日本的美しさを持つ木軸万年筆!プラチナ #3776 センチュリー ブライヤー (薄) 【ペン先比較と木軸比較】
皆さんこんにちは。
ファーバーカステルの伯爵コレクションしかりLAMY2000のタクサスやブラックウッドしかり、木軸がアツいこの頃です。木軸の魅力はその手触りと経年変化に尽きます。
今回入手した木軸は、筆記具において万年筆以外であまり見かけない素材。
万年筆以外であれば例えばボールペン。有名なメーカーでいうと野原工芸やLAMYのボールペンくらいでしょうか。(他にもあるのでしょうがパッと思い浮かびません…)
その素材とは「ブライヤー」。
ブライヤーが使われた万年筆の醍醐味は、その樹木の特徴を存分に感じることができる複雑な模様です。
万年筆でブライヤーというと思い浮かぶのはセーラーかプラチナというところでしょうが、素材の加工の難しさからか、どうも中古市場でも値段が上がりがちです。
その中でもプラチナのブライヤーは3万円台で買える比較的リーズナブルな万年筆。
ということで入手したのが…
「プラチナ #3776 センチュリー ブライヤー(薄)」
プラチナブライヤーは地中海に生息するヒース科の樹木「エリカ・アルボレア」の株にできる塊状の「こぶ」を加工して造られています。
筆記具以外では主にパイプ(喫煙具)に使われている素材ということで、個人的にですがその素材のイメージ通りに「大人の色気」や「親父っぽい渋さ」を感じる木材です。
万年筆を使う上で、また、木軸沼を通る上で一度は触れておきたいブライヤー。
今回も軸の詳細を見ていくわけですが、例によって比較を交えながらお楽しみ頂きましょう。
プラチナブライヤーのデザインとスペック
まずはデザインとシルエット、スペックについて。
ベースのデザイン、と言うよりブライヤーも「#3776 センチュリー」ですので、センチュリーシリーズに見られるオーソドックスな形状のクリップと丸い天冠、シングルのキャップリングが特徴。
ブライヤーは熱に強く硬い素材のためパイプ(喫煙具)に使われることが多いのですが、その硬さ故 加工が難しいとされています。
一般的な万年筆の形状である丸い天冠という形は樹脂だと自由に形成できるわけですが、天然素材は「削る」必要があるため実はとても造るのが難しいそうです。
ブライヤーの製品と聞いて個人的に思い浮かべるのは、よく磨かれたうえテカテカにコーティングされた姿。
一方、プラチナのブライヤーはツルテカな見た目ではなく、ツヤ消しで鈍く光を反射しています。
あえてコーティングをせず、経年変化も楽しめる仕様というわけですね。
もっとも、ブライヤーの経年変化がどのように進んでいくのか私個人としても未知の領域のため、今後が非常に楽しみです。
クリップリングの違いを#3776センチュリーブラックダイヤモンドと比較してみます。
ブライヤーがシングルリングに対して、ブラックダイヤモンドはダブル。
これは加工がしやすいかどうかという素材に由来してくる部分ですが、大きく印象は異なっています。
刻印は、
ブライヤー:「#3776 Platinum Japan」
ブラックダイヤモンド:「#3776 P PLATINUM MADE IN JAPAN」(最初のPはプラチナのマーク)
飾り文字はどちらも同じで、フォントや大文字小文字の違いが見られます。
全長の比較。
これは意外なのですが、デザインがほぼ同じのため大きさも同じなのかと思いきや、ブライヤーは146mmと結構大型な万年筆ということ。
通常の#3776センチュリーが140mmということでその差は6mm。
それでも私が所有する万年筆の中で最大の全長を誇る「プラチナ出雲 空溜」と比較すると、天冠ひとつ分は小さいですが、尻軸のカタチなどはよく似ていると思いませんか?
