クロス(CROSS)センチュリーのデザインのルーツ!【センチュリー シグネット ボールペン レビュー】
皆さんこんばんは。
朝晩が段々と涼しくなり本格的な秋に向かっています。
夜な夜な一人で趣味にふけるにもってこいの気温と湿度。読書の秋は筆記具の秋でもあります。
最近、シルバー925やシルバープレートの筆記具に関して書くことが多いですが、金属軸の筆記具は気温の変化を身近に感じることができるアイテムですね。
キンと冷えた金属軸から伝わる朝の寒さ、夜の静寂がたまりません。
今回もシルバー925の軸を見ていくのですが、久しぶりにクロス(CROSS)軸を取りあげたいと思います。
木軸大流行に逆行するようですが、流行は繰り返しですのでまた来るでしょう銀軸ブームも!
クロスと言えば「クラシックセンチュリー」が有名ですが、今回見ていくのはそのセンチュリーシリーズの前身となったモデル(の復刻モデル)。
「クロス センチュリー シグネット スターリングシルバー ボールペン」
今や廃番モデルですが、ネットにひょっこり出品されていたものをタイミング良く入手できました。
クロス好き、細軸好きにはたまらないデザインではないでしょうか。
「復刻モデル」と前述したのも、シグネットは1935年に誕生したモデルのため。
もともとは万年筆とペンシルのみのラインナップだったものを現代デザインにアレンジしボールペンとして復刻させた筆記具となります。
クラシックセンチュリーをはじめ、「センチュリー」コレクションがスタートしたのが1946年ですので、シグネットのデザインは約10年程先輩。似ている箇所が随所に見られます。
それでは、クロス シグネット ボールペンを後輩のセンチュリーシリーズと比較しながら見ていきましょう。
センチュリーシリーズとの比較から見るシグネットのデザイン
まずはセンチュリーシリーズに繋がるクロスの伝統的なデザインを見ていきます。
▲左から、タウンゼント、センチュリーⅡ、シグネット、クラシックセンチュリー
並び順が歴史順ではないですが、デザイン比較やサイズの参考に。
※デザインの歴史順でいくと、シグネット→クラシックセンチュリー→タウンゼント→センチュリーⅡ
センチュリーシリーズの出だしである「クラシックセンチュリー」の特徴、コニカルトップやスタイリッシュな細軸、回転繰り出し機構等にはシグネットの遺伝子が引き継がれていることが覗えます。
特に目を引くのが、胴軸の3本の黒いラッカーラインではないでしょうか。
シグネットが復刻された時のラインナップも、このスターリングシルバーの他にプラチナや金張りなどがありましたが、黒いラッカーのラインはモデルの見分け方にも一役買っています。
こちらのスターリングシルバーのラッカーラインは3本。
同じ銀色軸のプラチナはラッカーラインが4本です。
ラッカーはクロスならではの美しい光沢かつ透明感のあるラッカーが使用されており高級感も増し増し。
もう一つの目立つ特徴として「玉クリップ」が挙げられます。
センチュリーシリーズはクリップ先にかけて盛り上がる優美なラインのクリップですが、シグネットはブリッジ型で先端が丸いタイプ。
アウロラやパイロットもそうですが、玉クリップがついているとクラシカルな印象がアップしますね。
クリップの付け根「CROSSロゴ」の部分は別パーツとなっており、横から見ると盛り上がっている事が分かります。キャップ自体の仕上げもクラシックセンチュリーのようなストライプは無くプレーンな仕上げ。
ペン先の方に目をやると、シグネットの口金部分は細長くデザインされていることに気付きます。
口金の細くデザインされた部分が長い=筆記時の視認性の良さにつながります。
ちなみにクラシックセンチュリーのペン先繰り出し幅が3mmなのに対して、シグネットは4mmありますので、さらに視認性が高いということになります。
クロスのセンチュリーシリーズ御用達「コニカルトップ」を比較します。
一番右のマルン以外キャップはスターリングシルバー製。
センチュリーシリーズの面白いところは、筆記具のランクによってこのコニカルトップのデザインが変わること。クラシックセンチュリーはトップの黒樹脂の部分の占める割合が高級モデルになるにつれて小さくなります。
シグネットはかなり小さな黒樹脂となっていますね。
センチュリーⅡとタウンゼントは黒樹脂ではなくラインとなっています。
センチュリーシリーズはこうしたデザインの統一感も魅力のひとつ。
ペンケースをクロスの変遷でまとめたり、同シリーズで揃えるのも面白いかも知れません。
シグネットのスペックと刻印
続いて、シグネットのスペックと刻印について。
・スペック
全長(携帯時):138mm
全長(筆記時):142mm
軸径:7mm
重さ:17g
まず持ってみて気付くことが見た目以上に「軽い」ということ。
