ヴィンテージ万年筆を楽しむ 【モンブランNo22/シェーファー トライアンフニブ】
こんにちは。
先月、ヴィンテージな筆記具について記事を書きましたが、その影響か最近は専ら新品の筆記具には興味が無くなり、程度の良い中古筆記具を探してしまっているという悪いクセがついてしまいました。オークションという実際に手に取れない商品で、しかも状態が分かりにくい中古品…。しかし、歴史を見てきた筆記具になぜか惹かれ小傷が多い商品が気になってしまっています。
偶然、滅多にお目にかかれない希少な筆記具や、古い品でありながら状態の良い美品が安く入手できるということもあるのがオークションの醍醐味。
今回はそんな歴史を感じるヴィンテージ万年筆を二本ピックアップしてレポートしていきたいと思います。その二本とは、しばしば記事に登場するモンブランのコンパクトな吸入式万年筆であるNo22と、シェーファーのタッチダウン式トライアンフニブ万年筆(モデル名不明)。
二本とも古いものですが素晴らしい完成度。No22はコンパクトな万年筆でありながらも上位モデルと同じピストン吸入式を備えた1960年代のモデル。シェーファーは細軸に精密なタッチダウン式のインク吸入機構と特徴的なニブを備えた1950年代の代物です。
60年から70年近く前の万年筆ですが十分実用に耐え、現代も現役で続く万年筆というスタイルから古くささも感じない、いぶし銀のカッコイイ万年筆と言えるでしょう。
それでは、渋めの万年筆の魅力を余すことなく、様々な角度から見ていくとしましょう!
【モンブランNo22】
まずはモンブランのNo22からレポートです。
第一印象としては「コンパクトで軽い万年筆」といった感じでしょうか。同じシリーズにNo24(標準型)といったサイズ違いもあり、自信の手のサイズなどに合わせて選ぶことができます。長さは以前レポートしたペリカンのM120とほぼ同等でM400よりは少し長いくらいです。M400よりは長いのですが、キャップを外した状態だとM400より短く、かなりコンパクト。
上から、ペリカンM120、モンブランNo22、ペリカンM400
しかしながらキャップが長いため、キャップを尻軸に差した状態だと14.3cmとなり、重心も合わせてかなり書きやすい万年筆となります。キャップを着けるとちょうどペリカンM400と同じくらいの長さですね。
【キャップ/モンブランNo22】
それではキャップから見ていきましょう。
キャップは嵌合式。胴軸のインク窓には段差が在り、ちょうどキッチリとはまり込む形となっています。キャップの内側にはベロが3枚付いており、これがちょうどいい嵌合感を生んでいます。かなり前の記事で「嵌合式は信用ならん」と書いた記憶がありますが、私が知る嵌合式の万年筆の中ではダントツに信用できる嵌合感です(笑)
キャップリングには「MONTBLANC-No22-」の刻印。二重リングとなっていてデザイン的にも洗練された印象を与えています。このモンブランの黒×ゴールドのゴールドの色味が、ゴールドでありながらギラギラせずなんとも落ち着いた絶妙な色合いだと毎回関心します。
クリップは短め。現行のマイスターシュテュックのクリップと比べると印象がずいぶんと違います。クリップ先に向かって細くなっているデザインからも、非常にシンプルな印象を受けますね。
昔のモンブランの万年筆はマスターピース(現:マイスターシュテュック)以外はだいたいのモデルがこの形状のクリップでした。実際の使用感としてはもう少し太い方が扱いやすいのですが、これはこれでNo22らしくていいです。
天冠にはお馴染みのホワイトスターが輝きます。今のホワイトスターと比べると少し輪郭が角張ったホワイトスターだということが分かります。盛り上がった天冠に輝くホワイトスターよりは控えめですが、しっかりと主張していて、ああモンブランの筆記具を使っているという感じがたまらないですね。
【胴軸・ニブ/モンブランNo22】
次に胴軸・ニブを見ていきます。主軸には印象的な青いインク窓がついていて視認性抜群!インクの容量も十分に入ります。
青いインク窓はNo22のデザインの特徴的な部分ではないでしょうか。縦のストライプとなっており、立体的に光を反射します。そして密かにインク窓を彩るゴールドのリング。こうしたデザインも抜かりがないですね。ペリカンM400もそうですが、黒×青ストライプのコントラストは持つ者に誠実な印象を与えます。
そして個人的にはこのインク窓と主軸の段差が、No22を握ったときにちょうど指の腹に当たるため、握りやすさに一役買っていると感じるのです。軽いうえに握りやすい=疲れないということになります。
ニブに目を向けると、特徴的な形をしています。ウイングニブと呼ばれるこのペン先は筆圧に繊細に反応し、とてもシルキーなタッチで書くことができます。ニブに字幅やロゴなどの刻印は一切なく、非常にシンプル。こちらの字幅はEFですが日本製万年筆のFくらいの太さ、そしてペン先の柔らかさから、筆圧に応じてMくらいの字幅にもなる、日本語を書くのも楽しくなる筆記感なのです。