木軸のブライヤー(薄)とエボナイトに漆溜塗りの出雲。
クリップの格好良さは出雲に軍配が挙がりますね。ブライヤーもクリップのデザインを変えて特別感を出してほしかったところですが…。
このプラチナ#3776センチュリーのクリップを野暮ったいと感じてしまうのは私だけでしょうか。
この3本の重量は、
・プラチナ ブライヤー(薄):30g
・#3776センチュリー ブラックダイヤモンド:25g
・出雲 空溜:38g
いずれもインクが入ったコンバーターを含みます。
ちなみに他メーカーの万年筆と比べると、ブライヤーが結構大きいことが分かります。
左から、パーカーデュオフォールドセンテニアル、モンブラン#149、プラチナブライヤー、ペリカンM800。
マイスターシュテュック#149と長さと重量がほぼ同じ(軸径は違いますが)、ペリカンM800よりも全長は長めです。そして、デュオフォールドセンテニアルとは天冠ひとつ分身長差がありますね。
プラチナブライヤーの美しさは仕様とシルエットにあり
プラチナブライヤーの美しさは木軸の複雑な模様だけではありません。
それを引き立たせる日本的な美しさがあるのです。
ここではプラチナブライヤーの仕様と造形美について詳しく掘り下げていきます。
まず、通常の#3776センチュリーをはじめプラチナ万年筆と言えばキャップ内の気密性を高める「スリップシール機構」が有名。
スリップシール機構を搭載するにはネジ式のキャップである必要があります。
一方、プラチナブライヤーのキャップは嵌合式。これはなぜなのか。
嵌合式はキャップを引き抜くだけで書き始められるという機動性と引き換えに、ペン先が乾きやすいというのが通例です。
今のところ使っていてペン先が乾いていた!とうことはまだありませんが、これには賛否両論ありあそうです。
私も嵌合式よりネジ式の方が好みではありますが、ブライヤーの嵌合式(と言うより、プラチナの嵌合式)はインナーキャップ(キャップ内におけるペン先のためのキャップ)に工夫が見られます。
手元にあるもう一本のプラチナ嵌合式万年筆「プラチナ・プラチナ」には白いインナーキャップがひとつ配置されています。
▲非常に見づらいですが、プラチナ・プラチナのインナーキャップ
嵌合具合はパチンとした手応えはなく、スッと静かに固定される感じ。
▲これまた見づらいですが、プラチナブライヤーのインナーキャップ
続いてブライヤーのインナーキャップです。
これが非常に凝っていて、金属製の内装に加えて留めの付いた白いインナーキャップが配置され、外側のブライヤー(木材)の層を入れると3層となっています。
白いインナーキャップには首軸固定のための突起も。
嵌合具合もパチン!と固めで、しっかり固定されたことがよく分かる仕様。
嵌合式のメリットは機動性だけでなく、筆記時、胴軸にネジがむき出さない美しいシルエット。
私がこのプラチナブライヤーで「最大の堪らんポイント」としてひとつ挙げるとしたら、このキャップを外した時の姿でしょう。
先になるほど薄くなるペン先、美しくシェイプされた黒い首軸にやや膨らみのある胴軸から引き締まった尻軸へと流れるライン。
これはどうしてもネジがむき出すネジ式キャップの万年筆では成し得ないシルエット。
日本文化や日本人特有の奥ゆかしさが具現化されたような美しさがあります。
首軸の黒とブライヤーの独特な模様を伴ったブラウンのカラーマッチングも、使う者に満足感と落ち着きを与えてくれます。
プラチナブライヤーのキャップがネジ式ではなく「スリップシール機構」を搭載していない実際の理由は知り得ませんが、嵌合式キャップの内部を強化することで成し得た「万年筆本来のシルエットの美しさ」が理由の一つにあるのではないかと思えてなりません。
続いて軸の内部を見ていきましょう。
プラチナブライヤーはカートリッジ/コンバーター両用式。
適合するコンバーターはセンチュリー共通の「コンバーター500/700」。
現在、ペリカンのブルーブラックを入れて使用していますが、やはり様々なメーカーのインクを自由に入れ替えできるコンバーターは便利。
私のコンバーターの使い方として、インクは少量(コンバーターの半分かそれ以下)のみ吸引すること。
早めに使い切って色々なインクを試したいという理由もありますが、万一途中で万年筆を休憩させるにしても洗浄が容易であることも理由のひとつです。
また、注目したいのが軸に使われる木材の厚み。
プラチナのHPには薄く形成しましたと書かれてはいますが、薄すぎず安心感のある厚みです。
同じ木軸カテの筆記具を並べてみます。
左から、ファーバーカステルのエモーション/クラシックコレクション、プラチナブライヤー、LAMY2000タクサス。
木材という加工の難しい素材を割らずにここまで薄くくり抜いてしまう技術には毎回感心してしまいます。
手のひらに収まる小さな道具に宿る技術。筆記具って素晴らしい!!
