美しきビスコンティ初期のセルロイド軸【リナシメントセルロイドとラグタイム】
皆さんこんばんは。
今回は世界の筆記具においても抜群の美しさを誇るイタリア軸の筆記具をレポートしていきます。
イタリア軸と言えば、美しいマーブルレジンや軸のいたる所に惜しみなく使われたシルバー925の鈍い輝き、モチーフを忠実に再現してデザインされた凝ったプロダクトが多い印象です。
昔から万年筆に慣れ親しんでおられる方なら、艶やかなマーブル軸に代表されるAURORA(アウロラ)やMontegrappa(モンテグラッパ)やDELTA(デルタ)、Marlen(マーレン)にVISCONTI(ビスコンティ)。
最近ではLeonardo(レオナルド)やMaiora(マイオーラ)やPineider(ピネイダー/ピナイダー)等も頭角を現してきています。
日本製でマーブル軸というと、PILOT(パイロット)のカスタムヘリテイジ、ITOYA(伊東屋)のロメオシリーズを思い浮かべる方も多いでしょう。
そのなかにおいて、私の中では「特異な素材の筆記具」、というと語弊があるかもしれませんが、面白くも少し尖ったプロダクトを生み出し続けるブランド、「VISCONTI(ビスコンティ)」の初期のモデルについて書いていこうと思います。
ビスコンティは、1988年にダンテ・デル・ベッキオとルイージ・ポリという2名の万年筆収集家によって設立された、まだ老舗と呼ぶには若い筆記具ブランド。
ブランドのコンセプトは、1920~50年代の「万年筆黄金時代」を再現・発展させること。
当時、素材の主流だったセルロイドの復活や、職人によるハンドメイド製造に拘って作られています。そうしたコンセプトがもととなり、後にホモサピエンスのような、素材に玄武岩を使い独自のインク吸入機構である「パワーフィラー」を搭載した筆記具が完成するわけですね。
(個人的にビスコンティの代表作は、玄武岩・青銅・パワーフィラーの3拍子が揃ったホモサピエンスだと思っています)
今回見ていくビスコンティの筆記具は、1988年のブランド設立から間もない頃に作られた「リナシメントセルロイド」と「ラグタイム」のボールペン2種類について。
これらの製造には日本の企業「加藤製作所」の技術も関わっていると言われています。
この2本のボールペンは同時に購入したわけではなく、数年の時を経て手元に集まってきたもの。
軸には特徴的な柄のセルロイドが使われていて、まるで兄弟モデルのようにも見えますが別シリーズです。
同じ工程で製造されたと思われる胴軸のセルロイドとクリップのデザインから「月と太陽」を連想させます。左がリナシメントセルロイド、右がラグタイム。
ベージュ×ブラックのマーブルセルロイドには、シルバー925のソリッドな輝き、ゴールドプレートの豪華なトリムがよく似合っています。
まずはリナシメントセルロイド(ローラーボール)から見てきましょう。
このリナシメントセルロイドは、1994~2000年までにかけて製造された個体だと思われます。
(クリップの形状や、刻印から判断)
「Rinascimento(リナシメント)」の名前の意味や由来について、イタリア語でリナシメントとはルネッサンスの意。ビスコンティが掲げるブランドコンセプトにも通じる「セルロイドの復活・伝統継承」を象徴するモデルとなります。
リナシメントのバリエーションとして、こちらの「CELLULOIDE(セルロイド)」の他に、胴軸に彫刻が施されたスターリングシルバー素材の「DECO(デコ)」もあり、今では希となったセルロイドやシルバー925が贅沢に使われた貴重な筆記具となっています。
リナシメントのローラーボールのスペックは、
全長:139mm
重量:27g(キャップ:10g、胴軸:17g)
軸径:11.5mm(グリップ部は11~10mm)
胴軸の中には金属製の芯材が設けられており、見た目以上にバランスはいいです。
ベージュとブラックが立体的に混ざり合うリナシメントの美しい胴軸。
このようなビスコンティ初期の作品には、日本の「加藤製作所」の職人である加藤清 氏のセルロイド技術が大きく関わっていると言われています。
