押し心地の重みはL71と172が同等、No16は若干ライトになっています。
 
それに伴いノック音も低め(L71、172)から、高め(No16)へと変化。
 
ノックのし心地はPix L71とNo16がノックボタンの天面が平たいため指辺りはソフトです。
(それに比べると172は少し指の腹が痛くなります)
 
ペンの重量は、
・Pix L71…20g
・Pix 172…22g
・Pix 172K…21g
・No16…17g
 
モンブランのペンに使われる素材も、1920年代~1930年代はエボナイトが主流、1940年代からはセルロイドが使われ、60年代に入るとアクリル系の樹脂がメインに。
 
こういった年代による素材の変化も、この5本のモンブランペンシルから読み取ることができ 非常に興味深いですね。
 
次の項ではNo16のデザインのディティールや内部機構を見ていきます。
 

 

モンブランNo16のデザインと内部機構の関係

それでは、モンブラン No16にフォーカスを当て、デザインを詳しく見ていくとしましょう。
 
まず、モンブランNo16について。
No16は1.18mm芯に対応したモデルで、バリエーションとして0.92mm芯に対応したNo15というモデルもあります。
万年筆はNo12(およびサイズが大きなNo14)、ボールペンはNo18というラインナップ。
 
万年筆のキャップリングには「MISTERSTUCK」の名が冠されており、1960年代当時の上位モデルとして発売されていました。
 

 
No16の特徴的なキャップリング。
 
ビショップリングと呼ばれる山型のリングがついたキャップリング。
Pixペンシルでビショップリングがつくのは、このNo16、No15と、1970年代に発売された後継モデルのNo151のみ。
 
後継モデルである3桁シリーズ(No121、151、181)は、この山のサイドが緩やかにカーブしていることで区別ができます。
 

 
クリップのラインの美しさもNo16のポイントではないでしょうか。
天ビスはドーム型のリングで、クリップ付け根の甲冑のようなラインと相性抜群。
 

 
樹脂製のノックボタンには、モンブランの筆記具の中でもひときわ小さなホワイトスターが鎮座しています。
 
ちなみに後継の3桁モデルは天ビスがフラットでノックボタンが金属。
その他、キャップにおいてはビショップリングのデザイン以外は2桁モデルと共通となります。
 

 
ホワイトスターのサイズはノブレス(左)と同等となりますが、No16のホワイトスターは少し丸っこいですね。
この樹脂のみで構成されたノックボタンが なんともノスタルジックではないですか。
 

 
クリップの先はモンブランのペンで俗に言うところの「おにぎり型」。
横から見たシルエットもたまりませんな。
 
続いてペン先を見ていきます。
1960年代のモンブランペンシルのデザインの隠れた魅力がこのペン先にあると言ってもいいでしょう。
 

 
今は胴軸のペン先に側にゴールドないしシルバーのトリムが配されているデザインが一般的ですが、それが無く樹脂とペン先(内部機構が露出)が分かれていることで実現しているデザイン。
 
胴軸からペン先にかけてが実に美しいラインです。
 

 
ペン先は3本のスリット入り。
某オークション等を見ていると、ペン先破損として出品されていることがありますが、これはれっきとした仕様です。
 

 
ワンノックで1mmずつ繰り出される芯。
個人的に2ノックして書き出す(描き出す)、画像くらいの長さが丁度よい。
まあ、ノック感が気持ちよいので書かないときもカチカチ(Pix… Pix…)しちゃうのですが 笑
 

 
PixペンシルNo16は、書く道具としても優秀。
17gという重量は見た目の樹脂感とは裏腹に、少しズッシリと、そしてバランス良く手の中にホールドすることができます。
 
この重量17gの打ち分けは、
 
内部機構=11g
キャップ=3g
胴軸=3g
 
となっており、重量の大部分は内部機構の金属による重さ。
その上にバランス良く樹脂製のキャップと胴軸がカバーされているため、重量の偏りが無いのです。
 

 
キャップと胴軸を外すとこの通り。
ガンプラで言うところの、内部フレームの上に装甲が組まれる「マスターグレード」のようなイメージでしょうか。
(この例は分かりにくかったかもしれません…!)
 

 
構造的に素晴らしいポイントとして、ノックボタンがキャップに付くのではなく 内部機構に付いていること。すなわちノックボタンが、芯入れ室の蓋を兼ねています。
このような構造は他ではなかなか見られません。
 

 
芯の補充は内部機構に付いたノック部を外して行います。
前述したように、こちらはNo16のため1.18mm芯を仕様。
 
デフォルトで装填されているのはHB芯。
スケッチペン系だと濃いめの芯を入れたくなりますが、細身のNo16にはHBおよびBあたりの硬度の芯が合うように思います。
 

 
非常に筆記バランスに優れたNo16。
いやー、出来が良すぎて後継モデルの3桁シリーズやNo18(ボールペン)も気になってしまいます。
 
現行モデルで言うところのマイスターシュテュックに匹敵する上級ラインであるものの、ユーズド市場でも比較的安価(と言っても予算は1万円ほど必要ですが…)で手に入る本モデル。
 
Pixペンシルのノック感や書き味を楽しみたい方には、非常にコスパの高いモデルと言えるのではないでしょうか。
是非お試しを!
 