横から見ると控えめなペン芯です。どこかウォーターマン カレンのペン先ようなシルエットですね。
尻軸にも小さなホワイトスターが配置されています。この上から見ても下から見てもモンブランな演出がなんともニクいです。
尻軸を反時計回りに回すとピストンが降りてきます。ピストン機構は樹脂製で、この年代のモンブランは樹脂製のピストン機構が主です。この小さなボディに吸入式というメカニカルな機構を搭載していて、実に所有感の満たされる逸品なのです。
以上、モンブランNo22のレポートでした。
【シェーファー】
続いてシェーファーの万年筆を見ていきましょう。モンブランNo22とは対照的に、両端が丸いスリムなデザインをしています。
こちらもブラック×控えめなゴールドトリムとなっています。
キャップはネジ式。締めた感じは少し硬めでキュッと締まる感じ。とても安心感があります。クリップリングは無く、ブラックのキャップから短めのクリップが生えています。クリップには「SHEAFFER’S」の刻印。キャップリングは太めのゴールドリングで、こちらには刻印はありません。とてもシンプルな印象を与えています。
【ニブ/シェーファー】
続いてニブです。
とてもインパクトのあるニブ形状をしています。「トライアンフニブ」と呼ばれるペン先は少し反った形をしています。トライアンフとはチューリップの品種で、その形が似ていることから命名されました。ペン先はパラジウムシルバー合金製でカーボン転写の筆圧にも耐えるとされています。
ペン先が反っているためにペンタッチが非常にやさしく、すらすらと文字を走らせることができます。インクはパーカーのブラックを入れているのですが、パーカーブラックの濃いインクととても相性がいいように思います。軸も軽く、レポートを書いた際も全く疲れることなく書き続けることができました。日本語の止め・はね・はらいや、複雑に曲がる漢字を書くのにトライアンフニブは適していると思います。
横や斜めから見た、このニブのデザインがなんとも愛らしいではないですか!ニブの刻印は「SHEAFFER’S MADE IN USA」。さりげなくバイカラーニブなのもポイント高いです。
【タッチダウン吸入機構/シェーファー】
さて、尻軸に目を向けてみましょう。シェーファーが1950年に開発した、空気圧を利用するニューマチック式の改良型であるタッチダウン式吸入機構。
このタッチダウン式のインク吸入機構を搭載した尻軸は、継ぎ目が分からないくらいピタリと胴軸と合わさっています。この軸の一体感は見事という他ないです。尻軸を反時計回りに緩め手引き出すとタッチダウンチューブがお目見えです。
いっぱいまで伸ばしたら、ペン先をインクに浸けて尻軸を一気に押し込みます。
30秒ほどそのままペン先をインクに浸けたままにしてインクが吸入されるのを待ちます。
あとは尻軸を締めてペン先の余分なインクを拭き取り、インク吸入完了です。
尻軸を押し込んだ後しばらくそのままにするのは、押し込んだことにより中で潰れたゴムサックが復元する=インク吸入するのを待つためです。尻軸を押し込む=軸内を加圧する→胴軸の穴によって胴軸内が減圧=インク吸入という仕組みです。
尻軸付近に小さな丸い穴が開いているのはこのためなんですね。
こちらもNo22と同じく、小さな軸の中に複雑なインク吸入機構を組み込んだ傑作といえます。同じ機構を持つシェーファーの万年筆に、ペン芯からストローのようなパイプを出しペン先をインクに浸けずにインク吸入できるスノーケル式というものもあります。
ぜひこちらも試してみたいものです。
さて、今回は二本のヴィンテージ万年筆をレポートしました。
モンブランNo22は現代まで受け継ぐピストン吸入式を備えた非常にコンパクトな万年筆でした。およそ58年ほど前の万年筆ですが現在でも使用可能なこと、そして今使っても書き心地が新型の万年筆に勝るとも劣らないこと。コストを惜しまずにいいものを作ろうとした先代のクラフトマンシップが宿っていました。
一方、シェーファーのタッチダウン式万年筆も正しいメンテナンスが施されていれば、ずっと使い続けることができる一生モノの万年筆といえます。タッチダウン式はとにかくインクの吸入が簡単!尻軸を伸ばして戻すだけという快適さはやみつきになります。特徴的なトライアンフニブも堅牢な作りで筆記中も安心感があります。チューリップのようなペン先はずっと眺めていても飽きません。ヴィンテージ万年筆を使い、筆記具の歴史に思いを馳せるのも万年筆の楽しみ方のひとつと言えましょう。
それではまた。
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