このリナシメントのセルロイド部分についても例外ではなく、加藤製作所の素材や製造面での技術協力(協業製作)が行われたという説と、加藤清氏の技術を受け継いだイタリアの職人により新規に作られた説があり、このセルロイドの柄に関して加藤製作所の作品にも同様のものがあるものの、微妙に仕上げが異なっているとも言われています。
尻軸にキャップをポスト。
首軸とはネジ切りで接続されますが、尻軸にはネジ切りはなく嵌合する形。
首軸の金属パーツとキャップのクリップ(シルバー925パーツ)により、携帯時はフロントに重心が偏りますが、筆記時、特に尻軸にキャップをポストするとちょうど良い塩梅に。
もちろん、キャップをポストせずに書いても十分な筆記バランスを保っており、ビスコンティの筆記具が装飾志向に寄っていく前の、筆記具としての使いやすさに重点を置いたモデルになっていることが覗えます。
尻軸にはシルバー925のリングと、底面に「RINASCIMENTO-CELLULOIDE-」の刻印。
こうしたトリムにもシルバー925を惜しみなく使うところ、イタリアメーカーの筆記具に対する拘りが強く感じられる部分でもあります。
こちらはローラーボールですので、リフィルの交換はこの尻軸部分を外して行うこととなります。
一方、キャップにはひときわ存在感を放つ半月状のクリップが配置され、側面には素材にちなんだホールマークが刻印されています。
「VISCONTI」…ビスコンティのメーカーロゴ。
「1425Fi」…ビスコンティのイタリア銀細工登録番号(Fiはフィレンツェを表す)
「Ag925」…シルバー925(銀92.5%)を表す
メーカーロゴは現在のアバンテのようなフォントとは異なり、ニューセンチュリー系の旧字体。
銀細工登録番号には「☆」マークはなく、数字と地名刻印のみというあたり、なかなか珍しいのではないでしょうか。
天冠には宝石がセットされており、このモデルがビスコンティを象徴する特別なモデルであることを印象づけています。
ラウンド・ブリリアントカットのこの宝石は、ダイヤに非常によく似ていますがおそらくキュービックジルコニア(CZ)であると思われます。
こういった筆記具に使われる宝石が天然石ではなく人工石である理由について少し。
コスト見合いという部分も大きいですが、ビスコンティの基本哲学である「ペンは使う芸術である」という筆記具観とも大きく関わっていると考えます。
ペンは机上の宝物でもなく、金庫に保管する資産でもなく、日常で使われて掌で感じられる芸術品であること。天然のダイヤや希少石を使った瞬間、それは「使う道具」から「守る資産」へと変わってしまうからです。
私自身、キュービックジルコニア(CZ)については ある意味技術が詰め込まれた「ジェネリックダイヤモンド」のようなものだと認識していて、CZを生成するためには天然の金属元素であるジルコニウムを高熱で溶かしたあと結晶化(安定化)させるという…。
自然には作ることができない まさに人類の技術を詰め込んだコストパフォーナスに優れた人工石なのです。
リナシメントのリフィル交換は尻軸を外して行います。
装填されているビスコンティ純正の「Roller fine」リフィル。ドイツ製。
インク粘度は、ビスコンティの粘度低めで色の濃い油性リフィルからは想像できない、ローラーボールリフィルでありながら高粘度な筆記感。
(ブルーのインクカラーと試筆は後ほど)
続いて見ていくのは、ラグタイム。
このボールペンもビスコンティが創設されたあとの1990年代初期のものと思われます。
こちらは、リナシメントのクールなマーブルセルロイド×シルバーのコントラストとは打って変わって、ベージュ×ブラックとも親和性が高く豪華なゴールドトリム。
立体的なマーブルセルロイドはリナシメントのそれと同じで、見る角度によって様々な表情を見せてくれます。装飾控えめでシンプルな口金はマーブル軸を引き立たせ、キャップのダブルリングも良いアクセントに。