 

No16の前期型と後期型(のエラー品)

Pix ペンシル No16には前期型と後期型があります。
この項では前期型と後期型の見分け方について、比較しながら見ていきたいと思います。
 

 
まず、シルエットや見た目ですが、これは当然の如く全く同じ。
うーむ、惚れ惚れするシルエットです。
 

 
見分け方は、ビショップリングに刻まれる刻印が、「PIX○○」か「No○○」かということ。
 
前期型の刻印は、「MONTBLANC – PIX 16」
後期型の刻印は、「MONTBLANC No 16 -」
 
このようになっており、PIXかNoかという部分と、ーが入る位置に違いがあります。
 
ついでに上の画像は、なかなかに珍しいNo16のエラー品と思われる一本。
ビショップリングの型番が「No18」になってしまっています。
 
通常No18はボールペンの型番ですので、まずエラーで間違いないかと。
ボールペンのキャップは、ハンマートリガー(レバー式)機構となっているため、クリップの下にはレバーを出す用のスリットが入っているはずです。
 
しかし、この個体はレバー用のスリット無しでNo18の刻印。
ということで、製造過程においてペンシル用のキャップの中にボールペン用のキャップが混ざってしまったものと思われます。
 

 
2本のキャップを並べてみました。
ビショップリングを見て頂くと分かる通り、左がNo18(エラー品)、右がPIX16です。
 
それでは前期型と後期型では、内部機構の違いはあるのでしょうか?
 
中身を見比べてみましょう。
 

 
左が前期型、右が後期型。
内部機構は全く同じと言えます。
 
違いと言えば真鍮部分の経年変化くらい。
 
重量も双方11gで、構成部品も同じと思われます。
 
ということで、モンブランPixペンシルNo16の前期型と後期型の違いは ビショップリングの刻印の違いのみということになります。
 

 

(おまけ)芯ケースあれこれ

手元の1.18mmペンシルが増えてきました。
ヤード・オ・レッドにパーカーにモンブラン、カヴェコ、マイナーなところではカノエピースなど…。
 
スケッチペンシル型のコロンとした本体には濃いめの芯が良く合います。
また、今回のNo16のような細身のペンシルにはBより硬い芯を入れるなど、軸に応じて使い分けています。
 

 
ペンケースに入れる「芯ケース」も、色々な製品があるため 拘りたいところ。
真鍮を使ったクールなデザインのものから、当時モノのノスタルジックな芯ケースなど。
 
左から、真鍮製芯ケース(ヴィンテージ)、ystudio真鍮芯ケース(STAT-07)、スピッツ管、モンブラン芯ケース
 
一番細くてコンパクトな真鍮製の芯ケースは、カノエピースのペンシルを購入したときに付いてきたもの。
1.18mmの芯は2本しか収納できませんが、まあ、必要最低限のアイテムに絞りたい場合は十分なのです。
 
ystudio真鍮芯ケース(STAT-07)は、もう完全に一目惚れです。
六角柱+真鍮+ブラックペイントという、筆記具好き、カヴェコ好き、小さくて精密なもの好きには堪らないアイテム。
 
ネジ式のキャップと、キャップにOリングが設置してある点にも拘りが感じられます。
素材が素材だけに重さはありますが、ペンシル好きは必携ではないでしょうか。
 
スピッツ管や小さめの試験管は芯を大容量に収納でき、一度にたくさんの芯を持ち歩きたい場合や芯の母艦としても大活躍をしてくれます。
 
試験管とうことで、探せばピタリと合う試験管スタンドもあるところがポイント。
机の上に試験管スタンドと芯ケースという組み合わせも粋です。
 

 
最後はモンブランの1960年代の芯ケース。
現行の芯ケースはスクエアですが、こちらは円筒となっています。
バリエーションは写真のような白黒モデルの他に黒一色、白一色なども確認できます。
 
キャップの上部には「MONTBLANC」のロゴ。
このようなノスタルジックなデザイン、好きですねー。
 

 
それぞれ蓋を外すとこのようになります。
収納・携行できる本数は違いますが、シーンによって使い分ければ 芯を補充するときに少しワクワクしませんか?
 
以上、おまけの芯ケース紹介でした。
 

 

さて、今回はモンブランの1960年代を代表する傑作ペンシル、「Pixペンシル No16」をレポートしました。
 
ノックした時の感触、心地良いノック音、ビショップリングと各部の美しいライン、バランスに考慮された重量、まるで内部機構にアーマーを着せるような軸構造など、魅力が盛りだくさんのヴィンテージペンシルです。
 

モンブランにおいて「Pix」という名前は特別なもので、現行の筆記具にも刻印されています。
そんなPixの歴史を感じるPixペンシル。
 
1.18mmペンシルへの入門としてもお勧めです。
 
それでは今回はこの辺で。
最後までお読み頂きありがとうございました。

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