クラシックセンチュリーの重さが16gですのでその差はわずか1g。シグネットはクラシックセンチュリーに比べ全長が5mmも長いため重そうに見えますが実際はそう変わりません。
全長でみるとセンチュリーⅡほどの長さがあり、かなり細長いボールペンだということが分かります。
(タウンゼントは更に長いのですが…)
次に、その長いボディに散りばめられている刻印について見ていくとしましょう。
まずはクリップの刻印。
これはシンプルに「CROSS」のみ。字体からもこのシグネットが復刻版だと判断できます。
スターリングシルバー製のセンチュリーは個体によってクリップに「METAL」等の素材刻印があるのですが、このシグネットはクリップ裏に「METAL」の刻印を持っています。
そのため表側はCROSSのみなのです。
シルバー製のクロスについているコニカルトップ辺りの刻印。
これは同年代のクラシックセンチュリーと同じです。
刻印は「CROSS 925 SILVER(925を表すマーク) CAP/BARREL」。
天冠の少ないスペースにこの文字数・情報量が精密感を上げています。シグネットの文字の彫りは繊細です。
キャップと胴軸のつなぎ目には立体的なリングがデザインされていて、そのリングにも「METAL」の刻印。
さらに、口金の金属にも「METAL」の刻印があります。
このMETAL刻印の部分は硫化による黒ずみが起こらないため、シルバー925ではなく真鍮にメッキだと思われます。このような刻印はクラシックセンチュリーやタウンゼントにおいて、製造年代ごとの違いとして様々なバリエーションが楽しめます。
クラシックセンチュリーを一本買って終わり、ではなく、複数本揃えて観察し、刻印から年代を考察するのもクロス筆記具の楽しみ方と言えましょう。
シグネットのペンシル化
さて、手元に来たクロス シグネットのボールペン。
復刻発売時の状況を知らないうえネットにシグネットに関する情報も少ないため、この復刻シグネットのラインナップに万年筆があったのかペンシルがあったのかは不明です。
ボールペンのみの発売だった可能性もあります。
ただ、クロスのクラシックセンチュリーはじめセンチュリーシリーズには、ボールペンをペンシル化できる特殊リフィル「スイッチイット」なるものが存在します。
このブログにおけるクロスの記事では度々登場する「スイッチイット」。
これがシグネットにも対応するのか検証します。
シグネットとクラシックセンチュリーはともに回転繰り出し式で、リフィルも共通のものが使えます。
これは期待大!
キャップを外したシグネットとクラシックセンチュリーを並べると、胴軸の長さは同じでキャップの長さが違うということが分かります。
ついでに回転繰り出しユニットの刻印を見ると、
シグネット:2807(?)※2文字目が潰れていて判別困難。
クラシックセンチュリー:4316C
となっています。
しかしこれがシリアルナンバーなのか繰り出し機構のモデルナンバーなのかは不明。
お洒落な黄色のスイッチイットを差し込んでみるとピタリと収まりました!
あとはキャップを収めて動作確認!
口金からしっかり出てきたガイドパイプと繰り出された芯。
結果、スイッチイットはシグネットにも対応することが判明しました。
一ひねり目でパイプ繰り出し、二ひねり目での芯繰り出しの動作もクラシックセンチュリーと同じで支障はありません。
ふむ、完璧です。
ついでにキャップについてですが、シグネット胴軸はクラシックセンチュリーのキャップとも互換性がありますが、なぜかクラシックセンチュリーの胴軸にシグネットのキャップは嵌まりませんでした。
どれだけやっても嵌まりません。キャップ内の構造が違うのでしょうか。…謎です。
そして、ついでのついでですが、クラシックセンチュリーのキャップ嵌合について。
リフィル交換の際など、キャップを胴軸に戻した時に「隙間」が生じることがあります。
この状態でグッと押し込んでも隙間は埋まりませんが、
「ペン先を繰り出した状態」で押し込むと隙間が埋まります。
リフィルを換えた後、アレーーー??となっている方がいらっしゃったらぜひ一度お試しください。
他の細軸ボールペンと比較&おまけ
最後は他メーカーの細軸ボールペンとシグネットのサイズ比較です。
細軸ボールペンを語るうえで外すことのできないクロスのクラシックセンチュリーはじめ様々な細軸(すべてスターリングシルバー製)と並べてみました。
▲左から、シェーファーインペリアル、クロスクラシックセンチュリー、クロスシグネット、シェーファータルガ、パーカー75。ともにボールペン。
軸径はクロスの2本が7mm、その他が8mmとなっていて、ダイヤモンドパターンやシズレパターン、ストライプなどそれぞれデザインと両立した滑り防止加工が施されています。