木軸の比較は次項へと続きます。
経年変化を想像する木軸比較
手元にある木軸の筆記具を一同に集結させてみました。
木軸とひとことに言っても種類は様々です。
左から、パイロットカスタムカエデ、LAMY2000(タクサス/ブラックウッド)、プラチナブライヤー、ファーバーカステルクラシックコレクション(ペルナンブコ/エボニー)/エモーション
万年筆・ボールペン・メカニカルペンシルと種類は様々。
材質は左から、イタヤカエデ、タクサス、ブラックウッド、ブライヤー、ペルナンブコ、エボニー、ペアウッド。
ブラウンベースの木材もあれば、エボニーのように漆黒の木材もあってバラエティー豊か。
手触りもそれぞれで、これは加工や方面処理も影響しますが、いずれも温かみのある触り心地と使っているうちに手のひらの温度が優しく移るのも木軸の魅力です。
ブライヤーはこの中では赤茶の木軸でしょうか。
商品名はブライヤー(薄)ですが、他の木材と比べると濃いめの色合いです。
各木軸を拡大してみました。
ブライヤーは樹の株にできる「こぶ」ということで木目は一方向ではなく複雑に折り重なっています。
一番素直な木目がパイロットカスタムカエデのイタヤカエデとファーバーカステルエモーションのペアウッド。あとの4本は非常に高密度な樹の繊維が見て取れます。
表面にコーティングが施されているパイプ(喫煙具)のブライヤーとは違い、ナチュラルな削り出しのブライヤー。手触りはサラサラです。
これから使っていくにつれて指紋で磨かれていくのか、色はどう変化していくのか、非常に楽しみです。
筆記具は毎日使う物です。
私的にですが、木軸の筆記具は購入時は未完成(もちろんデザインとしては完成されている)で 人が長年使って表面にツヤが出てキズがつくことで筆記具として完成していくものだと考えています。
クロスを使っての日々の手入れや、たまに蜜蝋でメンテナンスすることで愛着のある一本に仕上げていきたいと思います。
プラチナ万年筆のペン先4種類を比較
今回迎えたプラチナブライヤーのペン先は、プラチナ#3776センチュリーのものではなく、中屋万年筆の14金ペン先が取り付けられていました。
ペン先をじっくり見てみます。
ベースとなっているのはお馴染み#3776センチュリーのニブ。形状や性能は同じで刻印が違っています。
この中屋ニブは旧タイプで、ニブの刻印も現行の「NAKAYA」ではなく「NAKATA」と創業者の名字が刻まれています。
現行の中屋ニブは中央のグローブの刻印以外に飾り刻印があったりと豪華ですが、こちらのニブはシンプルなプラチナのニブを彷彿とさせる富士がモチーフ。
ハート穴の形状もハート型と丸で違っています。ハート穴の位置は同じ。
こちらの中屋ニブは旧タイプのプラチナ標準ニブがベースとなっているためニブの両サイドがチェイプされています。この形が首軸のシェイプともマッチしていてなんとも美しい。
ペン芯の比較。
どちらもプラスチック製のペン芯で、形状も酷似していますが旧タイプはフィンが若干細いです。
手元にあるプラチナ万年筆のペン先は18金が2本、14金が2本。
プラチナ標準と中屋ニブは14金、出雲はプレジデントニブで18金、プラチナ・プラチナは18金ホワイトゴールドです。
▲左から、プラチナ・プラチナ、ブライヤー、出雲、#3776センチュリー
それではこの4本で書き比べをしていきたいと思います。
中屋ニブは14金の中字。
書き心地は、紙へのあたりがソフトで筆圧を加えた時の“しなり”は少なめに感じるもののクセのない素直な書き味。
何と言いますか、ニブの性能は従来のプラチナ標準と同じはずなのですが、刻印が「中屋」であるだけでこの書き味が増すような感覚…!
完全に先入観ですが(笑)、これも中屋ニブがなせる業なのでしょうか。
プラチナの標準ニブは超極細(UEF)しか持っていないのですが、ニブの形が同じかつ同じ14金でありながらペン先の研ぎ方のみでここまで書き味に差が出るという。
やはり万年筆はとても面白い筆記具だと思います。
この4本のうち3本が中字(M)ですが、線の幅や書き味は全く違います。
プレジデントニブとプラチナニブは18金のM。やはり紙へのあたりは一番なめらかで、中でもプラチナ(18K-WG)ニブの書き味は個人的には格別に感じます。
ペンポイントの柔らかさと紙の上をペン先が滑っていく心地よい感覚を味わえます。
プレジデントニブは同じMでも少し太め。
ニブにはコシがあって、筆圧をかけた場合でもしっかりとペン先が受け止めてくれる印象です。
ニブの形状が平たくなく深めの湾曲のためそれも影響しているのかも知れません。
一方、字幅は変わって、プラチナ万年筆が誇る超極細(UEF)のニブはカリカリな書き心地。
この細さ、この書き心地は万年筆でないと再現できないことでしょう。万年筆で細字を書いているという確かな実感が味わえる超硬めなペン先です。
▲書き比べ4本のペン芯形状
万年筆の中では比較的平たい形状のプラチナのニブの中字と超極細字を体験できたわけですが、自分の中で今までのプラチナ製ニブに対するイメージがガラリと変わりました。
プラチナ万年筆の14金ニブは字幅表記より若干細めで、かつ書き味は柔らかい。
同じメーカーでも様々な太さ・種類のペン先を使うことで新たな発見があります。
プレジデントニブの中字と標準ニブ(今回の中屋ニブ)中字の書き味の違いも、書き比べすることで分かることがあってとても面白かったです。
赤色の誰かさんではないですが、ニブ形状の違いが書き味の決定的な差であることを思い知らされました。
※書き味の感じ方は人それぞれだと思いますので、参考程度に読んで頂けると幸いです。
さて、今回は「プラチナ #3776 センチュリー ブライヤー(薄)」の使用レポートをしてきました。
ブライヤーという素材の変化の楽しみはまだまだこれからですが、それ以上にプラチナ万年筆の書きやすさをまたひとつ発見できて嬉しい収穫でした。
中屋ニブというのもちょっと変わっていて面白い一本です。
それでは今回はこの辺で。
最後までお読み頂きありがとうございました。
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