リング一体形成のクリップはクラシックなデザインで、1920年代のペンシルか、はたまたオノトのような細軸の万年筆を連想させます。
スペックは、
全長:138mm
重量:25g
軸径:10mm
重心はちょうどキャップの下となっていてバランスは良好。
セルロイドの滑らかな触り心地が影響してか、25gのスペック以上に軽く感じます。
ラグタイムのシンボル的なデザインのクリップ。
ビスコンティの万年筆のニブにも刻まれているこのロゴは、「フルール・ド・リス(百合紋)」を元としたビスコンティのオリジナルシンボル。
百合紋は、王権・気品・知性・精神性を象徴していて、筆記具を「文化と精神性の結晶」と考えるビスコンティの思想が具現化されたもの。
クリップ周りの刻印は、ロゴを正面に挟んで「VISCONTI」「RAGTIME」、「FIRENZE」「ITALIA」という構成。
RAGTIME(ラグタイム)という名前は、19世紀末から20世紀初頭にかけてアメリカで流行した音楽「ラグタイム」から名付けられています。
(ちなみにITALIAはイタリア語で、ILTAYは英語)
一見、イタリアの筆記具とアメリカの音楽で何の関係が…?と思えるのですが、それぞれの特徴を踏まえるとこのように考察できないでしょうか。
1990年代のビスコンティは、筆記具に見るヨーロッパ伝統の復興を目指しながら完全な「懐古」には走らず、革新を加えたものづくりを行っていました。
一方、アメリカ音楽のラグタイムはジャズの先駆とも言われ、クラシックな形式を保ちつつ、強烈なシンコペーション(アクセントの転換・ズレ)から来る、人間的な揺らぎが特徴。
すなわち、筆記具のラグタイムは左右対称な筆記具における、セルロイドの非対称な流れ(視覚的なシンコペーション)を現して名付けられたものではないかと考えます。
ラグタイムのリフィル交換はキャップを回転させて外す、回転繰り出し式のボールペンでは王道な方法。G2タイプのリフィルが適合し、様々なメーカーのリフィルが使えるのもメリット。
私はセルロイドのしっとりとした触り心地にマッチすると考えて、三菱uniのジェットストリーム(EF)を入れています。
軽やかな軸には低粘度で細字のリフィルがよく合います。
ペン先から出るリフィルも口金にピッタリとフィットし、今では安価なボールペンでも当たり前となった筆記時のブレとも無縁な、とても精度の高いペン先の加工。
イタリア製回転繰り出し式ボールペンのペン先に仕込まれるスプリングは、他国のボールペンと比べても硬めで弾力があり、それに伴ってキビキビとしたリフィルの繰り出し動作。使っていて気持ちがいいです。
G2リフィルに対応し、様々なメーカーのリフィルが使えるラグタイム(ジェットストリームのEF使用)と、ビスコンティ純正リフィルのリナシメントセルロイド。
リナシメントのローラーボールにペリカン、アウロラ、ファーバーカステル、ウォーターマンのローラーボールリフィルを入れてみましたが、いずれも尻栓が閉められないため装填できず。(ビスコンティ純正は見た目からもリフィル全長が短い)
今のところリフィルの互換性を確認できていませんが、またリナシメントに適合するローラーボールリフィルが見つかったら、Xでツイート報告しようと思います。
さて、今回はビスコンティ初期の筆記具「リナシメントセルロイド」と「ラグタイム」をそれぞれ見てきました。
1988年に設立されたビスコンティのブランドコンセプトや思想が生きた筆記具。
使われているセルロイドには日本の「加藤製作所」も関わっており、まさにブランドの歴史を閉じ込めたようなボールペンです。
既に廃番となっている2本ですが、ビスコンティの歩みが凝縮されていると同時に 希少素材を存分に愉しむ筆記具としても、見かけたらぜひ入手してみてはいかがでしょうか。
それでは今回はこの辺で。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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