この5本の中でもシグネットが長めだということが分かりますね。
ペン先の比較。
どのボールペンもリフィルの繰り出し幅は3~4mm。
この比較で気付くことはシェーファー、パーカーのリフィルよりクロスのリフィルの方が「細い」ということ。見た目も細いクロスのリフィルですが、インク容量が少ないということはありません。
粘度高めのインクがタンクにたっぷり詰まっているという感じです。
シグネットは細身のペン先(口金)から長めに出るリフィルで筆記時の視認性も申し分なし。さらに軽いので男性女性に限らず使いやすいボールペンと言えます。(個人的に細軸は長時間筆記に向かないと感じていますが…)
クロスの筆記具は後輩にプレゼントする事も多いのですが、このサイズで回転繰り出し式、総金属製、軽くてスタイリッシュ、このスペックでリーズナブルという条件が揃う定番ボールペンというのもなかなか無いですね。
さて、ここからはおまけ記事です。
(こういう事するから記事が長くなるんですよね…)
今回シグネットというボールペンを扱いましたが、個人的に「シグネット」と聞いて連想されるのは筆記具ではなくてカメラなんですよね。
アメリカの軍用カメラとして誕生した「Kodak Signet 35」(コダック シグネット35)。
昔愛用していて、現在は自宅の玄関でインテリアとして活躍中!笑
実はこのコダックシグネット35はコンパクトでありながら距離計連動式のカメラで、描写に優れた名品のエクターレンズ搭載、コンパー製のレンズシャッターは1/300秒までのストロボシンクロに対応しているというハイスペックな機械式フィルムカメラ。
見た目の可愛さもあってなかなか手放せんのです。
(そのデザインから“ミッキーマウス”と呼ばれることも…)
シグネット35はフルマニュアルの機械式カメラ。
レンズの周囲にはデジカメのモニターに映されるような情報が所狭しと並んでいます。
レンズは写りのシャープさに定評があるコダックエクターレンズ(44mm F3.5)。
44mmの画角もかなり実用的でスナップから風景撮影まで守備範囲が広いです。
※レンズの先にフィルターアダプターを着けています
このカメラの面白いところが、距離計連動の二重像合わせが三角形だということ!
距離計窓には三角のガラスが見えます。
ついでですので簡単に操作方法を書いておきましょう!
※フィルム装填から書いていると相当長い記事になりますので、独特な撮影方法のみご紹介!
通常のフィルムカメラはだいたいがフィルム巻き上げ→ファインダーで構図決め→シャッターボタン押して撮影→フィルム巻き上げ という流れですが、シグネット35は一手間多くなっています。
フィルム巻き上げは右側の「WIND」ノブで。巻き上げの動作に連動して真ん中のフィルムカウンターがカウントダウンされます。
(左側は巻き戻しノブ)
次にシャッターチャージです。レンズの左側についている丸いポッチレバー。これがシャッターチャージレバーです。シャッターチャージとはカメラを撮影可能な状態にすること。
普通のカメラはこの後、シャッターボタンを押し込むだけで撮影できるのですが、シグネット35はシャッターチャージと同時にチャージロックがかかります。(つまり誤操作による誤撮影防止のためのロック)
チャージロックを解除するためにはレンズ下にあるチャージロック解除ボタンを矢印のように操作します。
これでシャッターが切れるようになります。
距離計窓の下にある平たいシャッターレバーを下に押し込んで撮影完了。
その後、フィルム巻き上げ→ファインダーで構図決め→シャッターチャージ(もしくは構図決めの前にチャージ)→ロック解除→シャッターボタン押して撮影→フィルム巻き上げ…という流れになります。
シグネット35はは距離計連動カメラ。つまりファインダーから被写体を覗いたままヘリコイドを操作しピントを合わせることができます。
言ってみれば、現在のデジカメがシャッターボタンを半押しするだけでやってくれることをすべてマニュアル操作でする必要がありますが、その「手間」が今となっては面白いところ。
まるで万年筆を扱う時の一手間のようで、万年筆と銀塩カメラは共通するものを感じますね。
さて、今回はクロスの復刻モデルボールペン「センチュリー シグネット」を見てきました。
細軸で軽く、ペンケースに一本入っていても何ら支障の無い機動力。
滑らかな油性インクの書き味もクロスの醍醐味です。
クラシックセンチュリーに似て非なるボールペンのシグネット。
デザインもクロスの伝統を感じることができる一本だと思います。どこかで見つけたらぜひ手に取ってみてはいかがでしょうか。
それでは今回はこの辺で。
最期までお読みいただきありがとうございました。
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